トムプロジェクト

2026/02/13
【第2143回】

先週、今週と2本の芝居を観劇。1本目は、宮原奨伍プロデュースつかこうへいを知る旅「熱海殺人事件」。新宿紀伊國屋ホールを借り切って5日間の公演。個人で興行するには大変な負担だったと思います。しかも宮原さん、もう一つの演し物「売春捜査官」にも出演しているのでこれまた大変。彼が尊敬してやまないつかこうへいの世界を表現者として勝負すると同時に、人間が生きることにフォーカスし続けた作家に対するオマージュを込めての企画だったと思います。その意気込み宮原さんの立ち姿で十分伝わってきました。速射砲のように語られるつか台詞を劇場に足を運んでくれた観客に、心の鍵を外し蓋をあけ感じて欲しい...つかこうへいが今だにあちらこちらで上演する所以が分かる気がします。

2本目は、糸あやつり人形一糸座による「人造人間の憂鬱」、作・演出は劇団桟敷童子の東憲司。今から50年前に、代々木にある小劇場で初めて見た「江戸糸あやつり人形結城座」の記憶は今でも鮮明に覚えています。この劇団は今年で旗揚げしてから390年になります。役者と人形が同じ空間で競演したり、人形遣いが人形を使う傍ら生身で役を演じたり、まさしく人間と人形が劇構造の中で格闘する様は観客の想像力を喚起するに十分なものがあります。

今回の一糸座さんは、結城座九代目孫三郎の孫、結城一糸によって旗揚げされた劇団です。

古典芸能と現代を疾走する劇団が融合し、新たな作品を創ろうとするエネルギーが舞台上で錯綜していました。繊細な糸を操り、人形に命を吹き込もうとする役者の一挙手一投足がなんともスリリングでもありました。

2143.jpg

1935年の新宿駅
(木村荘八による油彩画)

2026/02/12
【第2142回】

選挙、雪降る日に友人「高橋美智子を偲ぶ会」が市ヶ谷で開催されました。1986年に、当時はまだ食前酒程度の認知しかなかったシェリー専門のレストラン「しぇりークラブ」を銀座の一等地にオープンした関係でNPO法人シェリー・ソサエティ・ジャパンの主催でした。

ミーコとは今から45年前に演劇群「走狗」で出会いました。政治、文化を含めて混沌とした中、テントを担いで全国各地でアングラ芝居に没頭した日々。ミーコは当時アングラ演劇界の中ではヒロインとして絶大の人気がありました。小柄でチャーミングでありましたが、芝居の話になると一筋縄ではいかない論客で、なみいる男どもを圧倒的熱量で論破していた記憶があります。

そんなミーコが何を思ったか、おいらが好きなスペイン関係の店をやりだしたというので早速出かけてみると、なんとスペイン放浪中に寝酒として愛飲していた「フィノキンタ」がならんでいるではないか!ミーコとはまさしく以心伝心、ここでまた同志的親近感を感じた次第です。その後、この店も話題になり多くの知名人が来るようになり人気店として大繁盛。ミーコの勘も芝居同様なかなかのものでしたね。

それにしても「走狗」の仲間が次から次へとあちらの世界に逝っちゃいました。今頃、主宰者であった関口瑛、舞台美術の島次郎、昭和天皇を演じた田島恒、音楽担当の伊深宣と一緒にミーコの音頭で「サルー」(スペインでの乾杯)の掛け声でシェリーでも飲んでるかもしれませんね。

2142.jpg

2142-2.jpg

ミーコにサル―

2026/02/09
【第2141回】

何ですか?今回の選挙。そりゃそうだよね、これまで原発ゼロ、辺野古基地反対、安全保障問題など一貫していた主義主張を引っ込めて、安易としか言えない新党を作った政党が惨敗するに決まってますよね。この件に反対して出て行った人が一人というのも訳分かりません。政治家の命は政策ですから、選挙直前に自らの政治信条を捨てたことに対する選挙民の選択は厳しかった。それにしても、大勝ちしたおばさんしたたかですね。そして、あのきつい表情と、はっきりした物言いに旧態依然とした政治屋にへきへきしていた多くの若者たちが一票を投じた構図も理解できます。がしかし、熱狂ほど怖いモノはありません。手軽なSNSに依存し、その行き先になにが待ち受けているのか?そこは、もう一度その他の情報から冷静に分析し判断しないと、気が付いたら自分は戦場に居たなんてこともありうるってことです。この国を良くしたい!この一点に関しては皆同意見ですが、これまでの政治家を見れば、ほとんどの輩が国民のためではなく己の私利私欲のために活動しているといっても過言ではありません。なのに、又しても裏金議員の大量当選...おいらなんかは不思議でなりません、そんな人に投票する理由はなんなんでしょうかね?

いずれにしても現政権の一党独裁の体制が始まります。こちらとしては暴走しないように粘り強く監視し、過去の間違った歴史だけは繰り返さないようにと願うばかりです。

昨日、樹々に積もった雪がさらさらと朝の光を浴びて散っていく様(しづり雪)が鮮麗です。

そこで一句。

しづり雪 一喜一憂 時うごく

2141.jpg

昨日の雪景色

2026/02/06
【第2140回】

深海洋燈の「戦争で死ねなかったお父さんのために」を、すみだパークシアター倉にて観劇。この集団は劇団新宿梁山泊に所属していた人たちが立ち上げた劇団です。今回は「つかこうへい祭り」と銘打って「熱海殺人事件~売春捜査官~」との二本立。それにしても2010年に亡くなって16年経った今でも彼の作品は毎年どこかで必ず上演されているという人気である。今回の公演も、元の作品に時事的なネタを交えながらショー的要素もふんだんに盛り込みながらの熱演であった。在日二世でもあるつかさんは時代の切り取り方が独特であった。国家、人間に対しサディスティックとマゾヒスティックな部分を抉り出し、究極は愛へと昇華していく。その劇作法は、演じる役者にとって己の感情を最大限に活かせる魅力あるものであり、完全燃焼を好むものにとっては魅力ある戯曲ではないだろうか。

つかさんの台本の創り方はこれまた独特の方法であった。稽古場での役者の動き感性を見極めながら、つかさん自身が台詞を発し(口立て)役者はその台詞を瞬時に暗記して復唱し芝居を続けるスタイルで一本の芝居を創っていく。

当時、つかこうへい事務所の看板俳優であった風間杜夫も稽古場で「風間、ええ恰好するな!お前のずるいところ、ダメなところださんかい...」と何度もダメ出しを喰らったそうだ。

彼の遺書の原文が両国シアターΧに掲示されています。

「友人知人の皆様、つかこうへいでございます。思えば恥の多い人生でございました。先に逝くものは、後に残る人を煩わせてはならないと思っています。私には信仰する宗教もありませんし、戒名も墓も作ろうと思っておりません。通夜、葬儀、お別れの会等も一切遠慮させて頂きます。しばらくしたら、娘に日本と韓国の間、対馬海峡あたりで散骨してもらおうと思っています。今までの過分なる御厚意、本当にありがとうございます」

2140.jpg

すみだパークシアター倉からの眺め

2026/02/04
【第2139回】

久しぶりに寺山修司を読み返しています。寺山修司と言えば1970年代、演劇実験室「天井桟敷」を結成し、当時、紅テントで人気を博していた状況劇場と張り合っていましたね。おいらも市外劇も含め何本か観劇しましたがなんとも摩訶不思議でとんがった印象でした。見世物として、不条理劇として既成の価値観をあざ笑うかのように展開していた印象が強かった。1974年に脚本監督した映画「田園に死す」を観た時に、寺山さんの短歌に彼の原点をみる思いがしました。その後も精力的に活動していたのですが1983年に47歳という年齢で亡くなりました。先日もNHKの「日曜美術館」で懐かしい顔を拝見したのですが、青森訛りで誠実にインタビューする姿に、彼の朴訥な人間性を改めて思い知らされました。

 

かくれんぼの鬼とかれざるまま老いて誰をさがしにくる村祭り

見るために両瞼をふかく裂かむとす剃刀の刃に地平をうつし

濁流に捨て来し燃ゆる曼珠沙華あかきを何の生贄とせむ

亡き母の位牌の裏のわが指紋さみしくほぐれゆく夜ならむ

吸ひさしの煙草で北を指すときの北暗ければ望郷ならず

 

映画「田園に死す」のなかでも寺山さん自身が朗読しているのですが、表現を超えたより深い精神性に惹かれます。そんな思いで昨日、映画のサントラ盤を久しぶりに聴きました。

2139.jpg

田園に死すサントラ盤

2026/02/02
【第2138回】

先週の土曜日は、新宿シアタートップスにてトラッシュマスターズ第43回公演「わたしの町」を観劇。現代社会の闇に鋭くメスを入れ、徹底的に問題提起してきた中津留章仁の最新作である。現代演劇において今を描く作家がいなくなったときに演劇は衰退するかもしれない。勿論、演劇も娯楽の一部である以上、エンタメ性がないと飽きられてしまう。いつもながら恐れることなくこの劇団の真正面から現実に向き合っている姿勢に先ずは拍手を送りたい。

今回の芝居は、北海道のある過疎の町の話である。この手の問題は日本のあちこちで深刻なこととしていつも話題になる。産業は漁業、農業、林業という一次産業で、どれも後継者不足で若者は出ていくばかり。これも言ってみれば国策の無能から発したことであり、亡国為政者の責任がもっとも大きいのだが。地元高校の閉校が持ち上がり、子どもたちを巻き込んだまちづくりに向けて、大人たちの試行錯誤が始まる。休憩を10分挟んで、数年後、子供たちも大人になり男女間の恋愛事情も交えながら町おこしも少しづつ前進していく。どこにでもあるストーリーなのだが、笑いも交え2時間50分という長丁場を飽きさせなく引っ張っていく中津留の手腕は見事だ。

この国が抱えている難題はあまりにも多く、深刻すぎる。一週間後にはこの国の未来を決める選挙が迫っている。ほんまによーくアタマを巡らせて貴重な一票を入れてくんしゃい皆の衆。

2138.jpg

よか芝居です!

2026/01/30
【第2137回】

今日も寒い日ですが、乾いた空気の中で青空と雲が見事にマッチした空でした。こんな空を眺めていると、ふらっと旅に行きたくなりますね。そんな時に見つけた本が「世界100ヵ国の旅で、出会った人たちが教えてくれた、人生で大切なこと」。旅人KAD(かど)さんが記したエッセイです。ごく普通に建築士として仕事していた著者が、移住先を探して世界中を旅し、そこで出会った人々との対話から、人生で大切なことを学び、旅先での出会いと発見をSNSで発信し、昨年末に出版したばかり。

僕が好きなスペインの件にはこんなことが書かれていました。

 

スペインを旅してたとき、夜に地元のバルで飲んでたんです。そしたら、隣の陽気なスペイン人のおっちゃんと仕事の話で盛り上がって、文化の違いってやっぱ面白いなぁと。で、日本では「休日にちょっと仕事しちゃう」なんてこと割とあるじゃないですか。僕もつい癖で、休みの日にメール返したり資料つくったりしちゃうんですけど、ふと気になって、尋ねてみたんです。「ねえ、スペインでは休日に仕事することあるの?」そしたらおっちゃん、急に顔つき変わって、「それはな、犯罪や」って。え?いや、こっちは「あるあるエピソード」のつもりで聞いただけなのに、突然の重罪扱い。「仕事と休みはきっちり分ける。バケーション中にメール?それは家族への裏切りやで」と言われてしまいました。

その後、ホテルに帰って無意識にスマホで仕事のメール開いた瞬間「俺、いま密輸でもしてんのかな?」って罪悪感で震えたよね。

 

世界の場末で出会った庶民の人達から耳にした言葉が心地よく響いてくるのは、著者自身が心開いて旅していたからに違いない。

2137.jpg

今日の空

2026/01/28
【第2136回】

今日もどんよりと曇った寒い一日です。

昨年11月末にスーパーで購入したボラの卵巣がやっとカラスミになりました。それはそれは我が子を育てるような過程でした。まずは針で血抜きをしてから数回の塩漬けを繰り返し、それが終わったらお酒と焼酎に浸し数日間冷蔵庫で寝かし、頃合いをみてネット網の中に入れ天日干し。ベランダに干しているネットの中の我が子の成長が実に楽しゅうございます。色が変色していくさま、柔らかいものから次第に固くなっていく20日間はハラハラドキドキでもありました。なにせ初めての取り組みですから果たしておいらが口にしたことがあるあの絶妙な味が出せるのであろうか?何とも不安な日々でもありました。普段、ベランダ内になかなか踏み込んでこない鳥がネット網を見つめてるときなどは明らかにカラスミから発する匂いに惹かれてきているに違いないと確信しました。留守中にネットを食い破り持ち去るかもしれないとか、お日様の強弱で失敗に終わるのではないかとか...でも、徐々に固くなり本来のカラスミの色に近づくにつれ、何となく美味しい我が家のカラスミの誕生を予感した次第です。

そして、いよいよネットから取り出し包丁を入れ、最初の一切れを口にしたときの感激は何とも言えないものでした。何事もそうですが、手塩をかけて育てたものが一人前になった喜びは何ものにも代えがたい。よしゃ!来年はもっと数を増やして大量のカラスミ作りに励みたいと思った次第です。

2136.jpg

ネットで育つカラスミ

2026/01/26
【第2135回】

週明け雪の被害が各地で拡がっています。北海道千歳空港に7000人が足止めされ空港内で一夜を明かすなんてことも起きています。こちらも「風を打つ」山陰公演、雪のさなか昨日で無事終えることができました。現地の演劇鑑賞会に皆さんのお陰であり、キャスト、スタッフの努力の成果だと思っています。世界的な気候変動のせいでなかなか先が読めない状況になっています。それにしても、今回の突然の国会解散、大雪の中で苦心惨憺しながら候補者の掲示板を準備している様を見るにつけ、こんなもの本当に必要なのかしら?なんて思ってしまいます。選挙の経費に予備費855億円が閣議決定されたなんてニュースを聞くと、ほんまにこの国の政治に不信感が募ります。欧米の国での賃金が30年で倍になったのに対し日本は低賃金の国に落ちぶれてしまいました。腐れ切った自民党、原発、沖縄辺野古に対し頑なに反対していた立憲が中道改連合なるものに寄り集まった途端にぶれぶれになり、あとの政党も権力の様子を窺う風見鶏状態。れいわ新撰組も頑張っていた太郎さんが病に伏し、社民党、共産党もぶれてはいないのだが刻々と変化する国際情勢に対してどうなのか?なんて状態でございます。

支持政党無しのおいらとしては一体全体、どの政党に、そして誰が良いのやら悩ましいところです。只一つ心配なのが、若い人たちの投票率が上がったのは良しとしても、投票の先の根拠が評判悪いSNSに依存している点です。新聞、本を読むなり、若者同士で激論したりもっともっと視野を拡げて欲しいもんでございます。

2135.jpg

睦月終盤の夕暮れ

2026/01/23
【第2134回】

昨日は埼玉県上尾市文化センターで上演した「モンテンルパ」を観に行ってきました。寒い日に関わらず多くの観客で座席は埋まっていました。この芝居も今回で4回目となります。第二次世界大戦で、日本が加害者でもあり被害者でもあることを色濃くあらわした作品です。加害者の視点は事実であり消し去ることは出来ません。ロシアがウクライナに侵攻している以上に、日本とは全く歴史的にも領土と言えないアジア諸国を侵略し残虐な行為を行ったことの反省なくしては真の平和を唱えることできないと思っています。

渡辺はま子を演じる島田歌穂さんの最後の台詞が胸に突き刺さります。20世紀大晦日、横浜の港で、明日から21世紀が始まる前日に「21世紀に戦争は無くなるでしょうかね...」

その願いも空しく、現実はおそろしい様相を呈しています。

だからこそ、この芝居を上演する意義があるのでは...この国もなんだか戦前の序章を感じさせるような気がしてなりません。こんな時に、この芝居に登場する大和田獏さん演じる加賀尾秀忍みたいな人の出現が待たれるところです。僧侶でありながらフィリピンにある日本人捕虜が多数収容されてる刑務所に赴き、フィリピン大統領、マッカーサー、ローマ法王などと交渉し戦犯の日本への帰国を実現させた外交手腕。ましてや資源も乏しい日本、外交力こそが世界に存在感を示し得る最良の道だと思います。

来月の選挙、そんなことを可能にしてくれる人を選びましょうね皆の衆。

2134.jpg

「モンテンルパ」カーテンコール

1