トムプロジェクト

2025/08/13
【第2071回】

「アイム・スティル・ヒア」を鑑賞。1970年代、ブラジル、リオデジャネイロの軍政権下。ある一家を襲った実話を「セントラル・ステーション」のウォルター・サレスが16年ぶりに祖国で監督した作品である。軍政下のもと拘束される元国会議員の妻を演じるフェルナンダ・トーレスが実に良い。夫を捜し続け、子供を育て、自分自身も勉強しながら、抵抗しながら働いた一生を淡々とひとつの顔で演じている。老年期の役を実母フェルナンダ・モンテネグロが演じているのもなかなか粋な計らいだ。25年後に政権は夫の死を認めはしたがいまだ遺体は戻ってきていない。

この種の事件は世界各地で今でも頻繁に起きている。独裁政権が抵抗者を弾圧するのは常套手段である。この映画にもたびたび出てくる家族写真、過去の記憶、記録の忌まわしい事実を継承し伝えることの大切さを改めて考えさせてくれる。

そして、この日本において過去に起きた様々な権力による弾圧事件を映画化する例があまりにも少ない気がしてならない。臭いものにはフタをしろじゃないけれど、どうもこの国のうやむや体質を感じてならない。勿論、これらの映画を創っても興行成績に繋がらないという映画会社の姿勢にも問題がある。映画を手段として世に問う志を持ってほしいと願うばかりだ。

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落日

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