トムプロジェクト

2025/11/19
【第2110回】

人生いろいろと言いますが、この世に生を受けて好きなことを見つけ、好きなように過ごせる人はそんなに多くいないのでは。好きなことに夢中になることほど楽しいことはないはずだ。好きなことはどんなことでも苦にならず、命の源泉を吸い上げ熱くしてくれる。このことだけで人生における大切な意味を獲得しているに違いない。

先日、バングラデシュから来日した若い人達にも「先ずは好きなことに向かって!」と声を掛けました。先々何の保証もない夢に切磋琢磨することにはとてつもない勇気がいると思います。でも、彼らの瞳は輝いていました。

おいらもここまで生きてくると様々な生き様を見させて頂きました。そんな中、確信していえることはこの世の中、「好きなことやったもん勝ち」だという真実。永遠に生きることが出来ない限られた人生、どうせいつかはあの世に行くのだからこそ、嫌のこと我慢してやることはないと思いますが...と言いながら、なかなかすんなりと行かないのもこれまた人生。

とにかく、どんな状況になろうとも好きなことを探しだし、夢中になれば、後ろを振り返ることなく有意義な時空間がそこに自然と転がっていると思うのですがね...

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紅葉狩り2

2025/11/17
【第2109回】

先週土曜日は久しぶりのダブルでの観劇。後期高齢者にとってはかなりハードルが高い一日になりました。昼の公演は新宿紀伊國屋ホールにてワタナベエンターテインメント「TooYoung」、劇団チョコレートケーキの古川健作、日澤雄介演出による若手公演でした。

新宿・歌舞伎町の一角にたむろする俗に言うトー横を題材にした作品。今話題のクリエーターと今後活躍を期待されている役者を組み合わせたプロジェクト、群雄割拠の演劇界ではいろんな企画で挑戦しないとなかなか生き残れない状況であることは間違いありません。芝居の中身の充実は勿論のこと、役者も人気商売、ファンあってのことなので、この両者を両立するために制作側も苦心惨憺しているところでございます。

夜は、かわいいコンビニ店員さん企画による「位置について」を吉祥寺シアターで観劇。制作側のネーミングがタイトルみたいな、これも意表をついたゲリラ風な作戦かな?モンスターペアレント、賃金、労働形態、保育士不足などなどいろんな問題を抱えながらも、屈託のない明るさと笑いで働き続ける都内にある認可保育園を舞台にした芝居。

出演者の皆さん皆達者な演技で、2時間10分笑いが絶えない舞台でした。今回の芝居に出演したトム・プロジェクト所属の佐々木優樹君のユニークな表現が秀逸でした。まだまだ若い佐々木君、これから更なる進化を予感させる存在感でした。

日曜日は善福寺緑地公園を散策。気候変動の煽りを受けながらも不動の樹木はいつものように色とりどりの紅葉がおいらの目を楽しませてくれました。

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紅葉狩り

2025/11/14
【第2108回】

トム・プロジェクトを共に走って来た森康次が亡くなって1年になります。今でも、あちらこちらで森ちゃんのおもろい逸話が語られています。お酒が入るといじられ役としての役者振りもなかなかのものでした。一昨日、森ちゃんの奥様である森ひとみさんの芝居を観てきました。劇団菊池第16回公演「いにしえの風に たゆたうと風りん」。ひとみさんは劇団GMGで森ちゃんと出会いました。劇団では看板女優として長い間活躍し、結婚を機に一時女優業を休んでいましたが息子さんが成長するにつれ復活。この日の芝居も、急遽依頼され出演したのですが、台詞、表情、しっかりとした表現で芝居を盛り上げていました。森ちゃんも喜んでいるのでは...ここまで来たら好きなことを徹底的にやり尽くすしかないでしょう。

芝居を観た後、千歳烏山に足を伸ばし久しぶりにジャズ喫茶「RAGTIME」を訪問。

1978年にオープンした老舗の店。古びたビルの3階まで上がる急階段に先ずは一苦労、店内は47年の歴史を感じる佇まい。煙草のヤニで変色したビルエバンス来日時のポスターが天井になんとかしぶとく貼り付いている。3000枚の年季の入ったレコードとオレンジ色ベースの温かい照明に包まれた木造りの店内がなかなかのもんですね。この日、なんと浅川マキのレコードが流れてきた。1971年大みそかに新宿紀伊國屋ホールでのライブ盤、いやいや懐かしいな...彼女の亡くなる前年、2009年年末に新宿ピットインでのライブ姿を今でも鮮明に覚えている。1970年前後、当時の新宿文化を象徴するアングラシンガーの女王的な存在でした。こんなレコード聴いていたら、またまた昭和が甦る。

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昭和の匂い

2025/11/12
【第2107回】

二宮さよこ一人芝居「大奥 絵島」観劇。二宮さんと言えば随分昔、文学座で「ふるあめりかに袖はぬらさじ」「牡丹灯籠」を拝見しました。杉村春子さんがとっても可愛がっていて将来の文学座を担う華のある女優さんでした。その後、退団し映像にも進出「吉原炎上」「陽暉楼」では妖艶な演技で他を圧倒していました。しばらく目にすることがなかったのですが、ご自身で一人芝居を何本も上演されていたんですね。今回の芝居は江戸時代に起きた絵島騒動を題材に、江戸城大奥と山村座の二枚目役者とのスキャンダルを描いたものでした。

さすがに老舗文学座での役者修業、77歳を感じさせない声量、そして改めて日本語の美しさを繊細かつ大胆な表現で演じられていました。佇まい所作と共に、魅力的な容貌が和装にぴったりとはまり舞台での存在感は十分のものがありました。

そして昨日、仲代達矢さんの訃報が流れました。若い頃に観た小林正樹監督の大作「人間の條件」での仲代さんの演技を観て、役者という職業におおいにそそられました。こうやって今に至るまでこの仕事を続けているのも、この作品の仲代さんのせいかもしれませんね。

同じく小林監督の「切腹」も仲代さんの魅力を感じられる作品だと思います。

こんな知らせを聞く度に、あらためて昭和がどんどん遠くなる...昭和の良さを噛みしめながらなんとか健康な日々を過ごせればもうけもんかな。

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この季節にお似合いな蝶

2025/11/10
【第2106回】

昨日は、バングラデシュでストリートチルドレンの自立支援に取り組む教育NGO・エクマットラを夫と運営している渡辺麻恵さんと共に初来日したバングラデシュ3人の若者、そして現地で音楽活動をしている水谷さんと新宿ゴールデン街に繰り出しました。3人の若者はDigiCon6ASIAというアニメのコンテストのASIAアワード候補にバングラデシュの作品が選ばれ、その代表として主催者から招待をいただき、日本の受賞式に参加。大好きな日本、しかもテレビで観た新宿ゴールデン街は是非行ってみたいということで、新宿見回り隊の一人として案内人を引き受けた次第です。バングラデシュの若者、皆キラキラ輝いていました。自分の夢に向かって歩む姿はおいらも刺激を受けました。そしてこんな若者たちを支援している麻恵さんの優しさに改めて感心した次第です。2012年にダッカに移り住み13年、言葉に言い尽くせない様々な苦労があったと思います。勿論、旦那様の弱者の立場にたっての行動、姿に賛同したことがきっかけだと思いますが、なかなか踏み切れるものではないと思います。昨日ご一緒したサラさん、シハンさん、モタブレさん、そして水谷さん、まだまだ建国54年の若い国で暗中模索の日々であるとは思いますがなんとか夢に向かって驀進して欲しい!

新宿紀国書店で購入した宮崎駿「君たちはどう生きるか」監督手描きの絵コンテ本を手にした幸せそうなサラさんの表情がとても印象的でした。

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バングラ五人衆

2025/11/06
【第2105回】

なんとなく秋めいた日が来たと思ったら、今日はどんよりと曇った一日になりそうです。昨日のスーパームーンも見ることが出来ませんでした。この気候変動、今後目まぐるしく世界を混乱させるに違いありませんね。アメリカでは反トランプの市長、知事が生まれ、まるで振り子のように従来の方向に戻りつつあるが、これもあのトランプの行動を見ていれば全く予測不可能。原爆の実験をやるなんてこと平気で言っちゃう頭の中の人ですからね。

2022年に95歳で亡くなった森崎和江さんの評伝を読了。作家の森崎さんは植民地朝鮮で生まれ、日本という国の原罪を生涯にわたって見つめ続けた人生でした。敗戦の時8歳の彼女は既存の思想や概念に疑問を抱き一切を捨て、近代資本主義におかされていない本当の日本を探す旅に出かけました。日本の中央からもっとも遠い場所に赴き、近代がもたらした分断、断層を自ら体験し、日本とアジア、中央と地方、男と女などなど、たった一人まさしく徒手空拳でたくさんの本を生み出しました。地の底で生きる炭鉱労働者、戦時中アジアの占領地に売られていった、からゆきさん。その視点は百年サイクルの近代を超え、千年サイクルでの命のサイクルで思考し行動した生涯だったと思います。

この世に奇跡的に生を受けた一人として、ひとつでも後世になにかを残せねばと思う日々でございます。

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再開発進む新宿西口

2025/11/04
【第2104回】

今日はこれに触れるのは当然でしょうね。何処を見てもドジャースのニュースで大騒ぎ、おいらも長年の野球小僧ですが、今回のワールドシリーズほど手に汗を握る展開は凄まじいものがありました。延長18回に始まり、崖っぷちからの連勝、その勝ち方が奇跡に近い展開、どうみてもブルージェイズが勝利していてもおかしくない内容。勝利の女神が細部にわたり確実にドジャースのほうに微笑んでいたとしか思えない。特に第6戦、3対1でドジャースが2点リードで迎えた9回無死1塁で迎えたブルージェイズの攻撃、リリーフした佐々木の高めの速球を捉えたバーガーの打球が外野フェンスと地面の隙間にスッポリ挟まり止まってしまう始末。本来であれば2者がかえり同点になるはずがランナーは戻され、しかもそのあと又もやラッキーなダブルプレーが完成し危機を脱し勝利する結末。そして最終戦、あと2人でブルージェイズ32年ぶりのワールドシリーズ制覇というところで、ここまでさっぱりだったロハスが同点ホームラン。延長でスミスが勝ち越しのホームラン、そして最後は神がかり的な山本投手でゲームセット。なんですかこれは?観てるほうの心臓はパクパク状態、今でも勝利したことが信じられない奇跡のドジャースの連覇で終わりました。

そして想い出すのは、昭和33年の西鉄ライオンズと読売ジャイアンツの日本シリーズ。3連敗したライオンズが4連勝し日本シリーズ3連覇を果たした試合。この試合ライオンズの稲尾和久投手、なんと勝利のすべての4勝、まさしく神様、仏様、稲尾様の大活躍でした。

やっぱり野球は面白いスポーツであることを証明した今回のワールドシリーズ、今から来年の開幕が待ち遠しいですね。

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今日の紅葉

2025/10/31
【第2103回】

毎年この時期にコンサートを実施している石橋幸さん(愛称タンコ)、今年で27回を数えました。80歳を超えたとは思えないパワーと愛らしさで、この日も満杯の新宿紀伊國屋ホールのお客さんにロシアの歌を届けていました。彼女が開いている新宿ゴールデン街「ガルガンチュア」の店も53年になるのでは...おいらも開店2年目ぐらいに行き始めました。当時のゴールデン街は小説家、映画人、芝居屋さん、正体不明の人達が朝まで侃々諤々の議論を闘わすある意味戦場みたいな場でした。まだ若かったタンコさんも負けてはいませんでしたね。殴り合いの喧嘩になりそうになると「店は狭いし迷惑だから外でやって...」なんてことが度々でしたね。

佐賀県から上京、早稲田大学でロシア文学を専攻し女優をやりながらロシアの僻地を旅し権力に抑圧される民衆の心を題材にしたロシア歌謡を収集し、原語で歌う日本で唯一の歌い手です。世界の今のロシアに対するというより、プーチンへの怒りは当然のことながらも、ロシアへの嫌悪感を忘れさせるこの国の名もなき庶民の霊魂がタンコさんの透明感溢れる声を聴きながら、今一度あの優れたアートを生み出した国に戻って欲しいと思いました。

打ち上げにも参加したのですが、さすがにおいらが昔から飲んでいた人達は2,3人でした。酒を嗜みながらつい、故人になった人、行方知らずの人などなど、あの日あの時「ガルガンチュア」のカウンターで共にした面影が浮かんでしまいました。

素敵なバックミュージシャンに支えられてのコンサート、来年も是非聞きたいと思っている人がいる限り続けて欲しいですね。

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ロシアへ届け

2025/10/29
【第2102回】

昨日から新作「五十億の中でただ一人」の稽古が始まりました。今年は戦後80年ということで、「おばぁとラッパのサンマ裁判」「モンテンルパ」「鬼灯町鬼灯通り三丁目」と立て続けで戦争と平和にまつわる芝居を上演してきました。演劇に関わっている人間として当然のことであり、世界どこを見渡してもきな臭いでプンプンしているからこそ...人間なんて忘却のいきものですし嫌な記憶程消し去りたいものです。そして何だかわからないけど目新しいものに飛びついちゃうなんてミーハー族が増え続けています。夢も希望も見えないこの現状では仕方がないことかもしれませんね。

昨日の顔合わせ、そして初めての本読み、この芝居良い初日を迎える予感がしました。五人の役者さんに共通していることは、皆さんハートがあること。1本の芝居を創り上げる時に一番必要なことであるし、ここからしか何事も始まりません。ことにテーマが重い作品には個々人の確固たる意志、思想がなければ演じる資格がないのでは...勿論、人それぞれ考え方の違いはあって当然なのですが、先の戦争から学ぶ姿勢の濃淡は自ずから芝居に反映されると思います。

昨日はトランプ大統領が来日し女性首相とむつまじいシーンを何度も見かけました。新内閣の支持率も高いし、ちょいと調子に乗ってノーベル平和賞に推薦しますなんて軽口叩いちゃいました。アメリカ様のご機嫌とるのが外交ではありませんことよ。

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スカイツリーも星条旗

2025/10/27
【第2101回】

折角の週末、生憎2日間とも雨にたたられましたね。土曜日は夏の川企画「樫の木坂四姉妹」に出かけましたが、なんと劇場を間違えてしまいました。なんとか間一髪で間に合いましたが...正しくは新宿シアターモリエールだったのですが、新宿シアターサンモールに行ってしまいました。まさかシアターモリエールだとは思いませんでした。この劇場はコロナ初期の頃、公演した劇団が不祥事を起こし、それ以来芝居を上演している噂を聞かなかったので...同じ新宿だったので助かりました。東京にはもう一つ間違いやすいホールがあります。亀有リリオホールと亀戸カメリアホール、ここは間違うとかなりの距離があるので完全にOUT。

さて芝居はというと、懐かしい新劇の香りが漂う舞台でした。長崎での原爆被害にあった家族の話ですが、俳優の皆さん素直で清潔感溢れる表現で好感を持てました。

今回の戯曲を書いた作家さんがパンフレットにこんなことを書かれていました。

 

本作は59歳の時に書いた(舞台化は2010年)。今だから言うが、実はこれで芝居の世界から足を洗おうと思っていた。色んな事に倦んでいたし、還暦でもあるのでいい区切りだと思ったのである。そんな軟弱な決心を翻させたのが本作への各地での望外の評価と、翌2011年の東北での大地震である。俺が未だ劇界の隅っこをウロウロついていられるのは、だから本作と震災のお陰だといっていいのかも知れない。

 

そうなんです、いつの世も芝居の世界で生きている人たちのほとんどが、一寸先は闇のなかで呻吟しながら表現に立ち向かっています。そのぎりぎりのなかから絞り出される珠玉の意思表示だからこそ人の奥深くに届くのだと思っています。勿論、すべてがそうだとはいえません...だからこそ今日も、あーでもないこーでもないと模索しながら稽古場で右往左往しているのでございます。

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そろそろかな

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