トムプロジェクト

2026/04/27
【第2173回】

先週の土曜日は浅草橋にあるルーサイトギャラリーで、語り芝居「海神別荘」を観てきました。このギャラリーは戦後すぐに建てられた民家で、2001年秋、昭和の流行歌手『市丸(江戸小唄の市丸姐さん)』の隅田川沿いの屋敷を改装し、骨董店としてオープンしました。隅田川をバックになかなか趣がある場所です。ここ柳橋は、江戸時代から続く格式の高い花街でしたが、時代の波には逆らえず、街から料亭や芸者が消えていきました。この歴史ある街に文化の匂いを残したいということでいろんな催しをやることになったそうです。

今回の語り芝居は泉鏡花の作品。自分が生きてきた世では必要とされなくなった美女が、海底宮殿の主、公子に請われ、海の中で妃になるというストーリーです。

泉鏡花作品の特徴は、夢と現実、生者と死者、現世と異界の境目がいつも繊細かつ微妙に揺らぎながら進行していきます。その点では語り芝居というところに目を付けた今回の脚色・演出を担当した鳥山昌克の着眼点は良いのでは...物語と一緒に、不思議な体験に巻き込みながら、いつのまにか、これは現実なのか、幻なのか?という感覚に誘い込まれていきます。夢か幻か...唐十郎に長年師事した鳥山昌克だからこそ実現しえた語り芝居かもしれません。

終演後、テラスから眺める隅田川に行き交う屋形船、遠くに見えるスカイツリー、これもまた鏡花の世界に視えてくるのも不思議だ。

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ル―サイトギャラリーのテラスから

2026/04/24
【第2172回】

いやいや、こんなこと許されていいんでしょうかね?殺傷能力がある武器をいよいよ輸出可能になりました。武器輸出の制限は、専守防衛、非核三原則とともに、戦後日本の平和主義の根幹をなしてきました。1967年に武器輸出三原則を打ち出して以降は、事実上の全面禁輸が国是になってきていたのに...1976年の国会審議で、後に首相となる当時の宮沢喜一外相は武器輸出三原則を巡り「わが国は兵器を輸出してカネを稼ぐほど落ちぶれていない」と自民党の中にもまともな人が存在したのだが、今の首相は「時代が変わった」の一言で切り捨ててしまいました。ウクライナ、ガザ、イランなどでの悲惨な光景を日々目にしながら人の命の大切さに鈍感な政治家にNOを突きつけたい。日本は昨年、当時の指針に基づき航空自衛隊の地対空誘導弾パトリオット・ミサイルを米国に輸出しており、米国に再び輸出を求められた場合、国際法に反する戦争に使われる懸念を否定できません。

世界で唯一の被爆国である日本だからこそできることは沢山あるはずです。資源もないこのちっぽけな国が、何とか世界の国々から少なくとも何とか友愛の気持ちを持たれているのも平和外交が基本にあったからです。とにかく、数の論理を盾にしてあのおかしな大統領の「力による平和」なんてものに巻き込まれることだけは絶対に止めて欲しい。

昨日も新宿で市民団体の方々が、戦争を止めて欲しい!との願いから街頭演説とビラまきをやっていたのですが、ほとんどの人達がビラを受け取ることもなく素通りしていました。

ほんまに対岸の火事ではございませんことよ...いつのまにか銃を手にして戦地に行かなきゃならないなんてことも十分あり得ます。

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マルつつじ
道行く人も
なごみ顔

2026/04/22
【第2171回】

昨日は、第7回サポーティングマギーズ・チャリティ―ステージ「ひびけ心に声音と音色」の催しを観に紀尾井町サロンホールに行ってきました。マギーズセンターとは、がんを経験している人とその家族や友人、医療者など、がんに影響を受けた人が戸惑い不安が生じた時に第二の我が家の様に訪れることが出来る居場所として設立されました。運営費は寄付、その他の協力によって無料で運営され、毎月500人~600人が利用されているみたいです。

今回の催しに大和田獏さんも賛同し、この日は小泉八雲作「耳なし芳一」を朗読しました。パーカッションも含め獏さんが楽器を用意し、自らの演奏で八雲の世界を表現しました。

この朗読劇というシロモノ実はなかなか手強いやつなんです。おいらも過去に何度も体験していることなんですが、実際途中から睡魔に襲われクビ落ちしてしまうこと度々。声だけで観客を惹き付ける技がないと惨憺たる結果が待ち受けています。

昨日の獏さんの「耳なし芳一」は絶品でした。登場人物を使い分ける声色、間合い、勿論、声質の心地良さとリズム感、すべてハナマル。場の情景が、聞く側の想像力を喚起して思わずその場に居合わせている臨場感に包まれ大満足の朗読劇でした。

表現者たるもの、やはり芸は大切ですね。シンプルになればなるほど巧緻、緻密な芸が問われます。勿論、人として生きてきた生き方も含めてのことですが。

久しぶりの紀尾井町、東京の中心部でありながら街の佇まいに歴史と文化の香りが漂っていました。道行く人もなんとなくこの街に馴染むかのような姿で歩いていましたね。ノラちゃんのおいらも郷に入れば郷に従えってことでちょいと気取って歩いてみました。

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シャクヤクの
大輪紅き
駅へゆく

2026/04/20
【第2170回】

先週の週末は日比谷で「ハムネット」を鑑賞。芝居屋にとっても大変興味ある作品でした。以前にも「ノマドランド」でアカデミー賞をとったクロエ・ジャオ監督の最新作である。16世紀イギリスの片田舎、ウイリアム・シェイクスピアの妻、アグネスの物語である。アグネスを演じる女優ジェーシー・バックの演技が圧倒的である。熱演を感じさせない自然体の演技は絶品。いや、これは演技ではなく表現者としての彼女が役に憑依し、いままさにその時代に生きている姿を曝け出している凄さだ。繊細で彫の深い人物であり、知的で哲学的なのに庶民的な味わいを十分に感じさせてくれる。臨月の彼女が大樹の根元に横たわり、大自然と交歓する宇宙的なシーンは詩情あふれ心に染み入る。

ジャオ監督の清楚で巧緻な語り口がドラマの進行をより密にしている。義父母との葛藤、子育て、子を失い打ちのめされ悲嘆にくれそれに耐える情感の濃密さに立ち会うだけでもこの映画を観る価値があると思う。終幕グローブ座で上演される「ハムレット」がこの映画を締めるに値する印象的なシーンでもある。

愛と喪失、このテーマは人間誰しもが経験することだが、こうして映画を通して魅せられると改めて芸術が持つ効力の凄さを感じてしまう。当たり前の感動ではなく、身体の中に深く沈潜するジャンルの作品に遭遇したときこそ心から拍手を送りたいものだ。

残念ながらこの日本では、この類の作品を企画し演じる女優がいないのが寂しい。キレイキレイばかりが女優ではありません。己の生きてきた全てをさらけ出しもしないで何の演技なの?皺の一つも生きた貴重な証ですよ。

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ほとぼりが冷めないシネマ

2026/04/17
【第2169回】

最近の若いグループで気になっているのが「新しい学校のリーダーズ」。まずはグループ名がいいじゃないですか。セーラー服を纏いながら何となく昭和の匂いを醸しながら意志を感じる歌詞と、歌唱力十分な歌いっぷりと斬新な踊り♪見ていてこちらまで元気を貰えます。

ここ最近、多種多様なグループが出現しましたが皆一様に歌詞がこちらに伝わってきません。なんだか皆ミャーミャーと何の感情、意志を伝えることなくおままごとのステージに思えてしまいます。若い人から言わせれば、「おっちゃん、今の流行りについて行けないんじゃない?」言われかねないと思いますが、おいらの音楽試聴歴は半端じゃございませんことよ。クラッシックから始まり、ジャズ、ロック、フォーク、歌謡曲、ボサノバ、タンゴ、シャンソン、前衛音楽、邦楽、そして浪曲に至るまでほぼ網羅してるつもりです。おいらの好みはあるかとは思いますが基本的に時代を問わず良いものはしっかりと支持してきました。

表現の関することは、まずはこちらにハートに刺さらないものはどうしてもパスしてしまいますね。

なんたって残された時間は限られてますから...そんなわけで断捨離も始めてます。最近メルカリにも出品しています。主に本、CDなんですが、このシステムの良いところは欲しい人においらが愛用していたモノが継承されることですね。見知らぬところで見知らぬ人がおいらが読んだ本を手にし、何度も聞いた名曲を耳にしてると思っただけでなんだか嬉しくなっちゃいますね。

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菜の花の
どこで咲いても
よき黄かな

2026/04/15
【第2168回】

馬鹿垂れトランプのお陰で世界はてんやわんやの大騒ぎ。ガソリンはもとより、日常生活に欠かせないポリエチレン素材で作られる包装材や容器の値段が上昇し物価高に直結。

そういえば昭和の20年代頃、博多末広町の長屋の路地に豆腐屋さんのおじさんがリヤカー引っ張ってとうふ〜ェ、とうふ〜 という掛け声とラッパを吹きながら売りに来てましたね。おいらは鍋をもって買いに行くとおっちゃんが汚い手で丁寧に豆腐をすくって鍋に入れてくれました。卵だって、おがくずの上にバラでならべていたやつを適当に選び新聞紙にくるんでもらい手提げ袋に入れてもらっていました。その店の近くに酒屋があり、酒好きな父に頼まれ量り売りの酒を買いに行くのがこれまた嫌でした。早い時間からの立ち飲みで、働きもせず酒飲んでいるおっちゃんの赤ら顔と酒の臭いで「坊主えらかね、父ちゃんの使いばしよって...」の掛け声も励ましの言葉には聞こえませんでした。

そんなこんなで、昔は持参のものを手にして買い物をしていました。今やすべての品物が見事なくらいの包装で店頭に並べられているのが当たり前。流通の発達により当然のことと言いながら、この先油が入ってこなくなった時を考えれば昔の風景が再びなんてことを考えちゃいました。

この季節、散歩日和でございます。何も考えずにちんたらと歩いているだけで幸せな気分になってきます。暑くもなく寒くもなく、心地よい風が吹いて、澄み切った青空に、白い雲がふわふわと浮かんでいる光景を眼にしているだけで心身がとろけてしまいます。

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八重桜と新緑

2026/04/13
【第2167回】

今週も夏模様で始まりました。昔は寒い季節がゆるみ、春風と共に一番良い時期だったのにいきなり暑くなっちゃって情緒も心地よさもなくなってしまいましたね。

昔から会社運営を円滑にする法則として「ほうれんそう(報告・連絡・相談)」という言葉があります。最近、若者の間で話題になっているのが「ちんげんさい」なんじゃらほい?調べてみると「沈黙する」「限界まで言わない」「最後まで我慢」の頭文字をとった合言葉らしい。つまり、自分の方から積極的にコミュニケーション状態をつくらない。この時代、体感的なるものを避け、様子を見ながら行動するタイプが多いのも事実だ。若い世代ほど、嫌われないことに神経を使うあまり、上司、先輩が忙しそうだと話しかけることに躊躇し、仕事の失敗によりチームから外されることを心配しギリギリまで抱え込んでしまう傾向にあるという。叱られることより、嫌われることを極端に恐れている。

こんな時代、管理職のおじさんたちも大変苦労しているらしい。人格なんて通用しなくてスキルを身に付けて行動する演技力が欠かせないものになっている。でも演技力がこれまた大変難しいときたもんだから困ってしまいます。そこで管理職の間にもこんな合言葉が誕生しました。「おひたし」、怒らない、否定しない、助ける、支持するの頭文字。

いやはや、人間関係が一番難しい、やっかいということで都会から新潟の山奥に引っ越した夫婦の話が、昨日の「ポツンと一軒家」で放映されていました。いずれにしても生き抜くためには一筋縄ではいかない時代になりましたとさ。

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光を透かす若葉

2026/04/10
【第2166回】

昨日は渋谷にある東急シアターオーブで「メリーポピンズ」を観劇。いやいやお金かけていますね。チケット代¥16500も仕方がないと言ったところですか。先ずはハリウッド映画でヒットし2004年に舞台化されました。日本では2018年に初演以来、今回が3度目の上演です。今回も英国クリエイティブチームとの綿密な対話を通し、表現の細部に至るまで研鑽を重ね創り上げたそうだ。それにしてもチェリー・ツリートレンの空から舞い降りるメリーポピンズのシーン、バート役が壁と天井を逆さに歩くシーンは冷や冷やもんでした。事故が起きれば役者は大怪我もしくは即死、まさに命懸けの演技でございます。

アンサンブルの人たちの一糸乱れぬダンスと演技を観ながら、いつか自分もメインで呼ばれる日を夢見ながら奮闘しているに違いない...ここが役者の道を選択した者の踏ん張りどころでございますので頑張ってと応援したくなります。

トムの芝居に出演して頂いている島田歌穂さんさすがでした。前半のバードウーマンの役では<鳥に餌>を絶唱、後半ではがらりと違ったインパクトあるミス・アンドリュー役を実に個性的でありながら、これでもかという徹底的に楽しみながら演じていました。

おいらがミュージカルを観劇して、いつも思うことは歌、踊りに力を注ぎすぎ肝心の芝居の部分が疎かになっていないか?つまり演じる側の内面に思いを巡らす分野にもっと心眼をそそいで欲しいということ。

歌穂さんがトムの「モンテンルパ」で、渡辺はま子役を演じて5年になります。再演を重ねるたびに歌穂さんの役作りの振幅度に役者魂を感じていました。昨日のミュージカルを観ながら改めて演じることの難しさ大切さを感じた次第でございます。

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時にはミュージカル

2026/04/08
【第2165回】

NTTが発行していた紙の電話帳「タウンページ」の発行が3月末で終了となりました。

感慨深いものがありますね。トム・プロジェクト立ち上げに際し大活躍したのが「タウンページ」でした。池袋のミニシアターで1994年に立ち上げた、岩松了作・演出による片桐はいり一人芝居「ベンチャーズの夜」を全国展開しようということになり電話作戦を敢行。演劇をやりそうなところを探すには全国のタウンページが必要不可欠ということで、当時新宿に構えていた事務所の一番近いNTTに出かけ、日本全国都道府県の冊子を借りる交渉に成功、チャリンコで10往復して事務所に運んだ記憶が懐かしい。チャリンコの前かごに溢れんばかりの冊子を何とかふらつきながら運んできました。演劇団体、公立の会館、演劇サークル、放送局などなど徹底的に調べ上げ3人で電話をかけまくり、興味があるところに資料を送り続けました。よしゃ!やったるでの気持ちさえあれば苦にならないどころかメラメラと燃えてくるもんです。おいらは昔から、人と同じことしていても面白くないという性癖を持っているのと、昔読んだ米沢藩主・上杉鷹山の歌「なせばなるなさねば成らぬ何事も」を妙に気に入っていて、即行動に移せば吉が出ることも十分予測できました。

資料つくりも狭い事務所で男3人、封筒に入れるペーパーを折り曲げるのにビール瓶を使いながらの細かい手作業。作業終わった後、近くの町中華での餃子とビールの味も忘れることのない思い出です。

おいらの勘ピューターはズバリ的中、最初の芝居は全国200ステージ近く上演し、夢を吐き続ける基盤を作ることになりました。本当にありがとうございました、そしてお疲れさまでした「タウンページ」様。

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ひっそりと咲いてます

2026/04/06
【第2164回】

ウクライナ東部ドネツク州の港湾都市マリウポリにあった「ドラマ劇場」が2022年3月のロシア侵攻により破壊されて4年が経ちます。その跡地に昨年12月にロシア当局がそっくりな形の劇場を建てたというニュースが流れました。その知らせを聞いたドラマ劇場の劇団員たちは皆そろって恐怖を感じ「建てるべきは鎮魂碑、彼らは殺された人々の歴史を消え去ろうとしている」と怒りをあらわにした。

生き残った劇団員は、「ドネツク州立マリウポリ・アカデミー・ドラマ劇場」という名で、マリウポリから直線距離1150㌔離れたクライナ西部の街ウジホロドで活動している。

避難後2024年3月には、当時劇場内で避難生活をした5人の俳優の証言に基づいた戯曲「マリウポリドラマ」をキーウで上演。その後、英国、ドイツ、イタリアでも巡演。稽古中には、俳優たちがリハーサルで自分の極限の経験をそのまま演じることに耐えられず、泣き叫ぶシーンはカットせざるをえなかった。

同じ演劇人として、この困難な状況下の中でも芝居を通して戦争の不条理に対し屈することなく闘ってる姿に頭が下がる思いだ。ロシアと言えば文学、演劇、バレエ、絵画などなど芸術の一等国としての歴史を持つ国として一目置かれた国であったはずだ。独裁者を選んだ国のその後はこれまでの歴史が証明しているのに、そしてアメリカ然り...力のある者が他者から奪う世界になっていいのか、正しいことをしている人たちが報われる時代が一刻も早く来て欲しいものだが...微力ながら、芝居屋は演劇を通して矛盾を正していくしかない。

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井の頭線高井戸駅

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