トムプロジェクト

2025/10/01
【第2091回】

今日から神無月。八百万(やおよろず)の神々が、この月に出雲大社に集まり他の国にいないゆえと考えられて来た。また、雷のない月の意とも、新穀により酒をかもす醸生月(かみなしづき)の意ともいわれる。あらためて日本語の含蓄の深さを感じます。

京王井の頭線車内のある日の光景。ひとりの70歳前後のオッちゃんが乗り込み着席するやいなやスポーツ新聞を目の前で拡げる。隣の若いお兄ちゃんなんとも迷惑そうな表情でオッちゃんの方に目を向ける。オッちゃん意に介せず、新聞を凝視し時には笑みさえ浮かべる。そういえば、昨今、新聞を車内で読んでいる人は皆無に近い頻度になりましたね。昔はプロ野球のごひいきのチームが勝利すると、その喜びを再度かみしめるために駅の売店でスポーツ新聞を購入し、嬉々とした表情を見るのが日常茶飯事でございました。熱狂的なファンは、新聞記事を切り抜きファイルに納め宝物のようにしていました。

おいらが応援しているライオンズ、今年もポストシーズンに出ることができませんでした。

6月までは一応夢を見させていただきましたが、何せバッターが打てません。おんどりゃ、なにさらしとんねん!と喝入れたいシーンばかり見せられるとこちらもなえてしまいます。

その憂さを今日も大谷選手のホームランで晴らさせて頂いています。ポストシーズン最初の試合で何と2本のホームランをかっ飛ばすんですから、もはやマンガの世界も越えていますね。明日は山本投手の出番、ドジャース、日本選手の活躍で2年連続ワールドチャンピョンまで昇り詰めることができるかな?

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なんとなく秋

2025/09/29
【第2090回】

演劇群「走狗」の主宰者、関口瑛さんが亡くなり、なんとなく当時の資料を探してみたら

こんな一文が見つかった。1976年に第6回公演として上演された、空飛ぶお座敷南下飛行「空賊」博多公演に向けての檄文である。

 

私たちは、旅公演につきまとう<東京―地方>といった問題のたてかたは全くないし、私たちのリアリティだけで旅公演がやりおおせるとも考えていない。公演地の先々で出逢った人びと、これから出逢う人びとと、どういう関係をとり結べるかー結べないか、そこにかかっていると思う。ほとんど無名である私たちの側がなし得ることは、私たちのつくる舞台空間の凝縮度そのものでかかわる以外にない。私たちの博多公演に時間をさいてくださった何人かの方がたも、それが大きな拠りどころであろうと思う。

いうまでもなく私たちは、単に芝居が好きだからだとか、役者をやるのが面白いからとか、なんか変わったことをやってみたいからといった自己満足や趣味性をたちきって、私たちがしばいを続けていることの意味や意志をみつめながら舞台にむかっている。いいかえれば生活圏のなかでしいられる、愛憎の対象やしぐさの固着・抑圧・馴れ合いを激しく嫌って、やみくもに流れ、ひたすら淀んでいる今日的な状況から演劇表現へ出立しようとしている。私たちも又、生活日常から自由ではなく、であればこそ、生活圏からの、あるいは生活圏への反撃というしがらみのなかにしか契機もゆくえもない。更にいうなら、それが演劇集団のしばいをつくりあげていくエネルギーや共同性に裏打ちされた表現でなければならないと思うし、めざしているのが私たちの現在位置であるといえるだろう。

                                作・演出 関口瑛

 

いつの時代も、自問自答しながら演劇人は日々思案に明け暮れています。そして、いかに凝縮度の高い舞台空間を提示できるか!瑛さんの思いも含めてやる続けていくしかないですね。

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1976年「走狗」公演チラシ

2025/09/26
【第2089回】

週明けの今日は暑さが戻ってきましたが、やはり秋の風が猛暑を和らげている感じがします。一昨日、演劇群「走狗」の戦友から主宰者であった関口瑛氏の訃報の知らせがありました。おいらの青春の一ページでもあった仲間がここ数年で5人も旅立ちました。皆、貧しかったけれど芝居に対する思いは誰よりも負けない志を抱いていました。主宰者の瑛さんは早稲田小劇場を見切って「走狗」を立ち上げました。主要メンバーは元早稲田小劇場に在籍したメンバー、おいらは旗揚げの二作目から参加し7年間疾走し続けました。最初は早稲田にあったクリーニング屋さんの二階の空間で公演していたのですが、当時テント芝居で話題になっていた唐十郎率いる「状況劇場」に刺激を受けテント芝居をやることになりました。日本全国津々浦々、トラックにテントを乗せ、その片隅に固まるように違反乗車しながら、それはそれは苦闘の日々でした。でも、芝居をやれる、そして待っている人が居るという思いから乗り越えることが出来ました。そんな集団をまとめる瑛さんは大変だったと思います。集まった連中が個性プンプン、一筋縄ではいかない曲者揃いときたもんですから、知性溢れる瑛さんもさぞかし頭を悩ましたに違いありません。旅の途中での喧嘩は当たり前、過酷な旅行程のなかで高熱にうなされ「もうダメです...置き去りしてください!」なんて戦時中の兵士みたいなことを言う者もあり、芝居よりも劇的なシーンに彩られた旅公演の連続でした。

そんな戦友が亡くなる度に寂しい気もしますが、あの日あの時、共に酒を酌み交わし演劇に向き合いキラキラ輝いた面構えは今でも鮮明に覚えています。そして戦友が叶えることが出来なかったことを命ある限りやれればと思っています。

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1973年「走狗」メンバー
前列中央が瑛さん

2025/09/24
【第2088回】

昨日は池袋東京芸術劇場で、あやめ十八番第十八回公演「草創記 金鶏一番花」を観劇。

テレビジョンが誕生する過程のなかに当然遭遇する戦争、そして歌舞伎の世界。三つのテーマをめまぐるしい場面展開ながらもうまく纏めてることに感心しました。この劇団の主宰者が、15年劇団花組芝居に在籍していたことも芝居の内容をよりリアリティをもたらしている。それにしても総勢24名の出演者、しかも音楽は生演奏、随分とお金がかかってる芝居と見ましたが...そうなんです、人件費、材料費、劇場費などなどすべて値段が上昇している昨今、演劇の世界もギブアップの状態。トムもギリギリの値段設定で何とか凌いでいます。文化に理解があるヨーロッパと違い、この国のアートに対する理解度ははなはだしく低いものがあります。アートの泉が枯渇した時、間違いなく国は滅びの道を辿るでしょう。

昨日の芝居も正直そんなに期待していなかったのですが、演劇を愛する心情が随所に観ることができ幸せな気分で劇場を後にしました。東京芸術劇場は東京都が運営する劇場ですから、こうした若手の劇団を応援しこれからの演劇界を背負ってたつ演劇人を育てて欲しいものですね。

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久しぶりの東京芸術劇場

2025/09/22
【第2087回】

先週の週末は世田谷パブリックシアターで唐十郎作、金守珍演出「愛の乞食」「アリババ」の二本立てを観劇。この芝居の主人公を演じるのが安田章大(旧関ジャニ∞)ということでいつもの演劇観客層と違って、若い女性層を中心としたリピーター客が多数駆けつけていました。あの難解な唐戯曲をどのように観ているのか興味がありますね。そこは唐十郎に師事していた金守珍がケレン味たっぷりにエンタメに仕上げているので飽きさせない構成になっていました。亡くなった蜷川幸雄も唐さんの作品を見事なまでに見世物興行として長年公演していました。演劇史上世界的にも類を見ない唐十郎の世界に手を変え品を変え挑戦してきた演劇人に拍手を送ると同時に、どうしても辿り着けない特権的肉体論(訓練された普遍的な肉体としてではなく、各役者の個性的な肉体が舞台上で特権的に「語りだす」ことを目指した演劇論)に回帰してしまう自分がいます。

今回「アリババ」に風間杜夫が出演していました。2021年、72歳に新宿梁山泊でのテント芝居に初出演してから唐戯曲4度目の舞台。今回の出演者の中でも最年長者、8歳の時に児童劇団に入団し子役として活躍してから途中辞めた期間も入れて68年の芸歴。そりゃ人間として芸人として個性的な匂いはプンプンしますがな...奇妙奇天烈なヘアースタイルで舞台上を闊歩する杜夫ちゃんの芝居に、昨年亡くなった唐さんもなんとなくニンマリしてたような気がしました。

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ようやく秋の気配

2025/09/18
【第2086回】

今日は1931年に満州事変が起こった日である。関東軍の策略、暴走で日本が大戦に突き進んでいくきっかけになる。そんな節目の日はいつまでも記憶しておきたいものである。

それにしても暑い。そして自民党次期総裁をめぐる報道も熱い。なんだか去年の争いの繰り返しじゃないのかと呆れているのだが、メディアで自分の意見を喋る前に先ずは国民に対し参院選挙後に政治空白をつくったことを謝罪するのが常識だと思う。候補者5人揃って誰一人として常識人が居ないところがなんとも政治屋らしい。次期総裁に有力視されてるイケメンさんは当初の画期的な意見も口チャックし、なんだか前首相と似てきたみたい。

世界に目を移せば、イスラエルのガザへの攻撃がまさしくジェノサイド。この窮状に対しパレスチナを国家として認める動きが活発化しているのに、日本は当然のごとくアメリカさんのお許しを得ないと身動きできない状態でございます。政治はさえない、給料は上がらない、物価は下がらない、ないないづくしの我がニッポン、どうすりゃよろしいんでしょうかね?そこの若いお兄さんSNSばっかり眺めていてもちっともよくなりませんことよ。

先の都知事選で若者のハートを捉えた方が結成した「再生の道」、新代表が発した言葉 「新代表はAIになります」 AIが今後、党の代表として意思決定をすることで、国民の政治参加を広く促していくと...なんじゃこれ?おいらの頭が古いのかな...いや、あちらが?

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今日は曇天

2025/09/16
【第2085回】

先週末、久しぶりに新宿ゴールデン街に顔を出しました。相変わらず8割の外国旅行者でごったがえしていました。日本人を見つけるのが困難な状況が続いています。この日は半世紀以上通う「がルガンチュア」、ロシア語が堪能で毎年新宿紀伊國屋ホールでのコンサートを催している石橋幸さんが53年経営しているお店。この店にも入店持には中国の二人連れ、映画のプロデューサーやっているとのこと。習近平体制の現状なんかを聞きたいところだが、そうは簡単に正直に話してくれるはずはない。連れの女性もなんだか怪しそうな雰囲気、日本語が達者な彼のそつなく喋る話を聞いていました。彼らが店を出ると同時に、今度はロシア人が入店。これまたプーチンのことを聞いてもノーコメントに近い答えが返ってきそうな雰囲気でございました。それにしても皆、日本語が達者。もはや新宿ゴールデン街は、情報収集スパイグループの格好の場になっているのかもしれませんぞ。

連休明けの東京、相変わらずの猛暑。なんだかこの暑さ10月まで引きずるなんてこともあるそうだ。春と秋が近い将来無くなるなんてことも十分あり得そうな状況、春夏秋冬なんて響きが良い言葉も死語になるなんてこと考えると寂しいもんでございます。

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もはや外国

2025/09/12
【第2084回】

昨日は下北沢ザ・スズナリで渡辺哲ひとり芝居「カクエイはかく語りき」を観劇。この作品は水谷龍二作・演出で初演は2006年。2018年に再演し7年振りの再々演である。今年75歳になった哲さんの渾身の演技、初演も拝見したのですがメリハリがつき、田中角栄という稀代の政治家の人間性がより鮮明に表現されていたと思います。哲さんはトムの芝居にも3回ほど出演していただきました。あの独特の風貌と、東京工業大学工学部を中退しシェイクスピア劇団を旗揚げしシェイクスピア劇37作品に参加という異色の経歴。黒澤明監督の「乱」で映画デビュー、その後、映画、テレビ、舞台と数々の作品で個性あふれる演技で独自の位置を確立。181cmの大柄な体格で柔道2段、強面ながら笑顔がとってもチャーミングなんです。あの笑顔を見せられるとすべてが許される気にさせてくれるんですから...これも役者にとって大きな武器だと思います。

2011年にトムで上演した渡辺哲ひとり芝居「校長失格」では哲さんの故郷、愛知県常滑市でも公演しました。幼馴染、友人、知人が大挙押し寄せ満杯のホールでの哲さんの精魂込めた芝居は今でも忘れることが出来ません。役者である前に、一人の人間としてどれだけ信頼され愛されているかを目のあたりにした時間でもありました。

この日の角栄の語りの途中に雷鳴が轟き、効果音にしてはおかしいなと思いきや、劇場の外はとてつもない豪雨、久しぶりにびしょ濡れになってしまいました。劇場に入るまではいつものカンカン照り...この時代ホンマに一寸先は予測不能でございます。

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テツかく語りき

2025/09/10
【第2083回】

昨日は、相模原演劇鑑賞会主催による「鬼灯町鬼灯通り三丁目」を観てきました。それにしても小田急線沿線の街は皆再開発で大型複合施設が建ち並び、都内に出かけなくともすべて賄えるのではないかという発展振りです。ショッピング、食事、娯楽施設、それはそれは立派な店ばかりです。新しい建造物ばかりで、新宿が霞んでしまうほどのモダンシティといったところかな。

昨日公演した相模原南市民ホールはキャパ400人のホールで、東京公演に比べて舞台も広く鬼灯が咲き誇る舞台がより鮮やかになっていました。明りも映え、役者の動きもより大胆に伸びやかに演じていました。5日ぶりの舞台ではあったのですが、さすがプロの役者、また一段と上質な芝居になっていました。ホールを後にするお客様の満足気な表情を目のあたりにするたびに、芝居をこよなく愛する人たちに感謝すると同時に、次回も喜んで頂ける作品を届けねばと気が引き締まる思いでした。

それにしても、相模原演劇鑑賞会は事務局長を筆頭になんとか演劇人口を増やそうと日夜奮闘している姿にただただ頭が下がる思いです。芝居を観てくださる人達があってこそ30年間芝居を継続することが出来たトム・プロジェクトでございます。

今回の芝居、9月20日(土)山梨県富士吉田市ふじさんホールでの公演を残すのみとなりましたが、この先どこかで必ず上演される作品だと信じています。

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鑑賞会手作りのれん

2025/09/08
【第2082回】

辺見庸「入り江の幻影」、小川洋子「サイレントシンガー」読了。硬派の辺見さん、相変わらず強靭な精神力、そして不自由な身体で軽佻浮薄なこの時代に強いメッセージを綴っています。しかしながら、どこか地球滅亡に向かっている現況にほぼ諦めの思念さえ感じます。そして、もう一度ニンゲンとしての原点に立ち返って、やり直す、考え直すしか再生の道はないと問いかけています。

小川さんの6年振りの400枚の長編作。どこの国なのか、どの時代なのか、全編を通じて不安のなかで物語は進行していくのだが、何故か安らぎを覚える展開に作者の文学として成立させたい思いを感じる。話の中に詩的なるもの、音楽のもたらす効果を巧みに差し挟みながら最後まで読ませる才能に改めて感心いたしました。

日本人の本離れが急速に進んでいます。大学生1日当たりの読書0分が4割を超えるなんて数字が出ています。読書時間ランキング、日本は世界で29位。多くの学生がスマホでニュースサイトをみたり、友人と情報交換したり、ライン、ツイッター、フェイスブックとにらめっこ状態。確実に、この国の未来に赤信号が点滅していること間違いなしです。

おいらの住む地域でも41年間営業していた本屋さんが閉店しました。このお店は大型書店とは一味違って、埋もれた出版社の名著を店頭コーナーに集め独自の商いを続けていました。最後のお別れの言葉が「街の本屋では食べていけない...」そんな時代になったことに危機感を感じます。

本を読むことによって、真の豊かさを獲得することの意義をもう一度考え実行してみませんか皆の衆。

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おつかれさまでした

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