トムプロジェクト

2025/04/30
【第2029回】

江戸時代には数々の料亭が立ち並び、昭和20年代から40年代には、この花柳界は「夜の首相官邸」と呼ばれるくらいの賑やかな柳町でした。その一角に、昭和の流行歌手市丸さんの屋敷跡を改装したルーサイトギャラリーがあります。時には美術品のギャラリー、隅田川を眺めながらのカフェ、そんな素敵な空間で俳優、鳥山昌克さんが数年前から芝居、朗読劇をやり始めました。昨日は泉鏡花原作の「天守物語」を6人の役者による語り芝居を鑑賞。つい先日、金沢で泉鏡花にまつわる場所を散策したばかりだったので興味深く拝見しました。数々の舞台を経験した役者の語り口は、すぐ近くを走る総武線の電車の音、隅田川を行き交う屋形船の姿と共に、現代といにしえを行ったり来たり...演劇の面白さは、場所の設定によって芝居そのものが大きく変貌することにあります。唐十郎さんが始めた野外にテントを張っての芝居、今やベテラン俳優になった石橋蓮司さんが主宰していた劇団第七病棟では芝居の中身に相応しい場所を探し、銭湯、工場跡地などなど劇場以外のところでの画期的な公演をしていました。

鳥山さんが場所に拘るのも分かる気がします。既成の劇場ではなく、人が長年生活した処には柱ひとつ、壁の隅々、天井の節目にいたるまでそこに集った人たちの息遣いが感じられます。そんな空間に立ち入った瞬間からすでに芝居は始まっている...勿論、その気配を自分のものに出来るか否かは役者の技量が問われる厳しさもあります。

終演後、この日来場していた大和田獏さんと軽く一杯。先日無事終えることが出来た「モンテンルパ」の旅公演の話、来月、劇団チョコレートケーキが上演する「ガマ」の話などなど...獏さんとの芝居に関するよもやま話とても楽しかったです。

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ギャラリー2階のテラスから

2025/04/28
【第2028回】

若い演劇人の誠実な芝居を観るととても気持ちがいい...先週の土曜日は中野にあるスタジオあくとれで、杜菜摘プロデュース旗揚げ公演「あさがきて」を観劇。杜さんはトムの「モンテンルパ」公演の時に演出助手として手伝っていただきました。稽古中も真摯に稽古場の進行がはかどる様に動いてました。弱冠27歳の彼女が制作、作、演出すべてを背負い込み1本の作品を立ち上げること自体が大変なことです。8人の出演者、10人ほどのスタッフ、稽古場代、劇場費などなど、先ずは経済的なことが頭をよぎります。

その覚悟は、芝居の中身に十分反映されていました。自らの体験を無駄のない台詞と過剰にならない演技で1時間40分の芝居にまとめていたと思います。今回の芝居の中のシーンにもなっている葬儀なるものを実体験するべく数カ月葬儀場で働いていたとか...彼女の演劇に対する思いは、今回の企画に賛同したキャスト、スタッフの皆さんにも十分伝わってこその内容だったと思います。

まだスタートしたばかり、今後もいくつもの困難な壁が待ち受けてはいるとは思いますが貴女の理想とする志ある演劇に挑戦し続けて欲しい...この時代、なんだか未来に期待しない夢無き人が多いだけに走り続けて欲しいな。

始まったばかり万博、なんだかトラブル続きですね。楽しみにしている人が居るのですから運営の皆さん入場者の人数ばかり気にしないで肝心なことを忘れずに...それなのに早速、知事さん「原因を究明して再開することを期待」だって、ところでこの党大丈夫?

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杉並 柏の宮公園

2025/04/25
【第2027回】

昨日は、映画「教皇選挙」を鑑賞。つい先日、フランシスコ教皇が亡くなりタイムリーな作品になりました。それよりも現代社会が抱える諸問題がこの作品のなかにはびっしりと詰まっています。今回のアカデミー賞で脚色賞を勝ち取ったストーリー展開の面白さ、そして役者の名演技で極上のエンターテイメントに仕上がっています。おいらは音響効果賞があったら差し上げたいくらいの見事な効果音によって話の展開にメリハリをつけていました。これは映画館でしか味わえないものですね...後にTVなんぞで放映されるとは思いますが効果は半減以下だと思います。

次期教皇を目指す最初の有力候補が黒人、それを阻止しようとするのが白人、そして最終的に決まるのがなんと?(ここを書いちゃうとネタバレになってしまいますから)この映画には、保守的なジェンダー観を打破するときに社会に生じる違和感が寓話的に描かれています。昔から男社会で成り立ってきた世界、ましてやこの枢機卿の世界は閉鎖社会、ここに着眼点を置き男性主体の構造の矛盾を白日の下にさらすなんて趣向がなんともたまらんですばい。そしてなんと言っても示唆に富んだラストシーンが素晴らしい...無垢なる存在はシスターである女性たちという監督の持論。

主演の英国俳優レイフ・ファインズの無表情の演技が絶品。スピルバーグ監督「シンドラーのリスト」で冷酷無比なSS将校の役が今でも記憶に残っている。いい役者は手を変え品を変えずとも一つの顔で存在感を示すことが出来ることの良いお手本でした。

明日からGW、いつもながら行楽地には人だかり、旅行に行ってもホテルは特別料金、こんな時は近場でのんびりするのが一番でございます。

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君と好きな人が、百年続きますように

2025/04/23
【第2026回】

先週、新国立劇場小劇場で三好十郎作「夜の道づれ」を観劇。この作品は三好十郎によって1950年に文芸誌「群像」に発表された作品です。敗戦後の夜更けの甲州街道をとぼとぼと歩いている、男二人の一種のロードムービーのような戯曲。実際に作家が夜の甲州街道で見聞きしたエピソードを織り交ぜながら、ドキュメンタリータッチで描いた演劇的実験性の高い作品。最近、若い演劇人が三好十郎の戯曲を取り上げる風潮があります。

九州の佐賀の出身で、戦前は築地小劇場などで戯曲を提供し、戦後は近代の既成文学全般への批判を貫き進歩的文化人を徹底的に痛罵した気骨のある作家。おいらが初めて観たのがゴッホを描いた「炎の人」、ゴッホを演じた滝沢修の演技に酔いしれた記憶があります。

さて、今回の公演、いろいろと試行錯誤の様は見て取れるのだが、肝心の戦後の日本の姿が見えてこない。演劇は時代とともにあるので、当時書かれた戯曲をそのまま踏襲すればいいというものではないと思うのだが、やはりこの戯曲の本質は敗戦後の日本の姿、匂いだと思う。あの当時の日本人の寂寥感、それに伴う鬱屈したエネルーギーを如何様にすればという苦悩、片やあの混乱期に逞しく生きた女性たちの生き様...これらが残念ながら表現されなかった気がします。そんななか、唯一この世界を表現していたのが滝沢花野。まさしく体当たりの演技で役になりきっていました。昨年も彼女が出演する芝居何本か拝見しましたが、どの作品もアグレッシブ、その思い切りの良さに惚れ惚れしました。今後、注目している女優さんのひとりです。

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雨ニモマケズ

2025/04/21
【第2025回】

昨日は長年の友人である大森政秀さんの舞踏公演を観てきました。今年1月に76歳になった大森さん、舞踏の聖地ともいわれている中野テルプシコールの空間を自由自在に遊行していました。おいらも半世紀前に土方巽の舞踏公演を観た時はすべてがぶっ飛んだ感覚に襲われました。この世にこんな表現があるなんてことを思考しながら、おいらも好きなことを徹底的に実践することを確信した次第です。

大森さんの舞踏何度か観させて頂きましたが、今回の公演さすがに76年間の人としての生き方がいろんな貌で、時にはおかしく、時には憂いを帯びて伝わってきました。彼の踊りをみて土方巽は「ラブホテルのキリスト」といったそうだ...この歳になると表現のテクニックとかはほとんど気にならないというか、そんなものを客席からは観ていません。踊り手の一挙手一投足に大森政秀の摩訶不思議な人生に想いを馳せる時間だと感じました。

当日配られた彼のメッセージにも「自分から一番遠い場所に住んでいる、自分という他者こそは、肉体の中で、一番近いところに潜んでいます。私も皆様と共に目撃し体験したい、この一点に尽きます」と書かれていました。

この日会場に集った人達との一期一会、意味を追求する場ではなく、一人の表現者の肉体を通して己が何者であるかということを今一度問い直す貴重な瞬間でもあるのでは...

この会場のオーナーであり、音響家である秦宜子さんとも久しぶりに会えて嬉しかった。彼女はおいらが20代の頃在籍した演劇群走狗の仲間です。大森さんと夫唱婦随、いろいろ苦労はあるとは思いますが共に好きな道をまっしぐら、まさしく人生悔いなし!

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心と身体が
ゆや~ん  ゆよ~ん  ゆやゆよ~ん

2025/04/18
【第2024回】

大阪・関西万博が13日に開幕し、開幕前はどちらかと言えばあまり関心がないという意見が多数であったのだが、昨日あたりは入場者が急増したらしい。おいらは昔から大勢の人が群がるところには行きたがらないタチなんです。勿論、最初の万博、日本人に人気のあるハワイ、ディズニーランドなどなど...別にひねくれもんではないですよ(笑)

だって、科学技術の進歩を謳ってますが、その結果がAIなるものの暴走、ドローンなどの最新技術の戦争利用によってロシアによるウクライナ侵攻は終わらず、ガザでの犠牲は日々増加の一途。こんな科学の進歩は必要ありませんし、こんな万博に罹る莫大な費用は平和のため、そして多くの被災者につぎ込むべきではないか!という理由で万博には行きません。ましてや、オリンピック誘致の失敗とのつじつま合わせでカジノを含む統合型リゾート誘致を絡ませるなど、あんたらどっちに顔向いているんやと言いたい。

大阪と言えば、昔から反権力が似合っている土地柄なのにどないしたん?権力が押し付ける野暮なツッコミにボケで応じる庶民の笑いの天国が浪速の良さでございます。

それなのに若い知事さん、中央のこざかしい権力に接近し、経済効果を狙ったかどうかは知らんけど浪速が築いたおっちゃん、おばちゃんの身体感覚の遠いところで手を打ったのがとんでもない間違いでございますよ。

それにしても昨日の大臣、トランプのオッサンと会ったのが余程嬉しかったのか自分のことを格下の格下とえらい謙遜しとりました。対等に向き合わんかい!と檄を飛ばしたいところだが、このお方もしや結構な役者ぶりでひと芝居打ってるのかな...この先どうなるかことやら?相手がひとり芝居の大好きなトランプですからね...

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新緑

2025/04/16
【第2023回】

いつもクンクン、戌年のおいらは何かおもろいことないかいな?と路地裏をそうついています。先日も西荻窪にある個性的な喫茶店「JUHA」(ユハ)でレコード聴きながら、店主じきじきの自家焙煎のコーヒーとあんこを乗っけたトーストを頂きました。この店には、時折おもろい情報がさりげなく置いてあります。早速、手に取ったチラシにそそられました。

これは行かねばと、中野区上高田にある「スタジオ35分」に出かけました。この日展示されていた作品は1944年スウェーデン・ストックホルム生まれの写真家アンダース・ペータンソンが、ドイツ・ハンブルグにあった「カフェ・レーミッツ」に出入りする人たちをドキュメントした写真でした。場末の酒場に日毎集う売春婦、薬物常習者、アルコール中毒者などなど、社会の底辺に蠢く人々に対しあたかも自分の家族、友人に等しい視線でシャッターをきった息遣いが圧倒的に伝わってきます。こんな写真を見ていると、ふとおいらが生きてきた人生で出会ったストリッパ―、娼婦、ニコヨン労働者、ヤクザなどなどの人たちの顔が甦ってきました。アウトローの世界には何とも言えない郷愁の匂いがします。

スタジオの店主もユニークな人でした。この写真を展示したいために写真家本人に会いに行ったそうです。スタジオの一角にカウンターだけのBARがあり、早速ビールを一杯。流れている曲はトム・ウェイツ、彼のアルバムに写真家の作品を使ったこともあり、この期間はトムの曲一色だそうだ。

もうひとつ嬉しかったことは、なんと奈良の銘酒純米超辛口「春鹿」が置いてあるではないか!勿論、頂きました。今日も良か一日でしたバイ。

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時の過ぎゆくままに

2025/04/14
【第2022回】

先週の土曜日、20時40分上映開始という映画を観に池袋へ行ってきました。後期高齢者のおいらが出かける時間ではございませんが、25年前、トムアクターズスタジオに在籍していた太平(稲吉剛)君の初主演映画ということで...目黒貴之監督作品2本立て、太平は自分で企画し主演していた「トイレのかみさま」で飄々とした彼らしい演技をしていました。

出会った頃から、あまり自己主張するタイプではないのだがブレない何かを秘めている男でした。トムの芝居にも3本ばかり出演してもらいました。地道にアルバイトしながら俳優の道をあきらめずここまでやってきた彼の晴れ舞台を、しかも公開初日に行くことに決めました。池袋シネマ・ロサ劇場前で来てくれた人たちに丁寧に挨拶している姿も彼らしいし、彼の人柄だからこそ多くの方々が足を運んでくれたのでしょう。

初日ということで出演者による舞台挨拶もありました。スクリーンの前に立ち、5人の女優さんに囲まれている太平はとても嬉しそうでした。51年間の人生の中でも記念すべき日だったことでしょう...他人に何と言われようとも、頑なに己の道を突き進む人達には大いに共感します。人の一生の価値、権威、お金よりもっとも遠いところにあるのかもしれませんね...キラキラ輝きイキイキしている姿が一番かっこ良かですたい!

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幸福な一日

2025/04/11
【第2021回】

世界はなんと脆くて軟弱なのか...あの資産家トランプの一吠えであっちがグラグラ、こっちがオタオタ、考えてみればこれだけ長い人類の歴史があっても何も学ばなかったに等しいとも言えるかもね。戦争然り、それにしてもトランプのおっさん遊ぶのもいい加減にして頂戴な。あんたの一言で、どれだけ多くの人達が右往左往していることやら。まあ、お金と権力だけを趣味として生きた人には、汗水たらして働き必死豆炭に生活してる人の気持ちはわからんでしょうな。そんなおっさんを選挙で選んだアメリカ国民もそのしっぺ返しは必ず来るでしょう。

資本主義社会での象徴たる株式市場、株を所有してる人たちは仕事に身が入らんでしょうね。これだけの乱高下が続くと心臓パクパクでしょう、なかには株の下落に反して血圧が上がって危険極まりない状況に追いやられる人が出てくるかもしれません。まあ、これも致し方ないことですね。不労所得に近いお金ですから...いや、これもれっきとした労働だという意見もわかりますが、所詮他人任せの金儲けという点においては変わりません。

おいらも随分若い頃にちょいと手を出して苦い思い出がありますから...10万の投資があれよあれよという間に何百万、この世の出来事とは思えない奇跡なんて有頂天からあっという間に地獄を見る世界だと教えていただきました。何事でも勉強でございます。

人生、地道に人のために働き生きることが正解でございますよ!

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ひっそりと

2025/04/09
【第2020回】

一昨日、久しぶりに金沢に行ってきました。現在旅公演中「モンテンルパ」、金沢市民劇場に呼んで頂いての公演を観に...東京公演を終え中部・北陸ブロック演劇鑑賞会での公演が3月18日から始まり、この日が17ステージ目でした。キャスト、スタッフ共々、疲れのピークだったと思いますが、この日金沢文化ホールに来ていただいた会員さんの温かい眼差し拍手に後押しされ密度の濃い芝居になったと思います。年間6本の芝居を観劇されている鑑賞会の皆さんの鑑賞眼はなかなか手強いものがあります。つまらん芝居には勿論手厳しいし、良質な芝居には心底から評価してくれます。そんな会員さんを前にしての芝居ですから少しでも気を抜くと見破られてしまいます。この日は、おいらにとっても東京公演から久しぶりの舞台、どう変わっているか、慣れていないか、眼を皿のようにして舞台を注視していました。芝居は生き物ですから、相手とのやり取りで微妙な違いが出てきたり、もっと極端に言えば良い意味、悪い意味でも別物の作品になったりするものです。そんな中、日々進化していけばベストです。終演後、役者さんには気になったところは率直な意見を述べました。この後の5ステージへのより良いヒントになればと思っています。

それにしても金沢、江戸時代加賀百万石の城下町として栄えた街だけのことがありますね。第二次世界大戦中にアメリカの空襲を受けなかったこともあり、昔ながらの古い家並みも随所に残りなかなか風情があります。この季節、どこに行ってもサクラが咲き乱れ、東京では味わえない歴史ある建造物とサクラの見事な調和に酔いしれた次第です...勿論、芝居も良かったので幸せな2日間でした。

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金沢の桜

2025/04/07
【第2019回】

先週の土曜日は絶好の桜見物日和。早速、杉並区の善福寺川沿いの満開の桜を楽しんできました。例年より桜が何となく元気がなかったような気がしますし、集まった人たちもなぜか明るさに乏しく活気がありませんでした。天候不順と4月からの物価、特に食料品の値上げ攻勢に意気消沈の影響かなとも思いました。おいらもたまに行くとんかつ屋の値段にびっくりしました。100円、200円の値上げならまだしも700円の値上げなんですから、あちゃ!てな戸惑いを覚えてしまいました。確かにお米、キャベツの値上げが相当きつかったのでは...大体において、とんかつ屋さんはご飯とキャベツはお代わり自由、若い連中なんかは遠慮することなくご飯3杯、キャベツも同じくらいお代わりするんですから、この値上げ時期は店の人もなんとなく笑顔で対応しているのですが心中穏やかではなかったと思いますよ。

それにしてもこの物価高、勿論、世界の混乱から来ているんでしょうが、この国の農業政策の無能振りがますます浮き彫りになっています。時給10円の米作りの農業なんてやっていられない!なんて農家の人達が街に繰り出しデモをしていました。そりゃそうだ、自分の懐ばかり気にしながらの政治屋ばかりですからね。おまけに大臣は派閥支配下における年功序列、農業なんてわかっていないのに指示できるわけがありまっせん。

温かいふっくらしたご飯に、塩昆布、梅干し、納豆、たまにはたら子、こんなシンプルではあるけれど贅沢な時間もそのうち無くなってしまうのかもしれませんね...

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善福寺川緑地公園

2025/04/04
【第2018回】

昨日は懐かしいスペイン語に浸れる一日でした。映画「エミリア・ペレス」を鑑賞。冒頭からスペインの鬼才アルモドバル監督の作品じゃないかしら?と思いきや、フランスの名匠オーディヤール監督でした。メキシコを舞台に予測不能な展開、そこにミュージカルが入り込み一体全体この作品どう見て良いのか観客の脳は激しい揺れを催す。人間の持つ本性欲望を原色に近い形で表現していく監督の手腕は並々ならぬものがある。これまでのミュージカルでは、突然歌い出すとか不自然な感じがしたものだが、この作品をそんなことがない。台詞と感情がそのまま歌として流れ、より役の感情に添える展開となっている。

起用した俳優の一癖二癖ある二人がストーリーを引っ張っていく。実際のトランスジェンダー俳優カルラ・ソフィア・ガスコン、今回のアカデミー賞で助演女優賞を受賞したゾーイ・サルダナ、二人の表情を至近距離で追うカメラワークが秀逸である。しかも二人が静と動、役者の力量はもちろん、監督の役者に対するリスペクトを感じる。

この映画を観ながら思ったことは、今の世の中すんなりとことが運ぶこともなければ、なにが正解なのか判断、予測不可能。カオスそのままを提起し、あとは観客がそれぞれに未来社会をどうすれば良いのかを思考、行動するしかない!と言っても、計画通りに進まないのが人生でございます...となれば一度きりの人生、好きなことを見つけて悔いのないように生きるしかございませんね。

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久し振りの青空と雲

2025/04/03
【第2017回】

サクラは満開なんですが、肝心のお天気がいまひとつでサクラちゃんも寂しそうですね。

こんな日は、ピアノ曲を聴きながらゆったりと過ごしたいものです。最近はまっているのが角野隼人さんのCD、最初に聴いたのが街角ピアノ。クラッシックを演奏しているのだがなんとなくジャズっぽい感じもするし、自由気ままにピアノに向き合ってる姿に惚れ惚れしました。彼自身もクリエーターとして新しいものを追求して行くにつれ次第にクラッシックの世界から離れていくという感覚に襲われたそうだ。そんなときに19世紀の作曲家、ショパン、リストが過去の曲を演奏すると共に、有名な曲の編曲、即興そして作曲をする姿に勇気を貰い、クラッシックが現代に生きる音を創る道を歩み始めたそうだ。

エリートでありながら、アカデミックな世界にどっぷりでもなく日常性を楽しみながら今を感じさせる音を繰り出すことに思いを馳せている。彼がクラッシックという概念を取り外し音楽そのものの素晴らしさを伝えようとする様がCDを通じて十分伝わってきます。

 

トランプの関税騒ぎのなか、今日もドジャースの大谷翔平選手9回裏サヨナラホームランをかっ飛ばし開幕からチーム8連勝をプレゼントしました。暗い世相の中、明るい話題を提供してくれる貴重な方でございます。

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推しのピアニスト

2025/03/31
【第2016回】

桜が満開になった途端、季節は冬に逆戻り。今日も慌てて冬のコートを取り出し花冷えの寒さに備えています。それにしても桜の淡いピンクは何となく幸せな気分にしてくれます。実はこの色の秘密は、桜の木全体が懸命になってピンクの色になろうと日々研鑽している結果だそうです。しかも開花に合わせてのタイミングを計りながらの必死の作業というのですから...染織家の志村ふくみさんが、上気したような桜色の着物を仕上げていく過程の中で一番重要なことは桜のごつごつした樹皮から取り出した液だそうだ。しかもこの液は開花直前でないとベストの色が出せないそうだ。自然が織りなす現象に人がどう向き合って創造していくか...なんともスリルであり、ワクワク感、満載である。

人間だって似たようなモノである。不遇の時代を冬の季節なんてたとえがあるように、そんな時期にこそ只ひたすらに、がむしゃらに森羅万象、目にする、感じるもの悉く蓄える。そして春が来て見事な自分しか出せない花を咲かせる!

 

桜見物に酔いしれているこの日も、ガザ、ウクライナで多くの不条理な死。そしてミャンマーの地震。大国のリーダーの一刻も早い目覚めを期待したいのだが...己の欲望にしか興味がない彼らの幹なるモノには血なまぐさい液が流れているに違いない。

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今日の神田川

2025/03/28
【第2015回】

今年も野球の季節がやってきました。大リーグは一足早く東京でプレー、人気球団ドジャースの来日で大変な盛り上がり。お目当ての大谷選手のホームランも華を添えました。そして、今日、本拠地でタイガース相手に接戦を制し開幕から3連勝、この日またしてもファンの期待に応え翔タイムホームラン。この人はもはや人間ではありませんな...野球の神様が、この苦難の時代に遣わした使者としか思えません...髪もスッキリ、野球小僧みたいな風貌で弾丸ライナーを飛ばすんですから観客にとってはたまらん選手ですバイ!それにしても、ベースボール本場の球場での光景が素敵ですね。グランドに家族共々の始球式、試合終了後も選手と家族がグランドで記念写真撮ったり談笑したりと自由奔放な雰囲気がいかにもアメリカらしい。トランプもさすがに野球には口出ししないと思いますがね...

さて、日本のプロ野球も今日がスタート。なんだか大リーグ人気に少々押され気味なんですが、ここはひとつ頑張って欲しいところですね!ちんたら野球が一番いけませんね、実力が伴わない選手ほどスピード感に欠けます。日々大リーグの中継が放映されているので学習して欲しんもんでございます。

今年のライオンズ、各評論家の予想ではいずれも4位、5位という予想ばかり。オープン戦では12球団中2位の成績、投手、打者ともどもなかなかの数字を残しているにも関わらず評価が低い。ここは昨年の悔しさをバネにして予想を覆して欲しい!おいら的には、今年のライオンズはかなり上位に食い込んでいくと思っています。昨年は、はや5月で終戦だっただけに今年は最後までワクワクする戦いを期待していますよ。

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今日のサクラ

2025/03/26
【第2014回】

昨日は映画「ウィキッド 二人の魔女」を鑑賞。当たり前のことだが、やっぱり映画は映画館で観なきゃ本当の良さは分かりませんね...ウィキッドの原作は1995年に発表された小説。そして、2003年にブロードウェイ、2007年からは日本では劇団四季で演じられ、今も上演される人気の舞台である。実は2004年に映画化の話が出たけど、いろいろから先送りにされたらしい。それにしても、芝居は勿論、歌、踊りの質と量にただただ圧倒されるばかりだ。何と言っても、ダブル主演となるシンシア・エリヴァとアリアナ・グランデのやりとりに目が離せない。人気者と嫌われ者、真逆の2人の女性がお互いに反発し合い、そして友情を深めていく姿がストーリーの軸である。さらにそこに普遍的な差別や正義、歴史に対する批判など今尚続く社会問題も盛り込みながらさまざまテーマが描かれている。ただ、多様性をとりあえず差し込みましたみたいな作品ではなく、それらを包括した内容はある種哲学としても読み取れる深さだ。

そして今回の映画のリアル感は、録音ではなく、現場での歌唱でお互いに戦おうとした姿。通常ミュージカル映画は、踊りながらの芝居であるため歌は録音したものを使用するのだが、二人の思いを込めたナマの表現力が3時間近くの作品なのに最後まで飽きさせない。

 

一昨日のサクラ、今日見事に咲いていました。今週の週末が満開、サクラ見物で大賑わいでしょうね。東京は花冷えなので暖かくしていかないと体調崩しますからご用心。

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サクラサク

2025/03/24
【第2013回】

サクラ開花宣言を今か今かと待つ人達のワクワク感が、なんだか暗いニュースが連日流れる中、大谷選手の動向ともどもたまらないですね。一年に一度の恒例行事といえ、満開のサクラを見上げながら古代の時代から、今ある幸せに感謝の思いを託したのではなかろうか。

この時代、サクラも多種多様で早咲きのサクラも良いのだが、やはり花の美しさや華やかさが抜きん出てるソメイヨシノが横綱でしょうね。この品種の花言葉は「純潔」、これは花の美しさを上品な女性に例えたと言われています。

先週の土曜日は中野にあるザ・ポケットで上演された劇団温泉ドラゴン第19回公演「痕、婚、」(こん、こん、)を観劇。関東大震災に起きた朝鮮人大虐殺事件にまつわる物語でした。

この話は、今までにも舞台、映像を通じて悲惨な歴史、とりわけ日本人の偏見、差別の 問題として取り上げられてきました。差別、偏見、人であるならば誰しもが持ち合わせている負の部分です。だからいつまで経っても「歴史は繰り返される」なるものが延々と続いています。この負の部分をいかに己の中で希薄にしていくか...と分かっていながらなかなか成就できないのが、それぞれの環境、事情、思考などが絡み合って生きているからだと思います。そして時の権力者が、その負の部分を巧みにコントロールして戦争という最悪の筋書きを作り出していきました。

ガザの惨状、ウクライナの先の見えない不安...そんなニュースを日々見聞きするこの時期、淡く色鮮やかに咲き乱れるサクラに世界平和の思いを託したいものですね。

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アシタヒラクカナ

2025/03/21
【第2012回】

昨日は、地下鉄サリン事件から30年...あの日の惨劇は今でも忘れることが出来ません。洗脳がいかに怖いかを改めて考えさせられた事件です。亡くなった人は勿論、今尚後遺症に苦しむ人達の姿を見る度に麻原以下、幹部の者たちの責任は死刑になっても許せるものではありません。その者たちのほとんどが高学歴の知識人、研究者であったことも、この国の教育システムがいかに偏狭であったかが問われているのではないか...なのに、未だ小学生から塾に通い、有名校を目指す青白き子どもたちを目にする度に心が痛みます。そんな人に限ってカルトに嵌ってしまうとは思いませんが、受験地獄に陥った者の落とし穴のひとつなのかも知れません。

 

それにしても今週は大リーグの日本での開幕戦で大盛り上がり。ドジャースに3人、カブスに2人の日本人選手、そしていずれも超一流の選手、それに本場のスピードとパワーに溢れる選手が一同に集まってプレーするのですから、野球ファンにとっては夢のような話です。そして、皆が待ち望んでいるホームランをいとも簡単に魅せてくれる大谷選手。今年もこの人から目を離せない一年になりそうですね。ドジャースの選手に鮨振る舞ったり、為すことすべてが優良すぎて何だか心配すらしてしまいます...だって人間完璧じゃないから面白いんじゃないですか?ここまで完全無欠だと、ひょっとしたら神様が送り出した人間としてのお手本。いろんな意味で、彼の一挙手一投足は興味の的であり目が離せんませんね。

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そろそろだね...

2025/03/19
【第2011回】

昨日は久しぶりに帝国ホテルに行ってきました。一般財団法人光文文化財団が主催する第28回鶴屋南北戯曲賞の授賞式がありました。トムでも今までに6本の作品を依頼した古川健さんが見事受賞。2002年に大学仲間と共に創った劇団チョコレートケーキの座付き作家であり、これまでにも読売演劇大賞、紀伊國屋演劇賞など現代演劇に新たな歴史を刻んできた注目の劇作家のひとりです。

彼の作品は一貫して、あの忌まわしい戦争に突入していったすべての日本人とはいったい何だったのか?数年前に注目された古典的名著「歴史とは何か」でE・H・カーは、歴史とは現在と過去の対話であると述べている。古川健が演劇を足場として試みていることは、対話の延長線上に、いまだ戦禍に塗れた世界を救うヒントがあるのではないかと...膨大な史実、資料を前にしながら身を削って机に向かう彼の姿が目に浮かぶ。

受賞の挨拶で「当たり前のことながら戯曲は一人では作り出せません。戯曲を演劇に立ち上げてくれるすべてのキャスト・スタッフを信じなければ、一文字だって書けるものではないのです。ですから、この度の受賞も、いつも創作を共にしてくれている、仲間全員での受賞であると考えています。」

そうなんです。芝居は総力戦ですが、なんといっても基本中の基本が戯曲です。おいらもこれまで一番重要視したのが台本です。この作品が或る水準以上に行けるかどうかは上がってきた台本でほぼ決まります。劇作家の弱体化は演劇そのものの存亡を意味します。

経済的にも決して恵まれない状況下で、命を削って日々言葉と格闘している劇作家の皆さんを応援していくのもプロデューサーの仕事なんです。

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おめでとう!

2025/03/17
【第2010回】

再々演の「モンテンルパ」、昨日、無事東京公演を終えることが出来ました。ここのところ天気の変化が激しく、昨日も冷たい雨が降りしきる中、多くの方が両国シアターΧ(カイ)に来ていただき満席での千秋楽でした。この厳しい世界状況のなかで、戦争にまつわる話を演じる俳優としては、かなりのプレッシャーを感じるのではないか...演者の戦争そのものに対する見識、解釈などが役を通して見えてくるのも当然であり、どのスタンスで演じているのかが透けてくる。

今回はその点、出演者5人がその辺りの機微を素早くとらえなかなかいい芝居に仕上がっていたと思います。大和田獏、島田歌穂さんのベテラン俳優の誠意溢れる演技はしっかりと地に足が着いていたし、この芝居の幹なる部分に人間としての生きるべきすべてが注ぎ込まれている思いがしました。

真山章志、カゴシマジロー、辻井彰太さんの3人は、複数の役を演じ分けるという難役をそれぞれに工夫しながら演じていました。おいらも稽古場で気になっていた点は何度かアドバイスしたのですが、本番ではしっかりと修正されていました。これも、3人がこの芝居を今なぜ上演すべきかの真意を感じ取っていたからでしょう...正直言って、劇団であれば一人の役者が何役もやるなんてことはなかなか無いのだが、少人数でも成立させられる演劇の妙。勿論、制作側としても経費を抑えられる利点がある。この時代、全てにおいて利便性満載だからこそ、より少ないものでいかにクオリティの高いモノが創れるか?そこがモノ創りの面白いところでございます。

この芝居のラストで、渡辺はま子(島田歌穂)と、加賀尾秀忍(大和田獏)が交わす会話

 

はま子「二十一世紀には、この世界から戦争は無くなるでしょうか。」

加賀尾「...どうでしょう。」

 

この台詞は重い。

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三寒四温

2025/03/12
【第2009回】

昨日は、東日本大震災発生から14年目。いまだ避難生活を余儀なくされている人は、2万7615人。原発周辺の町、村は戻ってくる人も少なく見捨てられた状態です。昨日も、嘗ての村のお祭り、桜並木、自然に恵まれ日々幸せに過ごした時間を懐かしく話されていた人達の無念の表情が印象的でした。

なのに、東京電力のお偉いさん方にはなんの罪も科すことなく無罪の判決。かたや政府は原発削減のお題目を消し去り、更なる原発増設を打ち出す有様。一体全体この国はどうなっているんや!と言いたい。今も国会開会中、与野党共々駆け引きに躍起となり所詮党勢拡大のために右往左往してる姿が見えるだけ。ほんまに国の未来を真剣に考えているんだったら、与野党どちらでもいいから一刻も早く議員数削減の提案をしてくださいな!大臣のたらい回し、いきなり大臣に指名されても専門職じゃないので官僚のロボットでしかない存在。無駄な議員が血税で優雅な暮らししているのにいまだ許容される不可思議な世界が続いています。やっとこさトップになれた方もそれなりに汗かいているんだろうけど、いまいち覚悟がないね。蚊帳の外に置かれていたときの理想論が懐かしく思ってしまいます。

いずれにしても被災列島日本、何回被災しても学ばない政府、行政に腹たちますがな...

未だ行方不明になった妻を探しに、潜水士の国家資格を取得し海に潜って捜索する男性の姿を為政者はどう感じてるんだろうか?人の痛みをわがことのように思える人が国を治めてもらいたいのだが、どうやら見果てぬ夢なんでしょうかねこの国は...

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弥生の空

2025/03/10
【第2008回】

先週の週末、新宿御苑にあるシアターサンモールでMUSICAL「O.G.」を観劇。2016年にキャパ80席の劇場でスタートした阿知波悟美さんと、旺なつきさんによる芝居です。両ベテラン女優が自分たちのやりたいことをやる!という強い意志でスタートしたに違いありません。俳優の仕事は基本的に待つ仕事なんですが、待ってばかりだとあっという間に人生終わっちゃいます。この芝居は阿知波さんが企画したそうです。トムでも2023年に上演した「沼の中の淑女たち」で、出演者の一人が病気で降板した際に急遽引き受けて頂き10日間ばかりの稽古で見事な芝居を魅せてくれました。帝劇のミュージカルから小劇場にわたるまで幅広く活躍されている実力派女優の一人です。

今回の芝居は新宿歌舞伎町から舞台は熱海のスナックへと変わります。二人が再会し物語は17曲の歌を交えて進行していきます。決して若い年齢ではない二人(オールド・ガール)のパワーは半端ではありません。歌詞の中にも、今置かれた状況を面白可笑しく哀しい言葉が発せられます。同世代の女性観客にしてみたら共感と共に、まだまだ頑張って生きて行かなきゃ!なんて気持にさせられますね。

 

今日は1945年3月10日の東京大空襲から80年が経ちました。犠牲者は、推定で10万人以上。実は80年たっても犠牲者の遺骨のほとんどは名前がわかっておらず、今も、都内の施設に安置されています。過去の悲惨なこの事実を、この目まぐるしい世界の状況下なかでも忘れてはならないと思います。

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今日の神田川

2025/03/07
【第2007回】

来週、15日~16日、2日間、両国シアターΧ(カイ)で上演する「モンテンルパ」の稽古が始まりました。初演はコロナまっただ中、観客数制限付の2021年1月でした。無事に公演が終わったときの喜びは今でも忘れることが出来ません。再演が2024年2月東京、東北併せて20ステージ。そして今回が再々演、公演を重ねる度に芝居が立体的になってきたと思います。特に再演時、台本を大幅に改訂したことによって日本軍の加害者としての立場を鮮明にしたことが大きな要因。戦争の本質そのものが加害者、被害者で成り立っています。

と言うことは勝者、敗者いずれもなんの得もない不毛の消耗戦。なのに、未だ一部の独裁者の独善的な思想、行動で世界を不安に陥れています。

先日、ある若い演劇愛好家の女性と話す機会がありました。彼女曰く、「戦争に関する芝居は極力観ないようにしていました、なぜなら辛く悲しくなる...」そんな彼女が、「おばぁとラッパのサンマ裁判」を観て気持の変化が起きたとのこと。要は創り手の創意工夫ひとつで悲惨な光景さえ、未来を見据えた希望へと変貌出来うると...芝居の可能性を感じます。歴史的事実を芝居のチカラで観客の想像力を喚起させる時空間にしてしまう。

今回は短期間での稽古になりましたが、キャストの皆さん初日から立ち稽古ながら台詞がばっちり入っておりました。今年は戦後80年という節目の年、そしてウクライナ、ガザなど一触即発状態。演劇を通して、少しでも平和な世界にしたいという気持の表れだと思います。

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晴天の白梅

2025/03/05
【第2006回】

新宿アルタが、つい先日2月28日をもって閉店となりました。アルタのまえは食品百貨店二幸ビルが建っていました。1970年前後はその前のグリーン広場ではヒッピーがたむろし道行くサラリーマンに自由奔放さを見せつけていました。その周辺では日々、人だかりができ政治、社会、芸術などなど、それぞれがそれぞれの意見を述べ合い、これからの国の在り方やら国際情勢を語り合っていました。時には、殴り合い寸前なんて過激な論戦もありました。今からでも遅くない!なんとかすればマシな国になるという熱気が漂っていました。

その後、1980年に二幸跡地にスタジオ・アルタがオープンし新宿広場の熱気も冷め穏やかな場所と変わりました。1982年にはその後32年続く長寿番組「フジテレビ「森田一義アワー 笑っていいとも!」が開始。皆勤するタモリさんの姿も度々見かけましたね。アルタビルの裏側にあった楽屋口にはその日出番があったゲストを待つ出待ちのファンがたくさんいました。おいらはその少し先に会ったジャズ喫茶DIGに一目散、たまには同じビル1階にあったロールキャベツの店アカシアで舌鼓。

おいらも新宿ぶらぶら散策60年。この広場で見た光景そのままが時代の趨勢そのものでした...今は無味無臭、多くの外国人が新しく出来た3Dで写し出される猫のビジョンを眺め新しい街新宿を闊歩しています。そういえば怪しげな輩も少なくなりましたね...新宿の面白さは得体が知れない変人奇人が自由に徘徊する街でございました。

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さようならアルタ

2025/03/03
【第2005回】

今年の「おばぁとラッパのサンマ裁判」3月2日大阪で無事千秋楽を迎えることが出来ました。東京公演後、千葉、長野、茨城、福井、和歌山、そして大阪。なにせこの季節ドカ雪注意報で交通手段に悩まされました。新幹線のチケットは取ったものの、ストップすれば次なる手を打たなきゃならないし、大道具を運ぶトラックの運行状況にも一喜一憂。幸いにして全て予定通りに公演が出来、あらためてこの芝居にかかわったすべてに感謝です。

そして雪の中、各会場に来て頂いた地元の観客の皆様にはただただ頭が下がる思いです。そして何よりも、「初めて観た芝居がこんなに面白いものだとは知らなかった...これからも観続けたい!」なんて声が返って来ると、こちらもよっしゃ!となるもんでございます。

しかしながら、今回の公演、後半になりスタッフのなかに食あたりなど発生しハラハラドキドキもありました。と言っても、地方公演の楽しみは何と言ってもその土地の美味しいものを食べることは外せません。後半ともなると厳しい旅行程の中、心身共に疲労のピーク、体調万全でない時期の慣れない美食は身体が受け付けないのかもしれませんね。

先週の土曜日、久しぶりに新宿ゴールデン街に出かけました。相変わらずぶらぶらしている人の8割が外人なんですから、昔の面影は外観だけという有様。半世紀通い続けているおいらもなんだか遠慮しながらなんとか「ガルガンチュア」に辿り着きました。81歳になるママ石橋幸さん(通称タンコ)は元気でホッとしました。悪しきロシアではなく体制を批判した詩人など、古き良きロシアの庶民の歌を今尚歌いながら店を仕切ってる姿は嬉しい限りです。

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外国人に人気のゴールデン街

2025/02/28
【第2004回】

昨今、情報による功罪があちこちで話題になっている。昨日鑑賞した「ブルータリス」、もうすぐ発表される第97回アカデミー賞で10部門にわたりノミネートということで、上演時間3時間30分にかかわらず出かけました。いや、長かった、疲れた。

第二次大戦のホロコーストから生還したハンガリー系ユダヤ人ラ―スロー・トートーの伝記映画である。冒頭から不可解なシーンが現れる。アメリカの象徴である自由の女神が逆様に写されている、なぜ像は転倒しているのか?そのアメリカの実業家をパトロンとして、フィラデルフィアを見下ろす丘に一大共通コミュニティホールを建築する仕事を任される。その後、欧州から出獄できない妻とも再会できるのだが、彼女から送られた手紙「自由でないのに自由だと思っている者こそ、一番の奴隷である」この言葉のすべてがこの作品の意図ではないだろうか。

それにしても、ラ―スローがこの建築に託したものはエピローグで明らかになるのだが、いまいち明確ではない。彼は自由のために粉骨砕身闘った英雄か?それとも自由という名のもとに踊らされたピエロか?それともどちらでもない全く異なる別の存在か?いやはや、3時間半も付き合わされて主人公の分裂と矛盾を行ったり来たり、途中休憩15分があったから良かったもののぶっ通しの上映だったら足腰立てませんがな。

でも主人公を演じたエイドリアン・ブロティはさすがですね。2002年公開の「戦場のピアニスト」で史上最年少アカデミー主演男優賞受賞だけのことはあります。今回の長時間上映に何とか耐えられたのは、彼の内面から溢れ出る様々な感情の機微の見事さ。こんな役者を観れる楽しみが異国の映画には確かにありますね...。

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きさらぎ末日の紅梅

2025/02/26
【第2003回】

いやはや最初に観て、すっかり主演女優のジュリー・クリスティのファンになっちまったあの名作「ドクトル・ジバゴ」60年振りに再会。映画が娯楽の王者であった時代に相応しい全編3時間半の大作である。監督は「アラビアのロレンス」「戦場に架ける橋」でメガホンをとったデヴィッド・リーン。原作は1958年にノーベル文学賞を受賞したロシアのポリス・パステルナーク。この作品は第一次世界大戦とロシア革命という動乱の時代を背景に二人の女性を愛する医師ジバゴを軸に展開していく。広大なロシアが舞台であるだけに人員、美術、セット、そしてロシアの自然。当時は勿論VFXやCGなんかは皆無、人海戦術でシーンを創りあげた感動がスクリーンからビシバシ伝わってくる。18歳のおいらが映画に夢中になり、こりゃ東京に行かんと話にならんですばい!と背中を押してくれた作品のひとつでもある。それにしてもジュリー・クリスティ、罪深い女です。ジェラルディン・チャップリン(あのチャップリンの娘さんである)演じる奥様がいながらも、確かについつい惹かれていく魅力、こんな女性に出逢ったら最後、間違いなく人生狂わせること間違い無し。

若き日のアレック・ギネス、そして怪優ロッド・スタイガーの存在もさすがである。彼の「質屋」「夕陽のギャングたち」の演技は今尚おいらの記憶に深く刻まれている。

映画と言えばもう一つの主役であるメインテーマ。この作品を担当した名匠モーリス・ジャールによる「ララのテーマ」が良いタイミングで流れてくるので涙がチョチョ切れますばい。

勿論、主演男優オマー・シャリフのいつも潤んだ瞳で苦悩する姿がこの作品を支えている。

やっぱり映画は人生の師でございます。

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新宿西口の夕暮れ

2025/02/25
【第2002回】

先週の週末は、中野スタジオあくとれにて劇団ぼっかめろん第34回公演「星の王子さまHollywoodに行く」を観劇。主宰者倉澤周平、出演者の一人小林達雄はおいらが若い頃テント芝居やっていた演劇群走狗の戦友だ。それにしても二人とも老体鞭打ってよくぞやってるなと感心した次第です。達ちゃんの芝居の案内状のなかにこんな言葉が記されていました。

「ここまで演ってきたことは確かなのですが、その来し方になんの手応えもないし、なんの実感もないのです。いたずらに時間が流れ過ぎてきただけで、実はなにもしてこなかったのではないかという気さえするのです。幕が下りると同時にすべてが消え、後には何も残らない芝居の性質のせいでしょうか。ここ数年、<消え時>を失って、これが最後をくりかえしオオカミ老人と化しています」

いかにも達ちゃんらしいなと思います。でも80過ぎてもなお舞台に立ち続けきりりとした味のある芝居をしてるんですから立派です。筋が通った一人の男の生きざまを見せられる思いです。人生何が幸せか、大切か、こんなこと人と比べるものではありません。舞台で己の身の処し方を晒す行為なんて誰しもができることではありません。命果てるまで舞台に立てるなんて、ある意味うらやましいことですよ。

昨日までの寒さもおさまり、今日は春を予感させる天気です。あちこちに咲き始めた梅の花と鳥もなんだかウキウキしています。

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メジロとウメ

2025/02/21
【第2001回】

久しぶりに読後感がよい本に出逢った。第172回直木賞受賞作、伊与原新著「藍を継ぐ海」。地球惑星科学を専門とする研究者から作家に転身した異色の作家である。一話独立五つの短編シリーズなのだが、地方を舞台に科学とは縁がないと思っていた人が、科学を嗜好する人と出会い対話することで、それまでとは全く違う視点から人生を見つめ直し新たな一歩を踏み出していく展開。現代人が科学知識や科学的思考を駆使しながら、地方の歴史や伝統を未来に繋げようとする試みも読み物として秀逸である。

科学知識と地方に住むごくごく普通の人たちとで紡がれる人間ドラマのなかに、今現在、町、村、限界集落などなど、この国の未来像のヒントが隠されている。

この五編、皆読みどころがあるのだが、おいらは最後の「藍を継ぐ海」に感銘を受けた。徳島県の南東部に位置する架空の阿須町にやって来るウミガメを巡る話。年毎減少しながらも浜に帰って来るウミガメに対し

「どの浜に帰るかは、カメさんたちが決めること。気に入った浜には帰るし、気にいらん浜には帰らん。保護したいとか、増やしたいとかいうても、人間はまだそこまでウミガメのことを知らんと思うよ。人間の考えるとおりには、なかなかならん」

「もし浜が見捨てられても、何百年後かには浜も自然ときれいになっとるやろ。そしたらカメさんのほうで、勝手にこの浜を見つけてくれる」

どんなに科学が進歩したとしても、この世に無垢なる魂を持った人がどれほどいるかによってこの地球の寿命が決まる予感を感じさせてくれる小説である。

2001回目の夢吐き通信です。よっしゃ!3000回を目指しまっせ。

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春を待つヒヨドリ

2025/02/19
【第2000回】

なんと今日で「夢吐き通信」2000回となりました。振り返ってみれば2002年に書き始めたのですね。トム・プロジェクトのホームページを覗きに来て頂いている方々に少しでもトムの動きを知って貰いたいと言う気持で筆をとりました...タイトルは社名吐夢にちなんで付けました。おいらのキョロキョロ人生を言葉にしたブログですね。人として生きていること自体が奇跡みたいなモノですから、その日目にし、感じたことを素直に表現したい。日々新鮮、日々発見と言う言葉が好きです。

「街は劇場X激情」というタイトルで新聞に連載したときも、人との出逢いを中心に、おいらの感性にフィットした事柄を好き勝手に綴りました。思いは言葉にしないとわからないこともそうですが、一瞬一瞬の過ぎ去った時空間をコンパクトに掬い取ってみたい。

途中から写真も掲載しました。視覚に訴えるチカラも捨てがたいものがあります。目に留まった風景を己のセンスで切り取るのも楽しい作業でした。そして読んで頂いた方がそれぞれの想像力を駆使して感じて欲しい。

継続は力なり!飽きっぽいおいらがここまで書き続けたことに正直言って驚いています。これから先、どこまで継続できるかどうかは分かりませんが、頑張らずに今まで同様気楽に書いてみようと思っていますのでよろしくお願いします。

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春を待つクロッカス

2025/02/18
【第1999回】

先週の週末は吉祥寺シアターに出かけました。今から20年前にオープンした時、こけら落とし公演に呼ばれ、鄭義信作・演出「カラフト伯父さん」、ふたくちつよし作・演出「ダモイ~収容所から来た遺書~」の二本、連続公演をしました。武蔵野市はもともと文化に理解がある地域で東京都の中でも一番住みたい街として人気があります。演劇を通してより盛り上げていこうという姿勢においらも賛同した次第です。

今回、上演された芝居も若い俳優を中心とした枠組みにコンテンポラリーダンスを取り入れ、活気溢れる吉祥寺の街をよりイメージアップしていこうという試みだったと思います。

18人の男女が身体を駆使し、あらん限り声を絞り出し演じていました。おいらも30年プロデューサーやっていますが、一生懸命、汗水垂らしてなんてことは当たり前のことです。表現の世界ほど、まして役者なんて良し悪しにどんな基準があるのかかなり曖昧だと思います。音楽、舞踊の世界はあるていどの判断がつくのですが、こと役者に関してもヘタウマなんて言葉があるようになかなか難しいモノがあると思います。

そんな玉石混交のなか、この世界で役者として生きていける人達を見いだすのもおいらの仕事です。今回、トム所属の佐々木優樹君も出演者の一人でした。ひいき目ではなく彼が一番の才気を感じました。小柄で童顔でありながらなにかやってくれそうな役者ぶりでした。

いつもながら貴重な時間を使っての観劇、ひとつでも発見があれば十分です。考えてみればこの世の中完璧なモノなんかありません。何事も発展途上だからこそ面白いかもしれませんね...

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寒波襲来

2025/02/14
【第1998回】

下條アトムさんが亡くなりました...アトムさんと出逢ったのは2001年、おいらの若い時代の芝居仲間である高橋美智子(彼女も今年1月に亡くなりました)が書き上げた戯曲をおいらがプロデュースし、アトムさんに出演依頼したのがきっかけです。演出はテレビの世界で数々の話題作を演出したW氏を指命。彼の意外性、キャラクターに既成の演劇にないモノを期待したはずだったのですが...稽古場での馬鹿でかいダメ出しとオヤジギャグの連発で稽古場の雰囲気は盛り上がったのだが、この世界で良くある若い女優さんに手を出しそうな行為が発覚。おいらは彼に一喝「演出家として退場!」その途端、知名度を武器にワイドショーに出まくりおいらに恫喝されたと吹聴する始末...そんなごたごた騒動のなか演出を買って出てくれたのがアトムさん。この力強い一言でキャスト、スタッフが一丸となり「輝く午後の光に」銀座博品館での公演無事に終えることが出来ました。

これがきっかけで、アトムさんの方から舞台をやりたいと言うことでトムに所属することになりました。その後、「とんでもない女」「ダモイ~収容所から来た遺書~」ひとり芝居「思ヒ出ニ、タダイマ!」「欺瞞と戯言」「裏小路」「沖縄世うちなーゆ」の舞台出演。時折、彼特有の個性、声を活かしての市民からの様々な感謝の手紙を基に構成した「ありがとうの手紙」などなど、トムの創成期に力を貸して頂きました。

アトムさん繊細な人でした。折に触れ演劇論も戦わせました、彼独特の拘りが末永くこの世界で生き残って来たのだと思います。

闘病中にお見舞いに行ったときに朦朧とした記憶の中、「アトムさん、又芝居やりましょう!」と声を掛けると、この時ばかり目を輝かしながら「うん!」と答えていました。24年前にアトムさんに出逢って良かった!そしてありがとう...アトムさんとの数々の想い出はおいらの宝物のひとつですよ。

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おつかれさまでした

2025/02/12
【第1997回】

いやいや演劇三昧、怒濤の日々の連続でございました。トムの「おばぁとラッパのサンマ裁判」が3日から9日まで7ステージ、10日は浅草九劇で昼間に「日の丸とカッポウ着」、夜は吉祥寺シアターで「女性映画監督第一号」、11日は座高円寺で「おどる葉牡丹」を観劇。こんなに毎日芝居観てると好きな芝居も嫌いになりますがな(笑)勿論、演じる方はもっと大変でしょうが観るエネルギーも相当な覚悟がいります。後期高齢者となれば劇場の椅子の質によって腰の負担もかなり厳しくなってきます。小劇場系統の席は大劇場のゆったり高価な椅子と違って、パイプ椅子同等のものが当たり前で時折身体の位置を変えねば固まってしまい劇場を後にする姿は見るも無惨な歩きとなってしまうという方もございますことよ。

今回、全体的に感じることは若い役者さん皆器用に演じてることにビックリしました。確かに上手い、隙がない、達者である...でも、いまひとつこちらにその演技が響いて来ない。今の若者の生活環境からきていることは紛れもない事実だ。あらゆるジャンルの音と映像に囲まれ、様々な情報を手っ取り早く仕入れ、なにひとつ手に入らないものがないという便利さが器用さに繋がっているのでは...不便極まりない時代のなかでの俳優修業を強いられた者は、その足りない分野を埋め合わせるために想像力を感興しながら駆使したに違いない。

昔から不器用な役者ほど、何とも言いようのない存在感を示していたような気がする。そんなに早く上手さ器用さを求めるな!己の固有の心身に無駄なモノこそ引き受け、十分に咀嚼、熟したものを表現して欲しい。

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浅草路地裏からのスカイツリー

2025/02/10
【第1996回】

昨日、「おばぁとラッパのサンマ裁判」新宿紀伊國屋ホールで無事に東京公演千秋楽を迎えることが出来ました。プロデューサーとしては日々戦々恐々、メールや電話がかかってくる度にドキリ。キャスト、スタッフのなかからのインフルエンザ、コロナ感染、事故の知らせではないかと心配の毎日でした。この報が流れた時点で芝居は中止せねばなりません。ライブはこれが一番怖いのでございます。幸いにして今回のメンバーの細心の注意と集中力で何とか乗り越えることが出来ました。昨日は3度のカーテンコールがあり、客席も大いに盛り上がりまさしく千秋楽に相応しい舞台だったと思います。

この芝居、沖縄が舞台の芝居だけに多くの沖縄の方々が観客として来て頂きました。皆さん口をそろえて沖縄公演を実現して欲しいとおっしゃっていました。地元沖縄の人達にそう言って頂けると言うことは、我々の沖縄に対する幾重の思いが伝わったんだと...と言っても、未だに地位協定の問題ひとつにしても石破、トランプの初対談でも話題にもならず、悔しい思いをするばかり...でも、今回のサンマ裁判同様、負けても負けても何度でも諦めることなく主張するしかありませんね...芝居も然り。

この芝居、これから千葉県野田市、長野県上田市、茨木県つくば市、福井県越前市、和歌山県有田市、大阪府富田林市で上演されます。ご近所の方々、是非劇場に足を運んでより沖縄を感じて頂ければと思っています。

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今日のメタセコイヤ

2025/02/07
【第1995回】

昨日で4ステージ無事に終えることが出来ました。概ね好評でホッとしていますが、芝居の捉え方は人それぞれ、ラストの締めくくり方が今の沖縄の現状を鑑み楽観的では無いかとの意見も当然あることでしょう...確かに歴史を振り返ってみれば、明治維新の際に琉球処分で統合された沖縄県で当時の言論人である伊波月城が教育を始めとする沖縄人蔑視を巡り政府を批判。本土での大正デモクラシーと共鳴し列強に脅かされていた中国、インドと連帯しアジアでの民族覚醒を呼び掛けた過去がある。

ただ見ての通り、沖縄はいままさにアジアでのチカラによる分断の最前線にある。敗戦後未だなお在日米軍基地が日本全体の70%を占め、なおかつ自衛隊の配備が着々と進められている。この中からどうアジアの可能性を見出すかが大きな課題でもある。アメリカ、中国、ロシアが大量の核を保有し身動きが取れない中、小国や限られた地域の当事者が今の状況を変えていくことが出来ないか...沖縄の人達は、戦争が起こればどんな悲惨な状況になるかは身に染みてわかっています。だとすれば、いかなる攻撃も許さないよう沖縄から非武装地帯を拡げていくなんて構想もありだと思います。

こうやって沖縄の芝居を上演していると、沖縄の知らざる歴史を探索したくなります。なんでも諦めてしまえば終わりです。だってほとんどの日本人が沖縄の今の姿に、許せない!と思いつつもそれ以上声をあげようとしません。沖縄の問題は対岸の火事ではございません。

見て見ぬふりしてると、そのうち大やけどしちゃいますよ。

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童子を待つ公園

2025/02/05
【第1994回】

「おばぁとラッパのサンマ裁判」2ステージ終えることが出来ました。ほぼ満員客のなか役者陣の個性溢れる演技も相まって好評の舞台になっています。今回の芝居、役者さんのプレシャーは半端じゃなかったと思います。テーマが沖縄、これまでの沖縄の人達の苦渋を強いられた背景を考えると、そう易々と演じることが出来ない。先ずは沖縄の現地の人達が日常に会話する言葉のニュアンスを察するところから入り、人物像に迫っていく過程は並々ならぬ関門。役者個々人の苦労話を聞く度に頭が下がる思いでした。

終演後のお客様の反応は上々。沖縄が日本に復帰するにあたり、サンマに関してこんな闘いがあったなんてビックリ。ある意味では沖縄の数々の歴史の中での隠された裏歴史。芝居を創る側としては、この歴史の闇に葬り去られた事実を掘り起こし演劇として成立させることが醍醐味のひとつかも知れません。

芝居の面白いところは、日々同じことを演じることがないという新鮮さ。まさしく芝居は生きモノ、瞬時に空気が変わり前の日に演じた光景が変質し新たなシーンとして誕生する。そのおもしろさを連日味わえるのもプロデューサーの特権です。だから止められないのかな...

昨日の役者さんのアフタートークもお客様十分に楽しんでいただけたみたいです。舞台と客席の一体感とてもしびれます。とにかく劇場に足を運んでくださいな!今までに見たことのない風景があなたの日常に変化をもたらせてくれるに違いありませんことよ...

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絶賛上演中

2025/02/03
【第1993回】

如月の季節がやってきました。おいらがこの世に生を受けた月です。1945年8月9日終戦前にソ連軍が満洲、朝鮮に日本との不可侵条約を無視して侵攻して来ました。おふくろのおなかに潜んでいたおいらは引き揚げ時の悪夢のような日々を感じ取ったに違いありません。そして奇跡的に1946年2月に博多港に引き揚げ誕生しました。生前、母は口癖のように言ってました。「戦争は勝っても、負けても悲劇...戦争程愚かなものはない!」なのに、今尚世界各地で争いが絶えません。いや、これは人類が絶えない限り間違いなく継続されるに違いない。

戦後80年、おいらと共に年を重ねていったこの年月感慨深いものがあります。トム・プロジェクトを創設して30年、何度となく戦争に纏わる芝居を創ってきました。何度も何度もしつこいくらい平和の尊さの声を上げても一向に戦争が止むことはありませんでした。でも、今生きてる者があらゆる手段を行使してでもアクションを起こさねばより劣悪な世界が予想されること間違いなし。

今年も戦争と平和をテーマにした芝居を4本上演します。その1本目「おばあとラッパのサンマ裁判」今日、初日を迎えます。劇場に足を運んでいただき、共に平和の大切さを感じていただければと思っています。

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如月の空

2025/01/31
【第1992回】

来週2月3日より公演の「おばぁとラッパのサンマ裁判」の稽古場に行って参りました。衣装つけての熱気溢れる1時間40分。とにかく沖縄の熱い風が流れとても心地よい舞台になりそうな予感がしました。おいらもこれまで随分と沖縄に関する芝居を観てきましたが、どうしても戦中戦後を通じて当然のことながら沖縄の虐げられた現状に対する怒り、悲しみに焦点が当てられ重苦しい舞台が圧倒的に多かったような気がしました。

今回の芝居は、庶民のささやかな食であるサンマをきっかけに話が展開するのだが、何故か明るい。沖縄の人達が最も大切にしている陽なる気質が全面に押し出され、観てる側もなんだか応援団の一員になってしまう展開。それは、今回のキャストの醸し出す表現力の確かさがそうさせてるに違いない。勿論、戯曲、演出の手腕があってのことだが。

いつもながら、芝居の稽古は一筋縄ではいかない。稽古を重ねるごとに台詞の変更もあり、積み重ねたものを壊しては再度創る日々の連続である。まして今回の舞台は沖縄、方言をマスターしていくのもなかなか至難の業である。あの独特の沖縄の言葉のニュアンス次第で芝居も大きく変わっていく。そうした稽古の集大成として初日を迎える。そして観客に対峙してまた新たな発見を見いだし更なる進化を遂げていく...だから芝居は面白いのだ!

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冬の公園

2025/01/29
【第1991回】

一昨日のフジテレビの実況中継は何なのですかね...10時間も超えるダラダラ質問と回答。この国の混迷ぶりを象徴するような事態でございました。質問するジャーナリスの頭の悪さ、理性を失った輩の汚いヤジ、勿論フジテレビ側のガバナンスの悪さから発した事案なんですが、70歳超のオジサンたちの疲労困憊ぶりを観てると居た堪れない気持ちになってきます。

この時代、やはり早めの世代交代をしないと時代の流れに追いつけなくなってしまいますよ。そして、よりによってフジテレビ全盛時代を創り上げた87歳のドンが黒幕に控えてるんですからにっちもさっちも行かない状態です。ひな壇に居並ぶ5人の役員もとても逆らえませんなんて顔してましたね。

それにしても、今のテレビ局のあり方に問題があると思います。とにかく視聴率ありきの番組編成、この国のバラエティー番組の多さに呆れてしまいます。芸能人のどうでもいい話を何時間もダラダラと流し続ける神経がおいらにはさっぱりわかりません。そんなに視聴者をおバカさんにしたいのかな?とさえ疑ってしまいます。公共の武器を使ってるんだから少しはましな国にする良質な番組を企画制作してみたらと言いたいですね。

芸能人も普通の人間です。テレビ局が忖度し、勘違いし天狗にしちまったのかもしれません。視聴率ありきの選択ではなく、芸能人の人間性を見極めながらのキャスティングで企画制作すればおのずから視聴率はあがりますよ。

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神様、仏様、稲尾様の焼酎みーっけ!

2025/01/27
【第1990回】

先週の週末、下北沢ザ・スズナリで劇団ONEOR8「誕生の日」を観劇。この劇団は舞台芸術学院47期卒業生により旗揚げ、立ち上げから27年が経過しました。おいらも初期のころから観ているのだが、同期である劇団モダンスイマーズの演出家蓬莱竜太さんがやや先行していたのだが、この劇団の主宰者である田村孝裕さんはじっくりと市井の生業、人生観をじっくりと観察し、ここのところエンタメ性も交えながらの秀作を発表しています。他人の隙間に巧みに入り込み人間の業を含めて面白可笑しく描いているのが観客に受けている気がします。

トムでも2023年に「沼の中の淑女たち」を上演。田村ワールドがたっぷりと盛り込められ早々とチケットが売り切れとなりました。彼の演出はきめ細かく、粘っこく、適格なので女優さんにはとても人気があります。もとがシャイな人ですから、怒鳴ったり殴ったり(このご時世こんなことしたら一発でアウトです)なんて論外、理詰めで丁寧にダメだし(この言葉も今では厳禁、ノートと言わなければなりません。なんてこった?ダメ出しでよろしゅうございますと思いますが)する姿に惚れ惚れとするんでしょうね。

それにしてもザ・スズナリという劇場。雰囲気がありますね...トムでも昔よく使わせていただいたのですが昭和の香りがするなかでのアバンギャルドがとっても似合う小屋です。この劇場には間違いなく演劇の神様がおりますな。

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何をしたいのかな?

2025/01/24
【第1989回】

今年も1月から海外含めて波乱の幕開けとなりました。先ずはトランプ、何を仕掛けてくるか先が読めない指導者の誕生で世界は一喜一憂せざるを得ない状況が続いています。就任演説で「性別は男性と女性の2つだけ」と発言。多様性が社会問題になっている流れに水を差すこの言葉にトランプの超保守、更に言えば独裁者に匹敵するくらいの脅威を感じます。

確かに今回の結果は、エリート集団が牽引した民主党政権に対して地道に働く労働者がNOを突きつけたことから始まっています。移民国家である大国アメリカがどのような選択するかによって世界の状況は一変するという危うさを抱えながらの戦々恐々の日々がここしばらく続きそうですね。

一方、日本では連日フジTVの報道で一色ですね。それにしても画面で喋るお偉いさんたちいずれも悪代官みたいな面相してますな。TVはもともと庶民に楽しんでもらう側面と、権力に対してしっかりと監視し提案、提言するジャーナリストとしての役割があると思います。いつの頃からか権力と芸能事務所に忖度し保身に走る流れになってしまいました。今回の引退した人気者も、ジャニーズの亡き親分に人間としてまっとうに生きる術を教えてもらえなかったんじゃないかと思います。ここまで来る前に、自分の言葉で会見することなく「さよなら」はないでしょう。

この時代、すべての悪、嘘が洗いざらい白日の下に晒される流れになっています。生き残るテクニックなんてございません。誠実に実直に生きるしかありません...そうしないと人類は自ずから滅びてしまうこと間違い無しでございます。

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春を待つ枯木2

2025/01/22
【第1988回】

またしても訃報が入ってきました。新木安利さん。大分県中津で松下竜一、梶原得三郎さんと共に平和、環境問題に対して地道な運動を展開した仲間の一人でもあった。おいらが最初の会ったのは2006年、松下竜一さんの芝居をどうしてもやりたいということで中津に向かった。松下さんの御子息、梶原さん、そして新木さん、今この時代松下竜一さんの生き方、思想をより多くの人達に芝居を通して伝えたい旨、熱く語った記憶がある。そして2008年念願かなって「かもめ来るころ 〜松下竜一と洋子〜」を今は無き小劇場ベニサンピットの最終公演として上演した。ふたくちつよし作・演出、高橋長英、斉藤とも子さんに夫婦役を演じてもらった。もちろんご当地中津でも公演、満杯のホールであらためて松下竜一さん夫婦の生き方の素晴らしさを再確認した次第である。

その後、梶原さん共々松下竜一さんの未刊行の全集を出版したり、自ら多くの著作を出版。

いつも笑顔を絶やさず謙虚に発言される新木さんの佇まいが印象的であった。

2016年「砦」を公演した時には東京まで足を延ばし、公演の熱い感想文頂きました。

奥様からのお手紙でも「悔いのない人生だった...」と記されていました。己の信じる道、それも弱者の視点に立って行動する姿は見事だと思います。忖度なんてクソくらえ!なかなかできないことを貫いた新木さん、お疲れさまでした。新木さんの志は残されたものが引き継いでいきますのでゆっくり休んでくださいね。

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春を待つ枯木

2025/01/20
【第1987回】

日本にシェリー酒文化を根付かせた銀座「しぇりークラブ」のオーナである高橋美智子さんが亡くなりました。1986年にオープンし2005年には世界で最も数の多い227種類のシェリー酒がある店としてギネス記録に認められる店になりました。おいらは、54年ほど前に彼女と出会いアングラ劇団「走狗」で7年ばかりテント担いで全国を巡演していました。小柄ながら愛くるしい表情で、その当時のアングラ界でも人気のある女優さんでした。もともとお嬢さんですが、その当時は政治の季節ですから、時の権力に芝居を武器に敢然と戦いを挑むなんて激しい気質もありました。劇団解散後は、勘当されたお父様から泰明小学校のすぐ近くの店を任され、画廊とシェリーとスペイン料理を始めました。

シェリーと言えば日本では食前酒が定番だったのですが、スペインではワインと同等の立場にあることを主張し、世界で唯一の生産地であるへレスの蔵元と交渉しシェリー酒の有名店にしました。おいらも何度も足を運び、シェリーの何たるかを勉強させていただきました。でもおいらだってスペインに3年ばかり住んでいたのでシェリーは大好きなお酒だったんですよ。なかでも大変辛口でデリケートで軽やかな風味の「フィノキンタ」はいつもベッドの横に鎮座し、快適なスペイン生活に欠かせないものの逸品でした。アンダルシアの海辺の潮風を送り込んでくれる爽快感がありました。お供は生ハム...なんて想い出したら今からでも行きたくなっちゃうな!

「走狗」の仲間、島次郎、伊深宣、田島恒、そしてミーコ。おいらもそのうちそちらに行くと思うけど、もう少し楽しんでからにしますね。

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今日の神田川

2025/01/17
【第1986回】

今日は阪神・淡路大震災から30年、各地で追悼式典が行われていました。当時代々木に住んでいたおいらは、この日早朝の出来事は良く覚えています。戦争を知らない世代にとってはかなり衝撃的なことでした。その後、東日本大震災、そして昨年元旦の能登半島地震、いつどこかでこの規模の地震が起きてもおかしくない時代になりました。地震だけではありません、気候変動による度重なる災害。本当に地球が危ない!なのに止まぬ戦争、正直言って未来への明るい展望が見いだせない世界の現状。

今日も式典で、知事の発言、役人が書いたであろう文章を読んでいましたが、この知事に限らず政治家も含めて真剣に災害対策に取り組んでいるとは思えません。その一番良い例が原発再稼働の動きです。震災で未だ住めなくなった福島の町や村の現実を忘却の彼方に消し去ろうとする姿勢に怒りさえ覚えます。この国の30年、大企業優先の利益優先の政策を実施したにもかかわらず国力は衰退し、そのしわ寄せを庶民が負う、なんとも納得できないことばかりです。

こんな時は、松下竜一さんの「暗闇の思想」を読んでみると良い。「自分よりも弱いものを犠牲にしてまで恩恵を受けることに、何の価値があるだろうか。」この言葉に松下さんの一貫した思想が込められている。トムでも松下さんの原作を基にして2本芝居を創らせて頂いた。「環境権」いう言葉を旗印に反戦、反核、反原発へと草の根レベルでの活動を続けながら、地元中津を拠点に多くの記録文学を残しました。時折、おいらの本棚に並ぶ松下竜一さんの著作を手にしながらまだまだ諦めるわけにはいかないと励まされる日々であります。

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冬景色2

2025/01/15
【第1985回】

今年の大学ラグビー優勝を賭けた早稲田対帝京の一戦、13日に行われましたが帝京の底力を見せつけられた試合でした。早稲田、明治、慶應という伝統校に対して地道に強力なチームに仕立て上げた前監督岩出雅之氏の発想力が脈々と受け継がれていると思いました。俗にいう体育会系の嫌な部分を排除し、最上級の4年生に部内の雑用を任せ、下級生に余計なプレッシャーを感じさせないような環境にしたことが画期的だと思います。伝統校のマネをしても伝統校を追い越せないという発想転換の勝利だと思います。この日の試合も、練習試合、定期戦に敗れた早稲田に対し徹底した分析に基づいた戦略で終始ゲームを支配していました。何事もそうですが、地道に己を信じ、たとえ泥臭くてもまじめに鍛錬すれば自ずから道は開かれるという良い見本です。そして、大学ラグビーを盛り上げるためにも、この帝京の強さを打ち崩すチームが出てくることを期待しますね。

同じ日に、国立競技場では高校サッカー日本一を賭けた戦いが繰り広げられていました。

群馬の前橋育英高校がペナルティーキック戦の末に千葉の流通経済大柏高校に勝って7大会ぶり2回目の優勝を成し遂げました。おいらはサッカーよりもラグビー派なんですが、この日の試合はなかなか見応えがありました。1対1の延長戦を戦ってお互い譲らずPK戦になったのですが、なんと10人を擁する戦いになってしまいました。このPK戦何度見てもハラハラドキドキしてしまいます。蹴った方も受ける方も、その結果が残酷な気がします。

失敗した選手が一生トラウマになるんじゃないかと心配さえしてしまいます。

筋書きのないドラマ、これがスポーツの魅力です。これに勝るとも劣らない芝居創らんといけませんね!

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冬景色

2025/01/10
【第1984回】

今年こそ最下位脱出、優勝までいかなくてもいい試合を期待していたのに...ライオンズのキャップテンだった源田選手のスキャンダル。まあ完璧な人間なんているわけがないということを理解していても雲隠れはいけませんな。球界を代表する名遊撃手、仲の良い夫婦を演じていただけにその落差にほとんどの人がガッカリしたに違いありません。一刻も早く記者会見を開き、お詫びと今後のことを自らの言葉で話さないと人前でプレーできないと思いますがね。

それにしてもライオンズの選手は甘ちゃんが多いですね。一流の選手、銭を稼ぐのは練習しかありません。グラウンドにしか銭は埋まっていないことをしかと思い知らないといつまでもどんぐりの背比べで終わっちゃいます。昨年も山川騒動でうんざりさせられただけに、又してもという感じです。いまのうちに規律あるチームにしないと、ライオンズファンは、そして誰もいなくなった!なんて状態になっちゃいます。

一方、元ジャニーズのお方、この方も人前に顔を出しちゃんと話さないと消えてしまいますね。今までは芸能界を牛耳っていた巨大組織に守られていたんですが、すべてにおいて倫理観を求められる昨今、簡単には逃げられないことを自覚しないとあきませんな...

お天道様はどんな些細なこともちゃんと見ていますから、まっとうな生き方をしないとバッサリと切り捨てられます。背筋伸ばして正直に生きましょうね!かといって石部金吉みたいになっても困るし...視野を拡げてくれる遊び心だけは忘れちゃいけませんことよ。

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燃える初春の新宿

2025/01/08
【第1983回】

昨日は春の七草、芹、なづな、御行、はこべら、仏座、すずな、すずしろ、この響きを聞いただけでなんとも日本の原風景が目に浮かびます。この7種の野草・野菜が入った粥(七草粥)を人日の節句(旧暦1月7日)の朝に食べる風習が残っていたのですが、いまどれだけの人が食べていることやら...昨今の慌ただしいこのご時世、こんな風情に浸る時間なんてございません!なんて言われそうですね。

最近、若手作家の本二冊熟読。豊永浩平「月ぬ走いや馬ぬ走い」タイトルだけでも斬新、なんやろ?なんて思いながらページを開いていきました。沖縄琉球大学の現役学生作家で、地元沖縄の戦争を絡ませなんとも不思議な展開。戦争を知らない世代が織りなす世界は彼の想像力と、彼が尊敬するゴダール、大江健三郎の作品を参考にして疾走する新たな文学。

片や町屋良平の「生活演技」、演技する身体を描きながら社会の中で生かされる人間存在の本質に迫っている文体。その独自の文体で語られる不穏な物語だけに読者を選んでいる小説かもしれない。

この二作を読み終わって思い出したのが、井上ひさし氏の言葉「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをゆかいに、ゆかいなことをまじめに書くこと」

こんな小説が、実は書き手に取って一番難しいことではないかと思います。新しい作家が既成の文学にチャレンジする姿は大いに結構なのだが、読後にどれほどの言葉が身体に落とし込まれるのか...そしてその言葉は、その後の人生を決めかねないほど大切なものだと思っています。

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燃えるような夕焼け

2025/01/06
【第1982回】

あけましておめでとうございます。

今年も始まりましたね...昨年の元旦は能登半島地震で始まっただけに、正直何とか無事に年が開けてくれと祈っていました。といっても日本のみならず、世界は相変わらず混沌としていて心休まる日々とは言えません。今朝も北朝鮮がミサイル発射なんてニュースが飛び込んできました。いつ間違って日本本土に落ちてくるとも限りません。正月の風物詩に新たに外人観光客のコメントが多くなったのも、いずれこの国も異国の企業が土地を買収し従来の日本ではない風景を見ざるを得ない将来が待ち受けているのかもしれませんね。

今年の初興行。「おばぁとラッパのサンマ裁判」の稽古が始まりました。舞台は沖縄、沖縄と言えば戦後80年、基地問題、米軍の犯罪などなど、いまだ不利益を被っている沖縄の人達を見て見ぬ振りしてきた責任は重いと思います。芝居に携わっている者としても見過ごすことが出来ません。今回の芝居は声高に叫ぶのではなく、市井の魚屋のおばちゃんが「これおかしいんじゃない?」とシンプルに声をあげたことが最終的に沖縄返還に繋がっていった話です。民主主義はありふれた生活のすぐそばにあるんだよ!ということをいみじくも教わった気がします。

出演者も個性あふれた人達で、今までとは違った結縄の芝居が誕生する予感がします。

2月3日が初日です。新宿の紀伊國屋ホールに是非いらしてくだいませ!

今年も何卒よろしくお願いいたします。

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平穏な年でありますように