トムプロジェクト

2025/01/08
【第1983回】

昨日は春の七草、芹、なづな、御行、はこべら、仏座、すずな、すずしろ、この響きを聞いただけでなんとも日本の原風景が目に浮かびます。この7種の野草・野菜が入った粥(七草粥)を人日の節句(旧暦1月7日)の朝に食べる風習が残っていたのですが、いまどれだけの人が食べていることやら...昨今の慌ただしいこのご時世、こんな風情に浸る時間なんてございません!なんて言われそうですね。

最近、若手作家の本二冊熟読。豊永浩平「月ぬ走いや馬ぬ走い」タイトルだけでも斬新、なんやろ?なんて思いながらページを開いていきました。沖縄琉球大学の現役学生作家で、地元沖縄の戦争を絡ませなんとも不思議な展開。戦争を知らない世代が織りなす世界は彼の想像力と、彼が尊敬するゴダール、大江健三郎の作品を参考にして疾走する新たな文学。

片や町屋良平の「生活演技」、演技する身体を描きながら社会の中で生かされる人間存在の本質に迫っている文体。その独自の文体で語られる不穏な物語だけに読者を選んでいる小説かもしれない。

この二作を読み終わって思い出したのが、井上ひさし氏の言葉「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをゆかいに、ゆかいなことをまじめに書くこと」

こんな小説が、実は書き手に取って一番難しいことではないかと思います。新しい作家が既成の文学にチャレンジする姿は大いに結構なのだが、読後にどれほどの言葉が身体に落とし込まれるのか...そしてその言葉は、その後の人生を決めかねないほど大切なものだと思っています。

1983.jpg

燃えるような夕焼け

<<次の記事 前の記事>>