トムプロジェクト

2025/08/27
【第2077回】

昨日は明後日初日を迎える「鬼灯町鬼灯通り三丁目」の最終稽古に立ち会いました。いやいや、キャストの皆さん、この猛暑の中、なかなか上質な作品に仕上げてくれたなと思いました。芝居の基本は何と言ってもチームワークです。相手があって成立する産物ですから阿吽の呼吸が合わないとなかなかうまくいきません。一人卓越した役者が居てもどうにもならないのが芝居の世界です。きちんとコミュニケーションができてこそ会話も成立し、そこからお互いの心理戦へとより密度の濃い世界へと進行していきます。

その様を日々観ながら演出する人によって作品も大きく左右されます。今回の作・演出の東憲司さんは、役者の良さを引き出す名手。おいらもいろんな演出家と一緒に仕事をしてきましたが、東さんは役者を上手く乗せながらもきっちりと自分の世界を構築して作品を創り上げるタイプだと思います。役者さんも一癖二癖あるのは当然ですが、そこをどう上手く調教していくかコンダクターとしての手腕を問われるところですね。

稽古場がある錦糸町、稽古があるたびに随分と足を運んでいるのですが下町でありながら味わいのあるお店があちらこちらに点在しています。新鮮な羊肉を提供する店も予約しないと入れない盛況ぶり、粋なママが仕切る和食店、稽古場のすぐ前にある焼き鳥屋、その先には錦糸町らしくないイタリヤレストランなど、そして極めつけは飲みものとセット800円で提供している中華屋さん2軒、近くにすみだパークスタジオがあり、稽古帰りのスタッフ役者さんにとってもリーズナブルな価格なので稽古帰りにちょいと一杯!こんな場でまた一つ良いアイデアが生まれるかも知れませんね。

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下町のシンボル

2025/08/25
【第2076回】

この異常な暑さに耐えかねて、おいらは日傘を購入しました。これまではハットでなんとか凌いでいたのですが、いやはや命の危険さえ感じる地球になっちゃいました。いざ傘をさしてみると快適です。お歳を召した方には是非実行に移されてはと老婆心ながらご意見いたします。大の男が?なんて時代はもはや通用いたしません、予測不能な時代に突入しましたのでとにかく己を守ることに徹してくださいませ。

先週は「入国審査」鑑賞。これも予測不能な出来事を描いた映画。アレハンドロ・ロハス、フアン・セバスチャン・バスケスという二人が共同脚本・共同監督のスペイン映画。撮影14日間、制作費1000万弱、77分ワンシチュエーションという非常にコンパクトな作品だが、内縁関係の男女と入国審査官の息詰まるやりとりが最後までハラハラドキドキの連続。おいらもいろんな国に行った際、入国審査の現場に立ち会い様々な人種のやり取りを目にしましたが、この映画を観て改めてある種の恐さを感じた次第です。権力を笠にプライベートな事情まで詮索し、2人の信頼関係を引き裂いた入管のやり方は非人道的だ、という主張を読み取ることもできるし、人生の途上で政情不安なベネズエラ人に対し徹底的に追いつめる現トランプ政権の移民に対する嫌がらせともとれる取り調べ。観客の視点で言えば、話が進むにつれ各登場人物の見え方、信頼度のようなものが変わってゆくサスペンス的な流れが面白い。感傷的な音楽を流すこともなく、工事音、足音などのノイズが登場人物の心理と相まって効果抜群。この作品は演劇的な映画、審査官とカップルの会話が命、改めて台詞の大切さを感じさせてくれる作品でした。

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サンゴジュ

2025/08/22
【第2075回】

来週の8月29日(金)から始まる「鬼灯町鬼灯通り三丁目」の稽古場に顔を出してきました。連日の猛暑の中、役者さんたちも疲れが溜まっているのではと心配しつつ出かけたのですが、そんな心配も吹き飛ばすくらいの活気あふれる稽古場でした。この芝居の初演が2008年ですから、はや17年になります。東憲司さんに作、演出を依頼して2作目の作品でした。キャストも秋野暢子、川島なお美、六角精児、冨樫真という斬新な顔ぶれだったと思います。この演目は、戯曲がしっかりしているので役者さんが変わっても良い芝居になると思っていました。その後、キャストを変えて再演、そして今回が再々演となります。

戦争が生み出した悲喜劇の物語。今年戦後80年ということで、今まで門外不出の出来事が数々露出されました。戦争体験者も高齢化し、これまではあまりにもおぞましい事件であり口に出すのを憚れていたのですが、さすがに伝えていかねば死にきれないと戦争のない世界を希求しながらの発言だったと思います。

今日も戦禍で多くの命が失われています。先日、戦争犯罪者と会ったばかりのトランプは早速、「侵略国を攻撃せずに戦争に勝つのは非常に難しい」と投稿しました。この男の発言に一喜一憂されている世界の予測不能な状況にただただ呆れるばかりです。

こんな中、せめてもの演劇に携わるものとして芝居を通して反戦の姿勢を示したい。その思いが伝わったのか、今回の芝居、9月1日(月)14時の追加公演のチケットが若干残っているのみとなりました。

無事初日を迎え、来年、再来年に繋がる芝居にしたいと思っています。

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この先が平和でありますように

2025/08/20
【第2074回】

なんとも切ない嫌な世界になりましたね...独立国を独裁者の欲望丸出し感情で侵略し、方や気分に応じて世界の有り様を気ままに弄ぶお方。その二人だけでウクライナのことを話し合うなんておかしな話じゃありませんか?大国のチカラを誇示して俺たちの意向でしか解決できないなんて傲慢な態度がとっても醜いと思います。戦争犯罪者である人物を赤絨毯で迎入れる映像を見た途端、反吐が出てしまいそうです。そしてヨーロッパの首脳が寄り添って陳情する姿も、あの歴史と文化を築いてきた国々すらチカラの前にはいかんともしがたい無力感を感じてしまいます。これからの世界は間違いなくアメリカ、中国、ロシアのご意向を伺いながらの動きになっていくことは間違いない事実ですね。

そこで日本、これまた不安定な政治状況。にっちもさっちもいかない糞詰まり状態のなか、これまた自己保身の政党ばかりで困ったもんでございます。その隙間を虎視眈々と狙ってるのが日本ファーストを掲げる不気味極まりない集団。ストレス発散とばかり刺激的な言動に熱狂する輩の地に足がついてない動きもとても心配になります。

それにしても暑い!後期高齢者の心身は、もはや思考停止に陥る危険性すら感じてしまいます。せめてもの陽が沈む時間帯に、散歩をしながら己の身体の働きをチェックしながらこの日の空の表情、暑さにもめげずしっかりと花を咲かせてる野花に声を掛けながら、今日も無事に活かさせて頂きましたと感謝する日々でございます。

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杉並柏の宮公園

2025/08/18
【第2073回】

お盆休みも終わり今日から又いつもの日常が始まるのかな...子どもたちの夏休みも残すところ2週間ばかり。最近はようやく夏休みの宿題を出さない学校も増えたとか、そうだよね、夏休みぐらいは勉強を忘れ存分に遊んで欲しいね。最近の若者は遊び心が無くなっちゃって可哀想、少々羽目を外してアウトーローな気分で社会を転げ回って欲しいもんでございます。今の世の中の常識なんて大したもんじゃございません、いやあまりにも規制が厳しくアップアップ状態。今日も人気者の俳優さんがエッチな発言したとかで話題になっています。言葉なんてものは個体で判断するのではなく、その前後の文脈のなかでイメージされるのだと思いますよ。個別の言葉をピックアップして攻撃する短絡化する社会が逆に恐いですね。周囲を気にしながらの言葉選び、ますます心身強張ってしなやかさがなくなって行く危険性を愁えます。

先週の週末は、座・高円寺で東京芸術座108回公演「名探偵シートン!!」を観劇。「シートン動物記」で有名なアーネスト・トンプソンシートンの物語です。動物は登場しないのですが、動物たちの目でこの世界を見るというテーマで話が進んで行きます。最近もこの国で熊の出没で話題になっていますが、動物たちに言わせればニンゲンどもが彼らの住み処を開発という名のもとで奪い、挙げ句の果ては殺戮されるという悪魔の所業に見えるのではないか...立場によって世界の味方が変わる。声高に叫んでいる多数のいかにも正義の顔をしているひとたちが必ずとも正解ではなく、もしかすると少数の意見、そして動物たちが見ている世界が本当は世の中を幸せに導いていくかも知れない。なんてことを考えさせてくれる芝居でした。

誠実に演じている役者さんの姿が印象的でした。なかでもトムにも参加して頂いたことのある梁瀬龍洋さんの味わいある芝居にホッコリいたしました。

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8月終盤の空

2025/08/15
【第2072回】

今日は終戦から節目の80年。いつものようにメディアは一斉に戦前戦後の記録映像を流し、平和の尊さを訴えています。その中でも、戦争体験者が少なくなりこの事実をいかに次世代にバトンタッチしていくことへの難しさを訴えています。方や、非常識極まりない世界指導者による核戦争の危機、これは安穏としてはいられない案件だと思います。夏祭り、野球観戦、旅行、家族友人との楽しい団らん...それらが一瞬にして消失してしまう危うさのなかで生きていることをもっと自覚する必要があると思います。一発の原子爆弾で広島、長崎が地獄絵図を呈した惨状を考えれば当然です...なのに日本でも核を持つ必要があると主張する政党の支持者が増えてることに、これまた驚きです。それにしても20代~50代のこれからの日本を担う人たちがSNSを通じて熱狂してる姿に、あのナチスの悪夢が重なってきます。

昨日は、よみうり大手町ホールで「WAR BRIDE~アメリカと日本の架け橋 桂子・ハーン」を観劇。戦争花嫁として渡米した女性の実話をもとにしたストーリー、当時占領者であるアメリカ兵との結婚がいかに勇気を要し、渡米後も幾多の困難を乗り越え人を愛することの大切さを若い役者さんがピュアな演技で伝えていました。

トム・プロジェクトも今年は戦争・平和に関する芝居に徹しました。2月に上演した「おばぁとラッパのサンマ裁判」、今月末から公演する「鬼灯町鬼灯通り三丁目」、11月公演「五十億の中でただ一人」、これからも演劇を通じてしつこく戦争の不条理を伝承していきたいと考える80年目の8月15日でした。

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戦後80年目の空

2025/08/13
【第2071回】

「アイム・スティル・ヒア」を鑑賞。1970年代、ブラジル、リオデジャネイロの軍政権下。ある一家を襲った実話を「セントラル・ステーション」のウォルター・サレスが16年ぶりに祖国で監督した作品である。軍政下のもと拘束される元国会議員の妻を演じるフェルナンダ・トーレスが実に良い。夫を捜し続け、子供を育て、自分自身も勉強しながら、抵抗しながら働いた一生を淡々とひとつの顔で演じている。老年期の役を実母フェルナンダ・モンテネグロが演じているのもなかなか粋な計らいだ。25年後に政権は夫の死を認めはしたがいまだ遺体は戻ってきていない。

この種の事件は世界各地で今でも頻繁に起きている。独裁政権が抵抗者を弾圧するのは常套手段である。この映画にもたびたび出てくる家族写真、過去の記憶、記録の忌まわしい事実を継承し伝えることの大切さを改めて考えさせてくれる。

そして、この日本において過去に起きた様々な権力による弾圧事件を映画化する例があまりにも少ない気がしてならない。臭いものにはフタをしろじゃないけれど、どうもこの国のうやむや体質を感じてならない。勿論、これらの映画を創っても興行成績に繋がらないという映画会社の姿勢にも問題がある。映画を手段として世に問う志を持ってほしいと願うばかりだ。

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落日

2025/08/12
【第2070回】

久しぶりにインド映画を観てきました。バヤル・カバーリヤ監督「私たちが光と想うすべて」昨年インド映画として30年ぶりに、カンヌ国際映画祭のコンペ部門に選ばれ、初のグランプリ(2席)に輝いた話題作ということで足を運んだのが、正直イマイチかな。商業都市ムンバイの街を流れるような手持ちカメラで追いかけ、「都会は人から時間を奪う。それが人生...」なんてフレーズで話は進んでいくのだが、この程度の作品は今やどこにも見受けられるので目新しい気がしない。おいらが初めてインド映画を観たのがサタジット・レイ監督の「大地のうた」。20代の頃、当時数々の佳作を提供していたATG(日本アート・シアター・ギルド)の作品の一つでした。インドに住む貧しい家族の話なのだが、生死の尊厳、輪廻の精神を感じさせる壮大な叙事詩に仕立て上げた傑作。同じアジアの人間として魅かれるものがあり、その後インドを旅した経験があります。その道中はおいらの人生のなかでも大きなエポックになっています。よく耳にする言葉のカルチャーショックそのものです。目にするもの、耳に届く音、五感に感じるものすべてがおいらの価値観が崩れ落ちる感覚に襲われる気がしました。

そんなインドは今や映画大国。年間700~800本の映画が製作されている。その中でも特異なのがミュージカル映画、歌手でもないヒーロー、ヒロインが歌い出し、おまけにその歌に振りを付けて踊りまで踊ってしまうという脈絡に度肝を抜かれる構成に思わず笑ってしまう。

今回観た社会問題をテーマにインドの現実をシリアスに描き出し、国内外で高い評価を受けているのだが、これらの歌も踊りも入らない芸術映画は、製作本数も年間20本程度に過ぎず、一般観客の支持は得られないまま今日に至っているのが現実である。

未だ貧富の差が激しいうえ、大多数が生活に四苦八苦してる庶民がせめてもの映画に夢を馳せ楽しい時間を過ごしたいというのも分かる気がいたします。

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猛暑にめげず涼しげに

2025/08/08
【第2069回】

どんな店にも歴史やエピソードがあります。昨日久しぶりに訪れた明大前にあるジャズ茶房「マイルス」。オープンが1960年というからかなりの老舗のお店である。1966年にはあのジョン・コルトレーンも訪れたというから驚きである。この店のオーナーであるママ(本山雅子)さんがなんとも素敵な方でした。若い頃、ジャズにはまり結婚相手も振り切って店を始めたというから、まさしくジャズと結婚したということでしょう。オープン当時コーヒー50円時代に、海外のLPレコード¥3500、その珠玉のレコードが5000枚ばかりあることからどれほどジャズに恋したかが分かります...そんなレコードを愛でるように針を落としカウンターの中でのノリノリの姿を見ているだけでこちらも嬉しくなってしまう始末。どんなお客にも平等に接し、余計なことは一切喋らないスタイルも格好良かったな...そんなママも2019年3月に亡くなり閉店の運びとなったのですが、多くの常連さんの後押しで3カ月後に再開しました。週の前半、後半、2人の男性が担当し今尚「マイルス」は生き続けています。昨日も10人で一杯になる席に8人いたので大丈夫だと思いました。おいらの隣には若い女性がレコードのジャケットを手にして熱心に聞き惚れていました。以前、明大前に住んでいて常連客だったのですが、つい最近兵庫に居を移し久しぶりに来たとのこと。「マイルス」でジャズ愛好家となり全国あちらこちらのジャズ喫茶を訪問したのだが、この店がナンバーワンだと話していました。この店の歴史が積み上げた名状しがたい雰囲気が漂っていることは確かです。いや、ママが創り出したジャズファミリーの館かな。

明日は長崎に原爆が投下されて80年。あの記憶と記録を、忘れることなく後世に伝える責任が今生きている人間にはあると思います。

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65年の歴史

2025/08/06
【第2068回】

今日は、広島に人類史上始めて原爆が投下されて80年になります。これまで幾度も核を廃止する言動、行動は日本のみならず世界で展開されてきました。にもかかわらず、廃止どころか拡大し核を保有することが自国を守ることの必須条件なんて国が増えてくる有様。この日本でもその意見に賛同する輩が出てくる始末。若い人に広島、長崎のことを質問すると体験してないので分かりませんなんて答えが...体験するとこうなるんだよと、悲惨な写真を見せてもどこか別世界の感覚。でも中には、被爆体験を先人から聞かされ自分たちが引き継いで行かねばと行動に移す若者が居るのも確かです。そんな人達が少数であるのも、メディアで報じられる世界の悲惨な光景に慣れすぎ、平和ぼけしているのかも知れませんね。

この時代、己の保身で精一杯という人の気持ちも十分に理解できますが、それも平和があってのこそ。その平和を生み出し継続することに少しは意識し行動しないと悪夢を再び見ることは間違いないでしょう。おいらは残された人生、そんな一握りの意識、行動する人でありたいと思っています。

日々の猛暑、なんだか蝉も暑さ疲れでしょうかね?元気がありません。暑さのなかで身体を震わせうるさい位鳴きまくる「蝉時雨」という言葉が死語なんてことになる時代がくれぐれも訪れませんように...

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「核なき世界を!」と鳴いてます。

2025/08/04
【第2067回】

新しい週が始まりましたが相変わらずの猛暑、この暑さで農産物が被害を受け価格高騰に繋がることが心配です。

宇都宮直子著「三國連太郎、彷徨う魂へ」を読了。おいらは三國さんとは20代の頃、三國さんの弟子だった友人の関係で当時、神楽坂のご自宅に良く遊びに行ってました。ご子息の佐藤浩市さんが大きな身体の子供で、いつも裸ででんと居座ってるのが印象的でした。食事をご馳走になり多岐にわたる話をされるのですが、何処まで本当なのか、嘘なのか、その語り口と表情はまさしく役者そのものでした。内田吐夢監督「饑餓海峡」、今村昌平監督「神々の深き欲望」などなどの演技を観ていて感じることは、演じることの極地とは真偽の狭間をよりスリリングに綱渡りすることだったのではないだろうか...三國さんは喜劇役者としても絶品でした。山本薩夫監督の「にっぽん泥棒物語」、この映画は東映生え抜きの演技人と新劇の名優が数多く出演してましたが、演技を学んだ人たちとは明らかに違うのは、彼の人生経験から得た蓄積がたまたま表現として演じられてる点だと思う。

彼は生前、「最後まで役者でいたいと思っています。それを奪われることは嫌です。ものすごい恐怖を覚えます。演じられない僕に、生きる価値はありませんから」と話していました。そういえば、20代後半、三國さんから誘われ彼の座長芝居に出演した時に目にした彼の台本には、奇妙な化学方程式が書き込まれていました。プライベートも含め、すべてが役者に直結する生きざまだったと思います。今尚何度観ても、三國連太郎という役者の凄絶な人生と役者魂がスクリーンで確認されます。

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行きつけの喫茶店

2025/08/01
【第2066回】

昨日は、先日観劇したトラッシュマスターズの「廃墟」に行ってきました。三好十郎がこの戯曲を書き上げたのは1946年11月、敗戦から1年と3ヵ月後のことである。戦争責任の問題を、東京裁判で裁かれている人たちだけの問題に終わらせることなく、そんな浅はかな指導者たちを生んでしまった国民全体にまで追及の手は伸びなければならぬ、という問題提起が骨太に貫かれている。芝居の中でそれぞれの立場に立つ家族が喧々諤々、そんな社会を構成していた一人ひとりの民衆の責任を問う論理と倫理の台詞が3時間という長丁場の時間を緊張で包み込む。そんな男たちの議論に対して、空襲で顔にヤケドを負った二女の双葉が涙ながらに喋る台詞が秀逸である。「そんな事をワイワイ議論したって、なんになるの? 私達に必要なのは、学問や議論じゃない。誰にもわかって、納得出来て、そしてこんどこそグラグラしない、たよりになる、平凡な事なのよ。兄さんやお父さんも、私達から浮き上ってしまってる!だから、戦争なぞ起きてしまったのよ。もう、あんな事を繰返すのは、ごめんだわ!」普通に平凡に誠実に生きている市井の人達の感覚こそが正解である。

それにしても、今回トラッシュマスターズが7月25日~8月3日まで「そぞろの民」「廃墟」の2作品を同時上演するなんて狂気の沙汰である。この膨大なる台詞をリアル感溢れる表現で舞台化した俳優陣で拍手を送りたい。特に2作品出ずっぱりのトラッシュマスターズの役者魂にただただ頭が下がる思いだ。

今日から8月、80年目の終戦の日がやって来る。忘れてはならないことがたくさんあるはずだ...その思いが人類の願いである平和に繋がっていくと信じたい。

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ちびっ子盆踊り

2025/07/30
【第2065回】

昨日は、下北沢駅前劇場でトラッシュマスターズ第42回公演「そぞろの民」を観劇。今年25年目を迎える劇団である。主宰者である中津留章仁君はトムアクターズスタジオに在籍していた若者であった。大きな身体と貪欲な面構え、これでもかというデッカイ目ん玉をみるにつけ、おいらは手紙を書きました。「演劇の勉強なんかしている場合じゃありませんよ...劇団結成して演劇界に打って出なさい!」なんて書いた記憶があります。あれから25年、感慨深いものがあります。彼の才能は開花しいろんな賞を受賞し、演劇界の中でも硬派な作風で独自な道を進んでいます。

今回の作品も2015年9月に成立した「安全保障関連法」を巡っての家族の話。この法案によって日本の集団的自衛権の行使が可能になり、自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止することが可能になりました。この世界の現況をみるにつけ、いつどこで戦争が起こっても不思議じゃない危険な様相を呈しています。更に、この国の政治の不安定さを考えると有事の際の対応は予測不可能です。ましてやポピュリズムを標榜する政党を支持する民が増えているのもなんとも不気味です。

給料は上がらない、物価は上がる、温暖化による異常気象などなど...何から手をつけていいのやら実効性のある解決策もないからこそ、演劇の手法で問題提起することも大切な行動のひとつだと思います。

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準備万端

2025/07/28
【第2064回】

先週末、高円寺にあるタブラオ・エスペランサに行ってきました。この日の出し物はグラシアス小林と本間静香のフラメンコ二人の会。この会場は1971年創業以来54年の歴史を誇るお店です。前のオーナーが亡くなられ一時閉店になったのですが多くのフラメンコファンの要望により復活しました。客席54という狭い空間だからこその間近に繰り広げられるステージは迫力満点です。踊り手の表情、サパテアード(足で床を打ち鳴らす)が目の前で直視出来るんですからなんとも贅沢です。スペインアンダルシアに住んでいた時は、小さなバル(酒場)でまさしく肌を接する状態で何度も観た経験があるので、やはり大劇場での公演はフラメンコの魅力が半減してしまいます。フラメンコにとって重要なカンテ(歌)ギターの奥深さも十分に伝わってくるのもタブラオの良さです。

この日のグラシアス小林さんの踊り、御年77歳になったばかりだったのですが年を感じさせない動きと、重ねた人生の哀歓がたっぷりと表現されてました。本人も言ってたんですが表現者にとって年齢は関係ないとのこと...ますますの踊りを期待しています。

この日初めて観た本間静香さんの踊りは久しぶりに堪能させていただきました。何が良かったかというと、ドゥエンデ(霊、妖精)が降りてきたかのような舞...流浪の民ジプシーが生み出したフラメンコ、彼らの身体に蓄積された喜怒哀楽を日本人が表現するのは至難の業...この日の彼女の一挙手一投足なかなかのものでした。あの日あの時のアンダルシアの日々が一瞬蘇ったステージでした。

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フラメンコライブ
MANO A MANO(手から手へ)

2025/07/22
【第2063回】

三連休も終え通常の日に戻りましたが相変わらずの猛暑、後期高齢者にとってはたまらん日々が続いています。昨日は久しぶりに明治座に行ってきました。演目は、五木ひろしデビュー60周年記念公演なのですが、五木さんが病で急遽入院し、第一部「喧嘩安兵影」の芝居で五木さんの代役で太川陽介さんが主役を務めると言うことで...いやいや立派な代役でした。台詞と立ち回り見事なものでした。それも、2日間の稽古でマスターしたと聞き改めて太川さんの人としての強靭さを感じました。そして太川陽介という表現者がここまでやり続けられているのも、確たる技術と人間性を保っているからだと思います。

トムに最初に出演していただいた「風を打つ」でも水俣の漁師の役を淡々と味わい深く演じられ、役者としての太川さんの魅力を再認識させられた次第です。

第二部はスペシャルショー、本来ならば五木さんの歌を聞きたくて劇場に足を運んだお客さんなんですが、この日は特別出演の坂本冬美さんが五木さんの分まで頑張ってましたね。御年58歳、演歌の世界ではいまや石川さゆりさんに次ぐポジション。艶のある声と歌詞を大切に歌う姿はさすがです。この日は和太鼓と琴の共演もあり、様々な工夫を凝らしながらお客様に楽しんでもらいたいという企画。応援ゲストということで山本譲二さんも駆けつけ三曲を歌唱、緊急事態に関わらず一致団結で盛り上げ見事なステージを創り上げた皆さんの心意気に拍手。

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夏の空

2025/07/18
【第2062回】

梶原阿貴著「爆弾犯の娘」読了。爆弾犯である梶原譲二さんは知人であり何度かお話ししたこともあります。彼が出演していた、1971年10月新宿文化劇場で上演された清水邦夫作、蜷川幸雄演出の「鴉よ、おれたちは弾丸をこめる」も観ています。この芝居の直後、彼は過激派集団の一員として数カ所の警察施設に爆弾を仕掛けました。その後14年間、逃亡生活した末に自首、6年の刑期を経て社会復帰...新宿三平で仲間が集まってお祝いした日が懐かしいです。

この本は、譲二さんの娘さんである阿貴さんが逃亡中に一緒に過ごした顛末を書いたものです。実は彼女が女優としてデビューした芝居も浅草の常磐座で拝見しています。子どもの頃の父親を「あいつ」と表現しているところに親子三人の生活がただならぬ関係であったことを感じます。彼女は女優を経験した後、現在は脚本家として活躍しています。

この本の中で彼女の心情が吐露されている一文がありました。過激派にのめり込んで行ったきっかけが、現代人劇場の芝居に出演した23歳の譲二さんが語った台詞「おれは走る。おれはとぶ。おれは闘う。おれは爆弾をなげる。でも、おれはいつもそのあとにそれらの意味を考える。おれは考えないではいられない。そして言葉を探す。考えるということは言葉をさがすことだ...そのことが自分に対して、仲間に対して、誠実であると信じてきた。そうやって自分の意思を、自分の行動を、自分の虚像と実像を常に推しはかろうとしてきた...」

そして怒りをまじえて彼女はこう記述している。清水邦夫と蜷川幸雄に腹が立ってきた。自分たちは賢くて大人で、現実と虚構の区別をきっちりと選別できていたのかもしれないけれど、無垢でアホで真面目な若者は、現実との区別がつかなくなくなってしまったかもしれないのだ。その責任にあなたたちはどう考えているのですか?

芝居というものは恐ろしい。見知らぬ世界に誘ってくれると同時に、現実をいとも簡単に飛び越えてしまうこともある。創る側はその危うさを常に認識していなければならない...ひとことの言葉で人生を狂わせることだってあるのだから...

 

今日、関東梅雨明けです。この青空を、世界の人達が皆同じように穏やかに見上げられる日が来ますように!

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梅雨明けのサルスベリ

2025/07/16
【第2061回】

今朝、米大リーグの第95回オールスター戦がライブ放送されていました。レッドカーペットを奥さんと歩く大谷翔平選手、いつ観ても爽やかですね。野球小僧がそのまま大人になったところが素敵です。そして野球の本場で二刀流なんて離れ業をやってしまうのですから日本の野球も随分と進化したもんです。試合には出場はしなかった菊池、山本両投手も堂々とベンチに鎮座しておりました。それにしても大リーグの一流選手のパワーとスピードは、まだまだ日本と比較にならないものがあります。一瞬にして試合の流れが変わってしまうスリル満点の試合が、今尚アメリカの人たちを魅了しているに違いありません。そして、みんないい顔していますね。来てもらったお客に何をやれば喜んでもらえるかを日々考えながらプレーしている姿がそのままストレートに表れています。現在の大リーグは、アメリカ以外では史上最高の21カ国から全体の29%に当たる254選手が登録されています。とりわけドミニカ共和国、ベネズエラ、プエルトリコ、キューバなど中南米の選手の活躍が目立ちます。そのなかに割って入った日本人選手。どんなスポーツ、仕事にしても自国民だけでは成立しない世界になっています。

この日本も同じです。異国の人たちの労働力無くして社会は成り立ちません。この猛暑のなか建設現場で働いている人達の多くは異国の方たちです。「きつい、汚い、危険」いわゆる3K労働を若者が敬遠していることが原因です。そんな状況でありながら外国人排斥が選挙の争点になるなんて...ほんまにこの国おかしくなっていますね。

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昭和31年博多の野球小僧

2025/07/14
【第2060回】

政治家の失言があまりにも多すぎます。未だ復興が見えない能登半島、選挙前は与野党共々能登の復興を口にしていたのが選挙目当てで物価高、減税の話ししかしなくなった。その隙を突き挙げ句の果てに、「日本人ファースト」をスローガンに掲げ、日本に住む外国人排斥に近い問題を提出したりとか政治家は全く信用なりませんね。

彼らに共通して言えることは、心に響く言葉を持たない貧しさ。川べりをのんびり歩いている時に何気なくひっそりと咲いている花に、はっとしたときに身体の中に眠っていた感情が言葉と共に、昔味わった当時の音や匂いを蘇らせ新たな言葉を生み出していく...そうやって言葉を積み重ね自分の言葉を形成していく...自分の言葉を持たない人は感性も思考も制約されます。銭勘定と当選ばかりのことしか頭にない政治家が良い例ではないだろうか。

そしてやはり本を読むことが大切だと思います。そのなかでも、一時の流行に乗るのではなく、自分の文体をしっかりと持った人の作品を大切にすることですね。おいらも明治、大正、昭和、平成、令和と脈々と受け継がれてきた作品を気負わず、行ったり来たりの読者三昧を楽しんでいます。しかし、文学にしても正解がないところが実に面白い...そんな時には、音楽や絵画から思わぬ言葉を発見することもあります。

言葉は愛おしいけれど、その一言で人を殺める怖さを持っています。でも己の言葉を獲得すれば自由に多種多様な方向に道が切り開かれ新しい世界が創り出せるのではなかろうか。

そんなことを考えながら、明日にでも参議院選挙の期日前投票に行こうかな...今の状況では悲しいかな、どうしてもこの人だと思える候補者はいなくて消去法で選ぶしかありませんな。

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誰のために?何のために?

2025/07/11
【第2059回】

おいらの故郷博多では、7月15日最終日の追い山に向かって町は博多山笠で一色である。

今年で784年の歴史を持ちユネスコ無形文化遺産としても登録されている。子供の頃はこの季節になるとウキウキワクワクしたものである。おいらもふんどし締めて参加したことがある。この行事に参加して一人前の男になるとぞ!とアンちゃんオッちゃんに檄を飛ばされたことは記憶にある。追い山笠ならしの途中、沿線に待ち構えている見物人から浴びせられる水がなお一層気を引き締める。行事の終わりの博多手一本がなんとも粋である。年長者や会のリー ダーが指名され、参加者の前に立つ。全員が立ち上がり、体の前で手を打つ態勢になると、「手ば入れまっしょ!」と声を掛ける。「よーお」(シャン、シャン)、「もう一つしょ」(シャン、シャン)、「よーと三度」(シャン、シャン、シャン)と手を叩く 。

日本の祭りはどこをとっても惹かれる要素が含まれている。NHKの長寿番組「新日本風土記」を良く観るのだが、つくづくこの国の人達が営々と引き継いできた歴史の重みと名も知れぬ庶民の残した足跡に頭が下がる思いだ。異国の人たちが日本に来てワンダフルを連発するのもこんな人たちの自然と調和しながら誠実に暮らしてきた積み重ねのお陰ではなかろうか。

それにしても、昨日の夕刻の雷雨はおったまげました...自然界の神さんもこの体たらくな世相に怒っとるに違いない。

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豪雨直前の空

2025/07/09
【第2058回】

いやいや連日大変な暑さである。昨日も散歩に行こうと一歩外に出るとサウナ状態でさすがに躊躇致しました。後期高齢者にもなると感覚も鈍くなり、疲れなのかそれとも暑さのせいなのか判別しづらい困った状況です...お歳を召した方々油断してはなりませんぞ!

最近懐かしい映画を観ています。大映で製作された「悪名」、1961年~1969年まで15作品創られました。八尾の朝吉親分演じる勝新太郎と弟分役の田宮二郎のコンビが最高です。勝新太郎の風貌、芝居は勿論だが、田宮二郎のテンポとリズム感溢れた演技は絶品です。彼の代表作と言われている「白い巨塔」の下地もこの作品で培われていたのではなかろうか。停滞しそうな画面を彼の登場によって一気に活性化させる稀有なる才能を感じる。そして豪華な共演者、浪花千恵子、ミヤコ蝶々、中村雁治郎、上田吉次郎などなど癖のある役者を見事に操りB級娯楽映画の傑作に仕立てています。東映の仁侠映画も然り、勿論、高倉健あっての映画なのだが、存在感ある共演者があってこその健さんである。

一見華やかな役者稼業、実は実生活も含めて壮絶極まる人生である。田宮二郎も最後には43歳という若さで猟銃自殺。大映映画社長と喧嘩別れしたり、怪しい商売に手を出したり、心穏やかな日々はなく鬱病になったり、心乱れる心身だからこそあの名演技が出来たのかもしれない。今も昔も、親が「役者だけにはならないで...」なんてことをお願いするのも分かる気がしますね...それを振り切ってでもその道に進むこの稼業には不思議な魔物が潜んでいるのかもしれませんね。

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猛暑の中で咲く薔薇

2025/07/07
【第2057回】

今日は七夕である。もともと中国から来たものであるが日本では短冊に願い事を書き葉竹に飾ることが一般的に行われている。おいらの子供の頃は、短冊に「西鉄ライオンズが勝ちますように!」「将来、西鉄ライオンズの選手になれますように!」なんてことを書いた記憶がある。勉強ができますように!なんてことは論外、少しでも西鉄ライオンズの本拠地であった平和台球場付近でウロチョロできることが最大の幸せなひとときであった。試合も7回の裏くらいになるとタダで球場に入場することが出来、ライオンズ勝利の瞬間を味わうことが出来た。

今はどんなことを書いているんだろうか?「給料が上がりますように...」「物価が下がりますように...」とにかくこの異常な物価高で庶民は悲鳴を上げている。中には、世界での各地での紛争を嘆き悲しみ「平和な世界がきますように...」なんて短冊もあるようだ。

20日投票の参議院選挙に向けて、各党おいしい言葉ばかり並べ、なんだか皆詐欺師に見えてくる。当面の目先のことばかりで将来の展望は皆無といってもいいくらいのこの国の政治家の質の低下が露わになるばかりだ。

結局、棄権は大事な一票に対する冒涜になるので、今回も消去法で一票を投ずることになるだろう...今尚止まないトカラ列島地震、もちろん他人事ではありません。日本のどの地域でも起こりうる災害、食を含め起きた時の備えるすべてのものが不備である現実に答えを持たないこの国を憂う...短冊に記する言葉が見つからないことも寂しいことですね。

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一服の清涼剤

2025/07/04
【第2056回】

先日、児玉也一さんから一冊の本が贈られてきました。「一銭五厘たちの横丁」この原作をもとにトムでも2010年に、ふたくちつよし作・演出で「百枚めの写真~一銭五厘たちの横丁~」の芝居を創り上げ東京含め全国各地で上演しました。児玉也一さんは原作者のご子息です。戦後80年、作者没後50年ということでちくま文庫から復刊されました。戦時中、戦地に居る父、兄弟に送るため東京下町に住む家族の写真を桑原甲子雄さんが撮影した写真と、その家族を30年後に取材したルポライター児玉隆也さん渾身の一冊です。

この作品の中で取材した阿部寅松さん。彼は戦時中に毎日ように出て行った横丁の出陣を見送る際、24人編成の町の楽隊で前列から数えて3番目でラッパを吹いていた。「嘘ついて、ラッパで威勢つけちゃったんだなァ。若いもんを次から次と威勢つけちゃ兵隊気分にさせちゃったんだ...おれは」「おれがあまりうまく教えちゃったんで、あいつら軍隊に入るとすぐラッパ長になっちゃうんだよ。それで威勢がいい連中だから、ラッパ片手にまっ先に突っ込んでって...おれの教えた奴は、誰もこの町に帰ってこなかった」「海行かばもいやだ。葬送行進曲だっていやだね。必要だから演奏するってえのは、いやだ」「音楽は、ただ聴いてるものなんだよ」そして最後に老いた横丁のラッパ手はこう言い残した。「ベートーベンはいい。用のある音楽は、もうこりごりだ」

天皇から一番遠くに住んでいた庶民を自分の足で聞き取り、写真は99枚で終わっているが、写されていなかった百枚めの写真は、まぎれもなく撮影者の桑原自身であり、取材者の本人であることを暗示している。

最後に、私はふたたびこの種の「記念写真」を国家が要請する時代が来ぬことを願うのみである。古いネガから過去を追ったはずの私の追跡が、実は未来につながるとすれば・私の足は重い。ひどく重い。と、記している。

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百枚めの写真に写らないために

2025/07/02
【第2055回】

明日は7月20日投票日、参議院選挙の告示日です。この国はいったいどうなるんでしょうね?国の建物、土地が海外資本に買いとられ大国の属国に貶められる趨勢から危機感を感じ新たな政党が進出しています。「日本人ファースト」、なんだかトランプの言っていることを代弁しているような気がします。確かに既存の政党がだらしないから、そこに付け込んで陳腐な新しさを強調している感じがします。まさに歴史は繰り返す、ドイツで台頭し忌まわしい過去を創出したヒトラー。この流れは世界的にも共通しているのだが、この日本だって油断していると一気に戦前の状況に通じる時代になるかもしれません。

最近、飲み屋に行ってもいい話聞きませんね。これだけ物価が上がれば庶民の財布の紐は堅くなります。昨日行った店の店長も忙しいのは土曜日だけ、平日はさっぱりだと嘆いていました。そういえばどの店に行っても値上げのオンパレード、お店に行く回数も自ずから減ってしまいます。そんな中、薄利多売で頑張っている店もあります。養老乃瀧グループが運営する「一軒め酒場」、お通しなしで飲み物も含めて安価なメニュー、そして年配者にとってありがたいのがうるさくないことです。若者集団の客が少ないからだと思います。安いのだが量が少ないことと店の雰囲気の親父っぽいのが原因なのかな...確かに若いカップルが将来の夢とロマンを語り合うには相応しくないかもしれませんね。

おいらの若い時代には、出来得る限り安価な居酒屋に通い、どんな騒音にも負けないくらいのパッションで明け方まで過ごしたもんですが、さすがに何もかも変わってしまいました。

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甘い蜜求めて

2025/06/30
【第2054回】

先週の土曜日、今年初めてのベルーナドーム参戦。この日の試合はライオンズ対日本ハムファイターズ、今年のハムはもりもりのボリューム、ホンマに強いです。あの個性あふれる黒マスク新庄監督の勘がさえわたり首位を突っ走っています。この日も8回裏まで2対1で敗戦濃厚、ライオンズも2アウトまで追い込まれたのですが、若手の長谷川選手の逆転3塁打で何とか勝利をもぎ取りました。それにしても完売御礼!満員の観客席からの応援が半端じゃありません。グランドから地響きがするくらいの圧倒的な声援に選手が燃えないわけがありません。と言っても、所詮もともとチカラがある選手だからこそ、その声援に応えることが出来るというものでございます。この世界はすべて数字に表れます。低打率のバッターにいくら声援を送っても確率は少なく「やっぱりね...」「なんでいつまでも使ってんだろう?」と観ている側からしたらストレスが溜まる一方。今年のライオンズの西口監督、昨年の目を覆いたくなるような成績に比べれば良くやっているとは思いますが、調子が上がらない選手を我慢して使いすぎかなという疑問がありますね...それを補っているのが今年から外部招聘されたコーチ陣。昨年まではライオンズのOBコーチが、ちんたらちんたら選手と馴れ合いの関係での指導だったためなんと49勝91敗3分 勝率.350断トツの最下位。見るに忍びない惨状でございました。やはり指導者の違いでここまで善戦できるのかを目の当たりにしている今シーズン。まだまだ勝負はこれから、何とか3位以内になって優勝を狙える戦いをして欲しいもんですね。都心から所沢はやはり遠いですね...勝ちゲームの帰りの電車は気分いいんですが、負けゲームの帰りは地獄の時間でございます。

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初参戦

2025/06/27
【第2053回】

昨日何となくTVをつけたら、1981年6月に行われた「美空ひばり芸能生活35周年記念リサイタル 武道館ライヴ」の模様が放送されていました。久しぶりの聴いた美空ひばりの歌声は圧倒的でした。思えば若い頃、美空ひばり即芸能界、そして山口組がバックについているなどなど、反体制、既成の概念を嫌悪し新しい価値観に目覚めようとしている者にとってはあまり興味の対象ではありませんでした。44年前に武道館でこんなことをやっていたことも、勿論知りません。人は年を重ねることによって、改めて表現の深淵なるものを覗かせてくれるんですね...「悲しい酒」「愛の讃歌」「昴」、演歌にとどまらずあらゆるジャンルの歌を、七色の声を使いこなしながら決して重くならず軽快に歌いこなす彼女は、やはり不世出の歌姫である。この日、44歳の彼女はすべてに光り輝いて見えました。なんだか8年後の死を悟っていたのではないだろうか...太く短く波乱を含めての人生だからこそ、あれだけのヒット曲を世に送り出すことが出来たともいえます。

昨日の美空ひばりさんの歌を聴きながら、改めて言葉の大切さを感じました、今はやりの音楽が曲とリズムを重要視するあまり歌詞が入ってきません。勿論、時代の流れだとは思いますが歌の言葉がないがしろにされている気がしてなりません。考えてみれば、今の時代を動かしているトップの輩が吐き出し言葉の何と軽いことか...仕方ありませんかね。

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行きつけの喫茶店

2025/06/25
【第2052回】

昨日は新橋演舞場で「東京喜劇 熱海五郎一座 新橋演舞場シリーズ第11弾黄昏のリストランテ ~復讐はラストオーダーのあとで~」を観てきました。笑いと言えばやはり関西、それに対抗するかのように、この一座は江戸の軽演劇を広めようということで伊東四朗さんが2004年に三宅裕司さんと共に『伊東四朗一座』を立ち上げたのが始まりです。その後、伊東さんが抜け、伊東の手前が熱海、四朗の次が五郎ということでこの一座の名前になったそうだ。この軽いノリで、しつこい笑いではなくシンプルな笑いをお届けしたいという趣旨がとてもわかる興行でした。出演者の皆さんも芸達者で笑いのツボをしっかりとおさえて飽きさせない構成になっていました。このスタイルは、東京の軽演劇をリードしてきた由利徹、佐山俊二、南利明に相通じるものがあります。関西がお好み焼きのこてこて感とするならば、関東の笑いはお茶漬けの味かな...どちらが好きかはわかれるところだが、東西が競い合ったからこその笑いの文化だと思います。

今回のゲストである羽田美智子さんがお茶漬けの味をなお一層美味なるものに仕立て上げていましたね。2023年にトムで上演した「沼の中の淑女たち」でも、彼女の天然ボケを思わせる芝居にはおおいに楽しませていただきました。普段でも全くの飾りがない自然体の方です。デビュー以来末永くこの世界で活躍されている理由が良く分かります。会場を後にするお客様も、なんともすっきりしないこの世を暫し忘れさせてくれたんじゃないかしら...

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雨に打たれて

2025/06/23
【第2051回】

今日は沖縄戦が終結してから80年の節目の日である。沖縄が日本に復帰してから一体なにが変わったのであろうか?未だ地位協定のことですら言い出さないこの国のトップがこの日の追悼式で「平和で豊かな沖縄に向けて力を尽くすことは国家の責務だ」なんて喋っているけど何度聞いても虚しい。本気で交渉する気もないのに、なんと政治家の言葉が軽いのかと改めて思い知らされる。あの地獄のような沖縄戦で生き残った高齢者の言葉の重さを受け止めることの出来ない為政者の鈍感さにはただただ呆れるばかりだ。そして遅々として進まない沖縄の現状に対して、歴史を歪曲する発言をする輩が政治家としてのさばっているのだからたまげたもんである...この国もジワリジワリとポピュリズムに乗っかって右傾化する流れが進行しつつある。先の知事選で予想外の得票を重ね、何を勘違いしたのか今回の都議選で多くの立候補者を立て、賑やかし的な行動で注目を集めたかったであろう新党も当選者ゼロで終わった。今の若者はSNSで情報を取得し投票するパターン、これだけ自由気ままに乱暴な情報の垂れ流しであればフェイクニュースも当たり前。スマホ中心の生活習慣から抜け出せない人たちの想像力の退化が心配である。

そして、トランプのイランの核施設の攻撃...間違いなく世界は負の連鎖の道を辿っている。

プーチン、習近平、トランプ、金正恩、こんな輩が目立つ状況に残念ながら未来はない!

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今日の空

2025/06/20
【第2050回】

昨日、久しぶりに日本映画を観てきました。上方歌舞伎の世界を描いた吉田修一原作、李相日監督の「国宝」。3時間という長丁場でしたが飽きませんでした。吉沢亮、横浜流星という今をときめく若手スターが1年半歌舞伎の所作を含め古典の世界にのめり込んだ成果が出てたと思います。ましてや女形という、表現も含め身体的な能力が試される数々のシーンを見事に演じていました。そりゃ本職の方々と比べれば、なんだかんだと細かいところも含めて言われてしまいますが、これはあくまで映画という手法を借りたフィクションですから。女形の長老を演じた田中泯さんさすがですね。この方の舞踏、半世紀前から観ていました。床に転がり全裸でユニークな踊り、さすがにおちんちんにはガーゼ巻いてましたね、猥褻罪で逮捕されますから。人生後半からいきなり俳優デビューを飾り一目置かれる役者としてあっちこっちで引っ張りだこ。今回の所作も何となく舞踏っぽいところがなんともおかしかった。あと寺島しのぶさんの演技が演技に見えなかった。実際、梨園の世界で女性として生まれ育ってきた彼女の表情一つ一つが、梨園の裏社会に対する理不尽な怒りに見えた。ここだけが何となくノンフィクションなのが面白い。

やはり映画はよかですばい。しかし莫大なお金がかかる...今、おいらの原作である「エル・スール」も武正晴監督の下、いろんな方々が映画化に向けて動いてくれています。昭和30年前後の博多の街と西鉄ライオンズ、でっかいスクリーンで観たかですばい。

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新宿西口再開発中

2025/06/18
【第2049回】

昨日、大谷選手の二刀流復活が大いに話題になりました。おいらもTVで観ましたが大谷選手えらく楽しそうでしたね。考えてみれば、投げて打ってなんてことどんなスタープレーヤーだって夢のような世界です。それをいとも簡単にやってしまう大谷選手、やはり観る価値がある選手です。そういえば彼の苦しそうな表情は見たことがありませんね。あの童顔と笑顔は貴重です。今や、世界は又もや第三次世界大戦に見舞われそうな状況の中、球場には5万6千人の観衆が集まり一喜一憂しているんですからなんとも不思議な光景...今日もトランプがイランの核施設に攻撃するかも?なんて報道がなされているにも関わらず。

二刀流と言えば、おいらも小さい頃から二刀流どころか三刀流の働きをしていましたね。新聞配達、おきゅうと売り、氷配達などなど。辛いなんてこと一度も考えたことがありません。新しいことやればやるほど新しい発見があり未知なる領域に吶喊する心意気でございました。この世界で様々な体験を経てきた人たちの立ち振る舞いは、その後のおいらの生きる糧となりました。しかも底辺で蠢いている人たちの物言わぬ一挙手一投足は、幼き心身を震撼させました。

どんな状況であれ、笑顔が世界を救うことは間違いありません。そして感謝の気持ち...こんな単純なことを難しくしているニンゲンという生き物やはり変です。

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梅雨の晴れ間

2025/06/16
【第2048回】

週明けいきなりの猛暑、身体がついていけません。後期高齢者になってからの体調管理は随分と気をつけているんですが、何の前触れもなく急激に襲ってくる気候変動には少々戸惑い気味です。でも、生きているんですからなんとか踏ん張ってといいながらも、あくまでもマイペースで過ごしています。なんといっても自然の恵みに感謝です。

一体全体、どこで売っているの備蓄米?おいらの生活圏で出入りするストアーで目にしたことがないどころか、品薄のコメ棚に又もや高額の米が並んでいます、TVでは威勢のいい2世農林水産省大臣が父親とそっくりの口調で手柄話の如く語っているんですがね...問題は目先のことではなく、なんで今回の米騒動が起きてしまったのか、その徹底的な解明無くして問題の解決にはならないと思います。この部署ばかりではなく、長年の自民党、官僚、企業の癒着の構造をぶった切っていかないと未来への展望はないでしょう。

メディアも然り、今回の騒動の課題を話題へと報道して面白おかしく流しています。その主役として2世のボンボンはうってつけの存在だったに違いありません。この国の人のいい選挙民もころっと騙され続けて戦後80年が経ってしまいました...今回も第二小泉劇場の始まりかもしれませんね。アジェンダ(政治的課題)をトピック(話題)に書き換える天才的な才能がこの親子にあります。といって野党もパッとしませんな、党利党略に走り現体制を倒すチャンスを自ら失っています。一時、支持率が野党のなかでトップになった話題の人も所詮足元の定まらない御人なんですね。自分で参議院選挙の候補者と誘っておきながら、ネットで強い批判が出ると、掌返しで公認を取り消す。国民受けが良くないと判断すると即切り捨てるなんて政治家である前に人間としての修行をしてくださいな!

22日には都議会選挙、このご時世偽情報が氾濫してますんで、よくよく考えて投票しないと、ますます小池にはまって、さあ大変!になっちゃいますね...

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まだまだ見頃ですよ

2025/06/13
【第2047回】

梅雨の季節には家に居ながら、ビル・エバンスの曲を聴くのがベストですね。おいらも断捨離の世代なのに最近やたらとビル・エバンスのCDを買ってしまう。以前あるやつも含めると30枚くらいあるのかな。1926年生まれの彼は、当時ニューヨークを拠点としたジャズ演奏家としては少数派の白人ピアニストであり、従来のブラックルーツとは一線を引いたヨーロッパとクラッシックの伝統を重視した存在であった。クラシック印象派に通じる部分に加え、彼の中には日本の禅や墨彩画に影響を受けたであろう曲、演奏が多々見られる。彼が墨彩画のなかにある墨一色の絵の手法に、ジャズの純粋な即興演奏の精神と相通じるものを感じたに違いない。彼の書棚には心理学、哲学、宗教、文学などなど多岐にわたる本が並んでいたらしい。確かに彼の曲を聴くと繊細で内省的、そしてインテリジェンスなものを含んでいる。

最初のトリオを結成したときのベーシスト、スコット・ラファロの存在も大きい。ベースという楽器がどちらかと言えば縁の下の力持ち的役割なのだが、彼の繊細かつ大胆な演奏は大黒柱的な存在へと押し上げた。「ポートレイト・イン・ジャズ」のアルバムに収録されている「枯葉」は何度聴いてもたまらんです...その彼も25歳にして交通事故で亡くなり、その後ビル・エバンスも何とか立ち直り音楽活動30年、51歳までにリーダーとして50枚以上のアルバムをリリースしました。

この時代、スポティファイ、アマゾンプライム、ユーチューブなどなどCDなんぞは不要になりつつありますが、CD、レコード(最近やたらと値上げしてコレクター相手の商売に辟易)を手にして音楽に向き合う姿勢こそミュージシャンの対する最大のリスペクトだと思っとります。

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神田川にて

2025/06/11
【第2046回】

関東もいよいよ梅雨入りしました。ジメジメしているんですがなんかしらホッコリします。なんと言っても紫陽花が喜んでいますね。一年間、この日を目標にしてきた晴れ舞台です。いろんな衣装を纏いながら、道行く人達にアピールしています。神さんの贈り物はたいしたもんです、季節に合わせてどんぴしゃりのプレゼントを魅せてくれるんですから...

プロ野球交流戦も始まりましたね。2005年から20年が経ちました。パリーグが声掛けしたのですが、多額のテレビ放映権収入を見込めていた巨人戦の試合数が減少するとしてセ・リーグがそれを拒否するという状況が続いていました。その巨人も昔ほどの人気も無くなり、交流戦は新たな野球ファンを獲得したと思います。

我がライオンズは交流戦に関しては2年連続最下位。今年こそ最下位脱出と思いきや先週広島カープに3連敗、今年も怪しくなったと思いきや、昨日、現在首位を走る阪神タイガースに逆転勝ちしました。8回表まで2対0で今日もあかんかな?とテレビを暗い気持ちというより諦めていたところ、ライオンズの小兵、滝澤夏央の大活躍で逆転勝ちをしました。

2021年のドラフト会議育成2位で入団して4年目、身長164cmと、2025年現在のNPB現役選手の中では最も身長が低いが、50メートル5秒8の俊足を活かして今年ようやく開花した感じです。今は大リーグも含めて大柄な選手の活躍が目立ちますが、滝澤選手みたいな人が出てくることによって、ちびっ子野球小僧へのおおいなる励みになることは間違いないでしょう。この交流戦、なんとライオンズだけがホームランなし...でも、小技を活かしながらプレーするスタイルもなかなか味わい深いものがありますよ。

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井の頭線

2025/06/09
【第2045回】

今年も花園神社に紅テントが建っていました。唐組第75回公演「紙芝居の絵の町で」を観劇。この紅テントに足を運んだのが58年前、おどろおどろしい役者がテントの中でくり広げる世界はまさに血沸き肉躍る、世にも不思議な感覚に襲われしばらくは日常に戻れませんでした。既成の演劇を変え、この時代にマッチした唐十郎の戦略は見事としか言いようがない。その唐さんも昨年亡くなりました。

今回の芝居、長年唐組に在籍したメンバーも少なくなり、若手主体の公演でした。嘗ては根津甚八、小林薫が演じたであろう役を若手がのびのびと演じていました。主題である紙芝居の絵が、登場人物の時間と空間を縦横無尽に往来し迷宮の世界に誘う。唐ワールドの特徴であるロマンあふれる万華鏡のごとき台詞が、観客の予想外な個所に徹底して襲来してくる...それを理解しようとする間もなく次なる台詞が速射砲のごとく追い打ちをかけるもんだからテント内は異次元の世界、己の感覚を研ぎ澄ましていないと置き去りにされてしまう。

唐さんの言葉は論理で解明しても答えは出ない。己の身体を曝け出して演じないと役者自体が荒唐無稽なモノに転じてしまう危険性を秘めている。その肝心なところを、演出の久保井研さんが上手く指導しているに違いない。本人も重要な役をこなしながら大変だったと思う。唐組の表、裏を支える藤井由紀さん、唐さんの娘さんである大鶴美仁音さんも素敵でした。

若い観客も増え、新しい唐組の予感を感じた公演でした。

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新宿花園神社にて

2025/06/06
【第2044回】

劇団桟敷童子「蝉追い」観てきました。1960年代、九州の炭鉱地帯を舞台にした家族の物語。すみだパークシアター倉に入った途端、鬱蒼とした森林に囲まれたセットに目を奪われました。このセットも劇団員が総力をあげて作り上げたものだ。外注に頼めば何百万もかかる規模だ。葉っぱひとつひとつに劇団員の魂が宿っている気がしてならない。

今回の芝居にゲストで山本亘さんが出演している。御年82歳になる亘さん、さすがの存在感である。亘さんとはおいらも2005年に共演したことがあります。ふたくちつよし作・演出「夕空晴れて」、風間杜夫、綾田俊樹、冨樫真さんたちと一緒にプロデューサーを兼ねて本多劇場、地方公演と旅した思い出があります。おいらは出演する気なんかなかったのですが杜夫ちゃんが是非一緒にやりたいというもんですから断ることが出来ず...。その時の亘さんは病を経て久々の舞台で悪戦苦闘の日々でした。稽古中の台本には数多くの付箋と書き込みがなされておりこの芝居に賭ける気持ちが十分に伝わってきました。長年のキャリアを積みながらも、まるで演劇青年に戻ったような姿に、この方本当に芝居が好きで好きでたまらないのだなと...だって、山本學、山本圭さん共々俳優三兄弟、おじさんは名監督山本薩夫。まさに芸能一家。芝居に対する姿勢は半端じゃありません。

今回、藤吉久美子さんもゲストで参加していました。まるで劇団員の一員であるかの如く立ち振る舞う藤吉さんの立ち姿も、彼女の人柄を感じました。

いつ観ても、この劇団の芝居創りには心打たれるものがあります。芝居の基本形は手作り、そして芝居をこよなく愛するハートでございます。

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今日の紫陽花

2025/06/04
【第2043回】

ミスタープロ野球の長嶋茂雄さんが亡くなりました。昨日から今日にかけてメディアで過去のシーンを含めていろいろ取り上げられていますが、おいらの長嶋選手は際昭和33年、野武士軍団西鉄ライオンズが日本選手権奇跡の3連覇した年にデビューした長嶋茂雄である。この年のライオンズはオールスター前までに宿敵南海ホークスに10ゲーム以上離されシーズンの優勝は絶望的だった。にもかかわらず優勝、そして日本シリーズでは3年連続、読売ジャイアンツと対戦することになりました。初っ端から3連敗、こりゃ駄目だとキヨシ少年もほぼ諦めましたが、なんと一日雨天中止を挟み、4連勝し優勝したのです。

その時に颯爽と登場したのが立教大学から入団した長嶋茂雄。新人でありながら水原茂監督は4番に抜擢。おいらも新人ながら華やかにプレーする姿に敵ながら清々しい感じがしました。でも、こちらは神様、仏様、稲尾様が必ずや奇跡を起こしてくれるもんだと固く信じていました。サイちゃんこと稲尾和久投手は、とにかくすごかった。1年で42勝したり、日本シリーズでホームラン打ったり、文句も言わず連日登板したりとかまさしく鉄腕稲尾。引退後も、博多から球団が無くなった後、博多に球団が出来るように誘致運動に一生懸命でした。そのおかげで今のホークスがあることを博多のホークスファンは忘れちゃなりませんぞ。

スポーツの世界、やはりどの時代もスーパースターが居なきゃ発展はありません。大谷選手、大の里...そのあとに続く人はどなたかな?

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昨日見つけたカルガモ親子

2025/06/03
【第2042回】

先週の金曜日には、新宿中落合にあるシアター風姿花伝でシェイクスピア戯曲による「悪い仲間」を観劇、戦争をとことん嫌っていたシェイクスピアが喜劇的な登場人物を通じて今尚止むことのない不条理極まりない戦争の時空間に身を委ねたらどうなるか?8人の役者が複数にわたる役を演じ、狭い空間で様々な趣向を凝らしながら演じていました。表現の幅は無限でありながらもどこを上手く抽出するかによって観る側の評価も大きく分かれます。今回の芝居が刺激的な舞台に映った人、しっくりこなかった人、いずれにしてもそこが演劇の面白いところかもしれませんね。この芝居で大学時代の同級生でもある小田豊が出演していました。学生時代から演劇を志し、全盛時代の早稲田小劇場に所属し現在まで81歳とは思えない役者ぶり、大変なことも沢山あったとは思うのだが今尚好きな芝居やってるんだから幸せもんですたい。

日曜日には吉祥寺シアターで劇団チョコレートケーキ「ガマ」を観劇。この作品は劇団が2022年に初演した芝居です。この年、日本の戦争に焦点を当てた5作品と新作「ガマ」を加えた6作品の連作[生き残った子孫たちへ 戦争六篇]を東京芸術劇場シアターイーストウエストにて上演し第30回読売演劇大賞を受賞しました。この劇団は一貫して日本が戦争に傾いていった要因を徹底的に追求し芝居にしてきました。戦争を知らない世代がここまで拘ることに対して先ずは敬意を表したい。確かに今回の芝居にしても、沖縄戦真っただ中、洞穴の中での息詰まるシーンの連続に違いないのだが、この場から目を逸らした瞬間から権力者の罠に嵌り戦禍は拡大していくに違いない。この芝居に出演していた大和田獏さんの演技が秀逸でした...獏さん役者として、今一番脂が乗っているんじゃないかしら。

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子ガモ生まれるといいなぁ

2025/05/30
【第2041回】

昨日はトム・プロジェクトで多くの作品を提供して頂いているふたくちつよしご夫婦と食事しました。誠実な人柄そのままが作品に反映されトムのヒットメーカーでもあります。日常の何気ない営みをさりげなく描く世界は、数々の心染みいる映画を世に送り出した小津安二郎の世界に通じるものがあります。彼の好きなNHKテレビ「ドキュメンタリー72時間」おいらもよく見ています。特定の場所に72時間密着して、そこに行き来する人達にインタビューするのですが各人の生き様、哀感が滲みでてそんじょそこらの安っぽいドラマより劇的なのである。人は皆、必死に生きているのである。いろんな修羅場をくぐり抜け愛する人達のために時には我慢を強いられ踏ん張っている。

そんな姿を、ふたくちさんは人生の応援歌として芝居にしたいのかも知れない。彼の人間に対する愛情は半端ではありません。そういえば悪人はあまり登場しませんね、憎悪の感情からはその先の希望が見えないことを前提に作品を考えているに違いありません。

30年間芝居を創ってきて、ふたくちさんとはいつも最後まで気持ちよく千秋楽を迎えることが出来ました。今年も新作を依頼していますし、これからもなんだか冷え冷えした時代だからこそ心揺さぶる作品を期待しています。

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今日の雨にお似合いですね

2025/05/28
【第2040回】

のぼせもんという言葉がある。つい夢中になって対象物にのめり込んでしまう状態を指す。作家、宇野千代さんが生前こんなことを言っていた。

「世間の人は生活するのに、のぼせたりしているのではなく、何事にも冷静に考えた上で、始めてゆっくりと生活するのが好い、と考えているのであろうか。しかし私の思っているのは、それとはほんの少し違うのである。いや、ほんの少しではなく、とても違うのである。人生は凡てのことに、のぼせなければならない、と思っているのである」

昔から、風呂に長く浸かっていると「のぼせるぞ」なんて声をかけられたもんだが、実はのぼせるまで湯に浸かっていることは実に気持ちの良いことである。のぼせちゃいけないなんて冷静に考えながら湯に浸かっている人なんて居るんだろうか?

恋にしたって同じである、自分の身のまわりのことを気にしながら冷静沈着な思いで恋愛ごっこしている姿なんてなんとも寂しいもんでございます。

この世の中、なんとも元気がない、覇気がない佇まいを度々目にします。老若男女すべからく、のぼせるくらい何事にもチャレンジする気概を持って欲しいと思います。

今日も大谷選手ホームランをかっ飛ばしました。3試合連続20号、5年連続で20本以上のホームランを打てるなんて、きっと野球にのぼせているんでしょうね。

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一足お先に

2025/05/26
【第2039回】

先週の週末、シンガー・ソングライターの山崎ハコ「50周年記念&バースデーLIVE」有楽町ヒューリックホール東京に行ってきました。1975年にデビューし、フォークブーム後半をリードしたハコさんは今年がデビュー50周年で、今月18日に68歳の誕生日を迎えました。小柄で華奢な身体から発する歌には、彼女の人生で味わった思いが込められていました。生ギター一本で女の情念や怨念といった心情を土俗的なイメージとともに哀しく切々と歌い上げる姿に共感する根強いファンが、今でも数多くいます。

彼女がステージ上で語っていた言葉が印象的でした。50年間歌いながら、常に上手くなりたいという欲望が沸き上がるのだが、彼女はその声を跳ね返すように気持ちで歌わねばとテクニックを拒否したそうです。彼女の歌を聴きながら納得できました...表現の仕方は様々だと思いますが、ハコさんにとっては上手く歌うことは己に正直でないという取り繕いの表現を止めたんだと思います。山崎ハコでしかできない歌の世界を展開したかったんでしょう。

「呪い」という曲は本当に怖かった。呪いを込めて藁人形にくぎを刺すコーンコーンという擬音を交えながら、「そういう悲しい自分に釘を刺せ」との思いを歌にするハコさんの心情は彼女の真骨頂ではないだろうか。確かに暗い歌なのだが、身体からほとばしる強く伸びのある声はどこか未来の希望にも繋がっているように感じさせてしまう魅力。

この日は懇意にしている風間杜夫、竹中直人、原田喧太さんがゲストで駆けつけトークと歌で盛り上げていました。

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新宿東口広場より

2025/05/23
【第2038回】

昨日はOn7(オンナナ)の第6回公演「マライア・マーティンの物語」を観劇。1827年、イギリス東部の田舎町で若い女性が惨殺された実際にあった話を基にした翻訳劇です。

この集団にとっても初めての海外作品です。それにしても意欲的、果敢に挑戦し続けている7人の女優さんたち。いずれも老舗新劇の劇団に所属しながら、そこに安住することなく自分たちが真にやりたい芝居を上演することを目的に立ち上げた集団です。

その心意気にほだされ、トムの作品にも過去に尾身美詞さん、吉田久美さんに出演していただきました。芝居に対する真摯な姿を稽古場、本番でも発揮してくれました。

過去には、女優の松金よね子、岡本麗、田岡美也子による「グループる・ばる」という女優集団がありましたが数年前に解散しました。

これからは女性が活躍し世界をリードする時代だと思います。男社会の弊害があちこちで露見しています。なかでも未だ無くならない戦争、これは男による権力欲の象徴的な出来事だと思います。子を宿し出産し育てる、この過程を知らぬ男のチカラによる支配の構造はもはや限界にきています。特にこの日本での女性進出の割合は世界でも低ランクの有様。

演劇の世界も然り、On7の地道な活動が将来の演劇地図を変えていくかもしれません。一本の芝居を創り上げることは経済的、勿論、精神的、肉体的にも本当に大変なことだと思いますがめげずに継続してくれることを願っていますよ。

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ランタナ
(和名は七変化)

2025/05/21
【第2037回】

一度きりの人生...この感覚をどれほど強く持っているかどうかで、その人の生き方をいかようにも新たな舵を切ることが出来る。「バルセロナで豆腐屋になった」この本の著者は元朝日新聞社の記者、清水建宇さん。定年退職後の過ごし方を模索しているときに「現在では、たいていのひとが退職後も、二十年三十年と生きなければならなくなってしまった。人生の山が一つから二つにふえた。われわれの大半が<一身にして二生を経る>という生き方を余儀なくされている。」この言葉に触発されて夫婦ともどもバルセロナで豆腐屋を開店する顛末を綴っている。日本の豆腐屋さんに出かけ苦心惨憺な修行の日々、バルセロナでのオープンのための面倒くさい手続きなどなど、いろんな人達のチカラを借りて夢を実現させていくパワーも並々ならぬものがある。

そう言えば、おいらもスペインに住んでいるとき、グラナダのアルプハラという山村で豆腐を作っている日本人が居ましたな。彼は納豆にも挑戦しスペインにいながらにして純日本人の生活を満喫していました。なにごともチャレンジです、手に入らないモノを創意工夫しながら勝ち取っていく。これこそが生きものの原点でございます。その点、なんでも簡単に手に入るなんとも面白味がない現状に、夢も希望もないやる気無しの若者が増えているのも至極当然。今日も新宿の街は異国の人で溢れかえっています。より良き舵取り人が出現しない限り、この国の未来は限りなく危ういと思いますね。

お米大臣変わりました。又もや世襲議員、この人もお米自分で買っているんですかね?

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もうすぐだね

2025/05/19
【第2036回】

じめじめした週初め、梅雨の気配がしてきましたね。昨日ふらりとスーパーに行ったのですが食料品の値上がりが半端じゃないですね。そのせいか割引シールを貼る時間を狙って押し寄せる買い物客が日々増えているんじゃなかろうか...国会でも消費税減税の議論が活発に繰り広げられています。減税した分の穴埋めをどうするのか?政府は一貫して減税派に対して反論しています。おいらに言わせりゃ、先ずは議員を半分くらい減らしなさい!(この件に対して野党も言わんかい)予算委員会の質疑を聞いていても大臣は官僚が書いた文章を読んでいるだけ。ほんまにこれだけ多くの国会議員ちゃんと仕事しているのかしら...家の近くのお店でぶらぶらしている議員を目にする度に税金の無駄遣いを痛感いたします。

そして今日、農水大臣がとんでもない発言をしてしまいました。お米が倍以上にあがって米騒動で揺れている現状に対し「私は米を買ったことがない。支援者の方がたくさんくださるのでまさに売るほどある。私の家の食品庫には」こんな輩が議員になり、大臣を務めているんですから米騒動が収まるわけがありません。

この国の為政者に対する失望論は度々書いていますが、どうやらこの構図は変わらないと思います。与党も野党も自分の地位を守ることを仕事だと勘違いしているからです。つい最近亡くなった南米ウルグアイのホセ・ムヒカ元大統領の言葉「国を治めるものの生活レベルはその国の平均でなければならない」今の議員の皆さんには「馬の耳に念仏」なんでしょうね。

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百花繚乱

2025/05/16
【第2035回】

ノラちゃんを見かけるとついついスペインで飼っていた尼庵(ニャァン)を想いだす。アンダルシアの小さな村サロブレーニャの畑で産声をあげたばかりの子猫を拾ってきて溺愛し続けた尼庵。それはそれは可愛く賢い猫でした。コスタデルソル(太陽の海岸)の浜辺を初めて散歩した時の怯えた表情、サトウビキ畑で虫と戯れ遊び惚けた姿、おいらが外出から帰ってくると両足を揃えご主人様をお迎えしていました。レンターカーを借りスペイン国内、モロッコを旅した時のキャンプ場では傷だらけで帰ってきたこともありました。そんな可愛い子猫に骨付き肉を与えた時の豹変する動きにはびっくり。野生動物の本能が蘇ったんですね...そのうなり声、戦う姿勢に、この猫は生きていけると確信した次第でございます。

そんなことを想いだしながら、日本の家庭内で安全に保護されながらのペットちゃんたち本当に幸せなんだろうか?なんて考えちゃいました。おいらの家の近くにもペットショップ、病院があるのだが、いかにも過保護な感じでなんとも弱弱しい感じがしてなりません。病名、手当もいまや人間並み、まさしく人様と同等の扱いですね。

ニンゲンと野生動物がほどよく共生できる社会がまともだと思うのですが、欲の塊みたいなニンゲンどもがそのバランスを破壊し続けてる現状を見るにつけ如何ともしがたい思いが募るばかり...いまだ愚かな戦争を止められない生き物ですからね。

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ネムたいニャァン

2025/05/14
【第2034回】

今、NHK朝の連続ドラマのモデルになっている、やなせたかしさん。「あんぱんまん」でお馴染みの無私の精神で生涯を終えました。彼は雑誌「詩とメルヘン」の編集者でもあり詩人でした。彼の発する言葉はことごとくシンプルです。「花は決して理解できないような咲き方はしない」「風は決して難解に吹かない」そして奥が深い。そしてすべての人に対し「喜怒哀楽があれば誰でも詩人だ」と言い切っている。生活の中に詩なるものがいくらでも転がっている。それを見いだせるかどうかはその人の感性、好奇心にかかっている。

 

昨年亡くなった谷川俊太郎の詩集を時折開いている。彼の描く世界は宇宙的な規模で展開されている。中でも、全編ひらがなで書いた詩は彼の真骨頂、

 

ふつうのおとこ

 

ふつうのおとこが いたってさ

ふつうのめはなに ふつうのあし

ふつうのずぼんに ふつうのうわぎ

ふつうのあめふる ふつうのばんに

ふつうのやきもち ふつうにやいて

ふつうのなみだを ふつうにこぼし

 

ふつうのおとこは ふつうのひもを

ふつうのおんなの ふつうのくびに

ふつうにまきつけ ふつうにしめた

 

変幻自在な言葉の音楽性、おかしさと、怖さ、詩人が生きることにたいして全感受性を解き放ち森羅万象に大あぐらをかいている様が見えてくる。

 

最後に、やなせさんの言葉。

「天才であるより、いい人であるほうがずっといい」

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ぽっかりそらが

2025/05/12
【第2033回】

この時代インターネットが全世界に広まり、世の中の動きが一変しその功罪はあらゆる部門に影響を及ぼしている。おいらなんか首謀者ビル・ゲイツは悪魔の使者なんて思っていた時期がある...その彼が2045年までに全財産を途上国の公衆衛生の改善などに寄付すると発表した。発表によると約2千億ドル(約30兆円)の資金を今後20年にわたって病気や栄養不足で亡くなる母子の減少、致命的な感染症の予防、貧困の解消などなどに使うという。ゲイツ氏は「私の全財産を世界中の人々の生活を救い、改善するために寄付するつもりだ」とコメントしている。

一方、トリックスターでもある金の亡者イーロン・マスクはお金にかまけて権力にすり寄りわがまま放題、こんなお金持ちも存在するのがいかにもアメリカらしい。どちらが良いとか悪いではなく、人としての身の処し方からするとビル・ゲイツに軍配をあげたい。

昔から「金は天下の回り物」という言葉があります。ある意味お金自体は転がしてなんぼの世界です。そしてお金が全てではなく、お金を所有している己の心、人間関係、社会への貢献が大切です。このバランスを保つことで、より有効なお金の流通が可能になり豊かな人生を送ることができると思います。お金に振り回されず、自分の価値観を大切にしながら、賢く生きることの見本を、ある意味ビル・ゲイツが示しているのかもしれませんね。

 

先週の土曜日は野球ファンにとって素晴らしい一日でした。大リーグでの大谷選手の9回表の勝ち越し12号ホームラン、万歳しながら歩を進める姿はまさしく千両役者。世界各国、いままで野球に興味を持てなかった人が大谷選手の登場によってにわかファンから本格的な野球好きになったそうな...そしてライオンズの今井投手の完璧なピッチング。昨日も勝利し3試合完封勝利なんてことをしちゃいました...優勝するかもね?と勘違いした途端に夢が覚めますからここは冷静に。

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♪線路は続くよどこまでも
優勝の夢つないでる♪

2025/05/09
【第2032回】

最近は邦画を観に行くことはほとんどないのですが、「侍タイムスリッパー」は久々に面白かった。映画にしろ、テレビにしろ、日本の製作者は志なんてものほとんど感じません。話題になっているコミック、アニメばかりに目を向けて良質の作品を創ろうなんて意気込みがないのでおいらにとっては関心外の範疇。世代的にも数々の名監督による名作を観てきただけに余計悲しくなっちゃいます。勿論、採算とれないと難しい面もありますが、せめてもの映画人としての矜持だけは持って頂きたいですね。

その点、今回の作品には映画愛が画面からビシバシと感じられます。安田淳一監督は映画監督と米農家をやっている二足のわらじ、一時的に通帳の残高が¥7000までになったこともあるそうだ。作品のベースには退潮してゆく時代劇と、それでもそれを支える数多くの人々、そして忘れてならない日本人のスピリッツに対する熱い思いが込められています。

そして決してシリアスにならず、コミカルさを万遍なく盛り込んでいること。社会生活においても真剣になればなるほどこぼれ落ちる可笑しさに多くの人は共感を覚えます。語り継がれる名作に共通している点ですね。そして、低予算のインディーズ映画が、盛りだくさんのお金をふんだんに使った作品を蹴散らして賞を獲得したことも痛快極まりない出来事でした。

何事も、創る側の強固な信念、そしてユーモア、劇場に集う生活者の肌感覚...すべてを投げ出す覚悟じゃないとそうは問屋が卸さない世界であることは間違いございません。

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アンネのバラ

2025/05/07
【第2031回】

5月5日子供の日、等々力にある玉川区民会館せせらぎホールに行って来ました。大和田獏さんと大和田美帆さんの親子ユニット「ばくみほ」が、病気や障がいがある子、そうでない子も一緒に楽しめるチャリティイベント「子どもが笑えば世界が笑う」。会場には多くの人達で大盛り上がりでした。ステージには全盲のピアニストによる演奏会、障がいを抱えた少女による踊りなどなど、病と闘いながらも明るく前を向いて生きている姿を見させて頂きました。この日、渡辺えりさんも駆けつけ心温まる歌を絶唱。ステージと会場が一体となって命の大切さを共に感じながら、前を向きながら生きていこうというメッセージに包まれていました。

健康でなに不自由なく生きていることがなんとありがたいことか、そして障がいを持ちながらも生きることの意味を見いだし懸命に生きていることの意味...こんな生のステージだからこそ訴えるチカラがあると思います。獏さん美帆さんのこの活動、亡くなられた岡江久美子さんも会場の片隅から応援しているに違いないと思いました。

芝居を創っている者の一人としても気が引き締まる一日でした。演劇なるモノ、この日のステージのように来てくれた人達にしっかりとしたメッセージを手渡ししていかないとやる意義がないのではないか...勿論、多種多様な芝居があって当然なのだが、中にはひとりよがりの演劇も多々あります。なんのための演劇か?今一度初心に返ることを気づかせてくれました。

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意義ある一日

2025/05/02
【第2030回】

今年もライオンズあかんかな?と思いきやなんと5連勝、首位オリックスに1ゲーム半という地位に付けています。やはりコーチ陣を一新した事が効いていますね。昨年までは馴れ合いムードで若手野手揃っていずれもどんぐりの背比べ状態。監督もお目目ぱちくりばかりで有効な手を打てず途中交代、変わったGM監督も後の祭り、なんと断トツの最下位になってしまいました。今年はそんなに大きな補強もしてないのにここまでくらいついているのは監督、コーチの適格な指示に選手が答えているということですね。そして、なんといっても、新人の渡部聖弥外野手の活躍による他野手への影響が大きい。昨年まで今イチパッとしなかった西川をはじめとするどんぐりチャン達に危機感を煽りやっとプロの選手になりつつあります。そして、年末からお騒がせ選手であった源田に代わりショートに入っている滝沢選手の活躍も見逃せない。身長164センチ、体重65キロでありながら俊敏な動きと愛くるしい表情がたまらない。2021年に育成で入り努力を重ねここまで来たのがなんとも嬉しい。片や、キャンプ中に寝坊して出発に間に合わず大目玉を食らった佐藤選手(以前にも車のスピード違反でトレードされた過去がある)クビにならず2軍で出場しているのだがリベンジのチャンスがあるのかないのか...プロ野球選手の現役寿命はそんなに長いわけはないのに不祥事を重ねるなんて...この人何考えてるんだろうね。

今年のパリーグの1位をほとんどの解説者がソフトバンクをあげていました。なのに今のところ断トツの最下位。このチームの気に食わないのは、潤沢な資金を使い他チームの有力選手をかっさらってくることです。嘗てのジャイアンツがこれをやりアンチ巨人の方たちが増えました。不祥事を起こしながらライオンズに後足で砂をかけるようにソフトバンクに移籍した選手の不振ぶりも当然と言えば当然でしょう。

プロ野球も見世物です。好きな職業に恵まれたのですから、笑顔を忘れず一心不乱にプレーする選手が一番です。その最高の見本がメジャーリーグで大活躍しているんですからね...

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新宿高層ビルの夕景

2025/04/30
【第2029回】

江戸時代には数々の料亭が立ち並び、昭和20年代から40年代には、この花柳界は「夜の首相官邸」と呼ばれるくらいの賑やかな柳町でした。その一角に、昭和の流行歌手市丸さんの屋敷跡を改装したルーサイトギャラリーがあります。時には美術品のギャラリー、隅田川を眺めながらのカフェ、そんな素敵な空間で俳優、鳥山昌克さんが数年前から芝居、朗読劇をやり始めました。昨日は泉鏡花原作の「天守物語」を6人の役者による語り芝居を鑑賞。つい先日、金沢で泉鏡花にまつわる場所を散策したばかりだったので興味深く拝見しました。数々の舞台を経験した役者の語り口は、すぐ近くを走る総武線の電車の音、隅田川を行き交う屋形船の姿と共に、現代といにしえを行ったり来たり...演劇の面白さは、場所の設定によって芝居そのものが大きく変貌することにあります。唐十郎さんが始めた野外にテントを張っての芝居、今やベテラン俳優になった石橋蓮司さんが主宰していた劇団第七病棟では芝居の中身に相応しい場所を探し、銭湯、工場跡地などなど劇場以外のところでの画期的な公演をしていました。

鳥山さんが場所に拘るのも分かる気がします。既成の劇場ではなく、人が長年生活した処には柱ひとつ、壁の隅々、天井の節目にいたるまでそこに集った人たちの息遣いが感じられます。そんな空間に立ち入った瞬間からすでに芝居は始まっている...勿論、その気配を自分のものに出来るか否かは役者の技量が問われる厳しさもあります。

終演後、この日来場していた大和田獏さんと軽く一杯。先日無事終えることが出来た「モンテンルパ」の旅公演の話、来月、劇団チョコレートケーキが上演する「ガマ」の話などなど...獏さんとの芝居に関するよもやま話とても楽しかったです。

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ギャラリー2階のテラスから

2025/04/28
【第2028回】

若い演劇人の誠実な芝居を観るととても気持ちがいい...先週の土曜日は中野にあるスタジオあくとれで、杜菜摘プロデュース旗揚げ公演「あさがきて」を観劇。杜さんはトムの「モンテンルパ」公演の時に演出助手として手伝っていただきました。稽古中も真摯に稽古場の進行がはかどる様に動いてました。弱冠27歳の彼女が制作、作、演出すべてを背負い込み1本の作品を立ち上げること自体が大変なことです。8人の出演者、10人ほどのスタッフ、稽古場代、劇場費などなど、先ずは経済的なことが頭をよぎります。

その覚悟は、芝居の中身に十分反映されていました。自らの体験を無駄のない台詞と過剰にならない演技で1時間40分の芝居にまとめていたと思います。今回の芝居の中のシーンにもなっている葬儀なるものを実体験するべく数カ月葬儀場で働いていたとか...彼女の演劇に対する思いは、今回の企画に賛同したキャスト、スタッフの皆さんにも十分伝わってこその内容だったと思います。

まだスタートしたばかり、今後もいくつもの困難な壁が待ち受けてはいるとは思いますが貴女の理想とする志ある演劇に挑戦し続けて欲しい...この時代、なんだか未来に期待しない夢無き人が多いだけに走り続けて欲しいな。

始まったばかり万博、なんだかトラブル続きですね。楽しみにしている人が居るのですから運営の皆さん入場者の人数ばかり気にしないで肝心なことを忘れずに...それなのに早速、知事さん「原因を究明して再開することを期待」だって、ところでこの党大丈夫?

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杉並 柏の宮公園

2025/04/25
【第2027回】

昨日は、映画「教皇選挙」を鑑賞。つい先日、フランシスコ教皇が亡くなりタイムリーな作品になりました。それよりも現代社会が抱える諸問題がこの作品のなかにはびっしりと詰まっています。今回のアカデミー賞で脚色賞を勝ち取ったストーリー展開の面白さ、そして役者の名演技で極上のエンターテイメントに仕上がっています。おいらは音響効果賞があったら差し上げたいくらいの見事な効果音によって話の展開にメリハリをつけていました。これは映画館でしか味わえないものですね...後にTVなんぞで放映されるとは思いますが効果は半減以下だと思います。

次期教皇を目指す最初の有力候補が黒人、それを阻止しようとするのが白人、そして最終的に決まるのがなんと?(ここを書いちゃうとネタバレになってしまいますから)この映画には、保守的なジェンダー観を打破するときに社会に生じる違和感が寓話的に描かれています。昔から男社会で成り立ってきた世界、ましてやこの枢機卿の世界は閉鎖社会、ここに着眼点を置き男性主体の構造の矛盾を白日の下にさらすなんて趣向がなんともたまらんですばい。そしてなんと言っても示唆に富んだラストシーンが素晴らしい...無垢なる存在はシスターである女性たちという監督の持論。

主演の英国俳優レイフ・ファインズの無表情の演技が絶品。スピルバーグ監督「シンドラーのリスト」で冷酷無比なSS将校の役が今でも記憶に残っている。いい役者は手を変え品を変えずとも一つの顔で存在感を示すことが出来ることの良いお手本でした。

明日からGW、いつもながら行楽地には人だかり、旅行に行ってもホテルは特別料金、こんな時は近場でのんびりするのが一番でございます。

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君と好きな人が、百年続きますように

2025/04/23
【第2026回】

先週、新国立劇場小劇場で三好十郎作「夜の道づれ」を観劇。この作品は三好十郎によって1950年に文芸誌「群像」に発表された作品です。敗戦後の夜更けの甲州街道をとぼとぼと歩いている、男二人の一種のロードムービーのような戯曲。実際に作家が夜の甲州街道で見聞きしたエピソードを織り交ぜながら、ドキュメンタリータッチで描いた演劇的実験性の高い作品。最近、若い演劇人が三好十郎の戯曲を取り上げる風潮があります。

九州の佐賀の出身で、戦前は築地小劇場などで戯曲を提供し、戦後は近代の既成文学全般への批判を貫き進歩的文化人を徹底的に痛罵した気骨のある作家。おいらが初めて観たのがゴッホを描いた「炎の人」、ゴッホを演じた滝沢修の演技に酔いしれた記憶があります。

さて、今回の公演、いろいろと試行錯誤の様は見て取れるのだが、肝心の戦後の日本の姿が見えてこない。演劇は時代とともにあるので、当時書かれた戯曲をそのまま踏襲すればいいというものではないと思うのだが、やはりこの戯曲の本質は敗戦後の日本の姿、匂いだと思う。あの当時の日本人の寂寥感、それに伴う鬱屈したエネルーギーを如何様にすればという苦悩、片やあの混乱期に逞しく生きた女性たちの生き様...これらが残念ながら表現されなかった気がします。そんななか、唯一この世界を表現していたのが滝沢花野。まさしく体当たりの演技で役になりきっていました。昨年も彼女が出演する芝居何本か拝見しましたが、どの作品もアグレッシブ、その思い切りの良さに惚れ惚れしました。今後、注目している女優さんのひとりです。

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雨ニモマケズ

2025/04/21
【第2025回】

昨日は長年の友人である大森政秀さんの舞踏公演を観てきました。今年1月に76歳になった大森さん、舞踏の聖地ともいわれている中野テルプシコールの空間を自由自在に遊行していました。おいらも半世紀前に土方巽の舞踏公演を観た時はすべてがぶっ飛んだ感覚に襲われました。この世にこんな表現があるなんてことを思考しながら、おいらも好きなことを徹底的に実践することを確信した次第です。

大森さんの舞踏何度か観させて頂きましたが、今回の公演さすがに76年間の人としての生き方がいろんな貌で、時にはおかしく、時には憂いを帯びて伝わってきました。彼の踊りをみて土方巽は「ラブホテルのキリスト」といったそうだ...この歳になると表現のテクニックとかはほとんど気にならないというか、そんなものを客席からは観ていません。踊り手の一挙手一投足に大森政秀の摩訶不思議な人生に想いを馳せる時間だと感じました。

当日配られた彼のメッセージにも「自分から一番遠い場所に住んでいる、自分という他者こそは、肉体の中で、一番近いところに潜んでいます。私も皆様と共に目撃し体験したい、この一点に尽きます」と書かれていました。

この日会場に集った人達との一期一会、意味を追求する場ではなく、一人の表現者の肉体を通して己が何者であるかということを今一度問い直す貴重な瞬間でもあるのでは...

この会場のオーナーであり、音響家である秦宜子さんとも久しぶりに会えて嬉しかった。彼女はおいらが20代の頃在籍した演劇群走狗の仲間です。大森さんと夫唱婦随、いろいろ苦労はあるとは思いますが共に好きな道をまっしぐら、まさしく人生悔いなし!

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心と身体が
ゆや~ん  ゆよ~ん  ゆやゆよ~ん

2025/04/18
【第2024回】

大阪・関西万博が13日に開幕し、開幕前はどちらかと言えばあまり関心がないという意見が多数であったのだが、昨日あたりは入場者が急増したらしい。おいらは昔から大勢の人が群がるところには行きたがらないタチなんです。勿論、最初の万博、日本人に人気のあるハワイ、ディズニーランドなどなど...別にひねくれもんではないですよ(笑)

だって、科学技術の進歩を謳ってますが、その結果がAIなるものの暴走、ドローンなどの最新技術の戦争利用によってロシアによるウクライナ侵攻は終わらず、ガザでの犠牲は日々増加の一途。こんな科学の進歩は必要ありませんし、こんな万博に罹る莫大な費用は平和のため、そして多くの被災者につぎ込むべきではないか!という理由で万博には行きません。ましてや、オリンピック誘致の失敗とのつじつま合わせでカジノを含む統合型リゾート誘致を絡ませるなど、あんたらどっちに顔向いているんやと言いたい。

大阪と言えば、昔から反権力が似合っている土地柄なのにどないしたん?権力が押し付ける野暮なツッコミにボケで応じる庶民の笑いの天国が浪速の良さでございます。

それなのに若い知事さん、中央のこざかしい権力に接近し、経済効果を狙ったかどうかは知らんけど浪速が築いたおっちゃん、おばちゃんの身体感覚の遠いところで手を打ったのがとんでもない間違いでございますよ。

それにしても昨日の大臣、トランプのオッサンと会ったのが余程嬉しかったのか自分のことを格下の格下とえらい謙遜しとりました。対等に向き合わんかい!と檄を飛ばしたいところだが、このお方もしや結構な役者ぶりでひと芝居打ってるのかな...この先どうなるかことやら?相手がひとり芝居の大好きなトランプですからね...

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新緑

2025/04/16
【第2023回】

いつもクンクン、戌年のおいらは何かおもろいことないかいな?と路地裏をそうついています。先日も西荻窪にある個性的な喫茶店「JUHA」(ユハ)でレコード聴きながら、店主じきじきの自家焙煎のコーヒーとあんこを乗っけたトーストを頂きました。この店には、時折おもろい情報がさりげなく置いてあります。早速、手に取ったチラシにそそられました。

これは行かねばと、中野区上高田にある「スタジオ35分」に出かけました。この日展示されていた作品は1944年スウェーデン・ストックホルム生まれの写真家アンダース・ペータンソンが、ドイツ・ハンブルグにあった「カフェ・レーミッツ」に出入りする人たちをドキュメントした写真でした。場末の酒場に日毎集う売春婦、薬物常習者、アルコール中毒者などなど、社会の底辺に蠢く人々に対しあたかも自分の家族、友人に等しい視線でシャッターをきった息遣いが圧倒的に伝わってきます。こんな写真を見ていると、ふとおいらが生きてきた人生で出会ったストリッパ―、娼婦、ニコヨン労働者、ヤクザなどなどの人たちの顔が甦ってきました。アウトローの世界には何とも言えない郷愁の匂いがします。

スタジオの店主もユニークな人でした。この写真を展示したいために写真家本人に会いに行ったそうです。スタジオの一角にカウンターだけのBARがあり、早速ビールを一杯。流れている曲はトム・ウェイツ、彼のアルバムに写真家の作品を使ったこともあり、この期間はトムの曲一色だそうだ。

もうひとつ嬉しかったことは、なんと奈良の銘酒純米超辛口「春鹿」が置いてあるではないか!勿論、頂きました。今日も良か一日でしたバイ。

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時の過ぎゆくままに

2025/04/14
【第2022回】

先週の土曜日、20時40分上映開始という映画を観に池袋へ行ってきました。後期高齢者のおいらが出かける時間ではございませんが、25年前、トムアクターズスタジオに在籍していた太平(稲吉剛)君の初主演映画ということで...目黒貴之監督作品2本立て、太平は自分で企画し主演していた「トイレのかみさま」で飄々とした彼らしい演技をしていました。

出会った頃から、あまり自己主張するタイプではないのだがブレない何かを秘めている男でした。トムの芝居にも3本ばかり出演してもらいました。地道にアルバイトしながら俳優の道をあきらめずここまでやってきた彼の晴れ舞台を、しかも公開初日に行くことに決めました。池袋シネマ・ロサ劇場前で来てくれた人たちに丁寧に挨拶している姿も彼らしいし、彼の人柄だからこそ多くの方々が足を運んでくれたのでしょう。

初日ということで出演者による舞台挨拶もありました。スクリーンの前に立ち、5人の女優さんに囲まれている太平はとても嬉しそうでした。51年間の人生の中でも記念すべき日だったことでしょう...他人に何と言われようとも、頑なに己の道を突き進む人達には大いに共感します。人の一生の価値、権威、お金よりもっとも遠いところにあるのかもしれませんね...キラキラ輝きイキイキしている姿が一番かっこ良かですたい!

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幸福な一日

2025/04/11
【第2021回】

世界はなんと脆くて軟弱なのか...あの資産家トランプの一吠えであっちがグラグラ、こっちがオタオタ、考えてみればこれだけ長い人類の歴史があっても何も学ばなかったに等しいとも言えるかもね。戦争然り、それにしてもトランプのおっさん遊ぶのもいい加減にして頂戴な。あんたの一言で、どれだけ多くの人達が右往左往していることやら。まあ、お金と権力だけを趣味として生きた人には、汗水たらして働き必死豆炭に生活してる人の気持ちはわからんでしょうな。そんなおっさんを選挙で選んだアメリカ国民もそのしっぺ返しは必ず来るでしょう。

資本主義社会での象徴たる株式市場、株を所有してる人たちは仕事に身が入らんでしょうね。これだけの乱高下が続くと心臓パクパクでしょう、なかには株の下落に反して血圧が上がって危険極まりない状況に追いやられる人が出てくるかもしれません。まあ、これも致し方ないことですね。不労所得に近いお金ですから...いや、これもれっきとした労働だという意見もわかりますが、所詮他人任せの金儲けという点においては変わりません。

おいらも随分若い頃にちょいと手を出して苦い思い出がありますから...10万の投資があれよあれよという間に何百万、この世の出来事とは思えない奇跡なんて有頂天からあっという間に地獄を見る世界だと教えていただきました。何事でも勉強でございます。

人生、地道に人のために働き生きることが正解でございますよ!

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ひっそりと

2025/04/09
【第2020回】

一昨日、久しぶりに金沢に行ってきました。現在旅公演中「モンテンルパ」、金沢市民劇場に呼んで頂いての公演を観に...東京公演を終え中部・北陸ブロック演劇鑑賞会での公演が3月18日から始まり、この日が17ステージ目でした。キャスト、スタッフ共々、疲れのピークだったと思いますが、この日金沢文化ホールに来ていただいた会員さんの温かい眼差し拍手に後押しされ密度の濃い芝居になったと思います。年間6本の芝居を観劇されている鑑賞会の皆さんの鑑賞眼はなかなか手強いものがあります。つまらん芝居には勿論手厳しいし、良質な芝居には心底から評価してくれます。そんな会員さんを前にしての芝居ですから少しでも気を抜くと見破られてしまいます。この日は、おいらにとっても東京公演から久しぶりの舞台、どう変わっているか、慣れていないか、眼を皿のようにして舞台を注視していました。芝居は生き物ですから、相手とのやり取りで微妙な違いが出てきたり、もっと極端に言えば良い意味、悪い意味でも別物の作品になったりするものです。そんな中、日々進化していけばベストです。終演後、役者さんには気になったところは率直な意見を述べました。この後の5ステージへのより良いヒントになればと思っています。

それにしても金沢、江戸時代加賀百万石の城下町として栄えた街だけのことがありますね。第二次世界大戦中にアメリカの空襲を受けなかったこともあり、昔ながらの古い家並みも随所に残りなかなか風情があります。この季節、どこに行ってもサクラが咲き乱れ、東京では味わえない歴史ある建造物とサクラの見事な調和に酔いしれた次第です...勿論、芝居も良かったので幸せな2日間でした。

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金沢の桜

2025/04/07
【第2019回】

先週の土曜日は絶好の桜見物日和。早速、杉並区の善福寺川沿いの満開の桜を楽しんできました。例年より桜が何となく元気がなかったような気がしますし、集まった人たちもなぜか明るさに乏しく活気がありませんでした。天候不順と4月からの物価、特に食料品の値上げ攻勢に意気消沈の影響かなとも思いました。おいらもたまに行くとんかつ屋の値段にびっくりしました。100円、200円の値上げならまだしも700円の値上げなんですから、あちゃ!てな戸惑いを覚えてしまいました。確かにお米、キャベツの値上げが相当きつかったのでは...大体において、とんかつ屋さんはご飯とキャベツはお代わり自由、若い連中なんかは遠慮することなくご飯3杯、キャベツも同じくらいお代わりするんですから、この値上げ時期は店の人もなんとなく笑顔で対応しているのですが心中穏やかではなかったと思いますよ。

それにしてもこの物価高、勿論、世界の混乱から来ているんでしょうが、この国の農業政策の無能振りがますます浮き彫りになっています。時給10円の米作りの農業なんてやっていられない!なんて農家の人達が街に繰り出しデモをしていました。そりゃそうだ、自分の懐ばかり気にしながらの政治屋ばかりですからね。おまけに大臣は派閥支配下における年功序列、農業なんてわかっていないのに指示できるわけがありまっせん。

温かいふっくらしたご飯に、塩昆布、梅干し、納豆、たまにはたら子、こんなシンプルではあるけれど贅沢な時間もそのうち無くなってしまうのかもしれませんね...

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善福寺川緑地公園

2025/04/04
【第2018回】

昨日は懐かしいスペイン語に浸れる一日でした。映画「エミリア・ペレス」を鑑賞。冒頭からスペインの鬼才アルモドバル監督の作品じゃないかしら?と思いきや、フランスの名匠オーディヤール監督でした。メキシコを舞台に予測不能な展開、そこにミュージカルが入り込み一体全体この作品どう見て良いのか観客の脳は激しい揺れを催す。人間の持つ本性欲望を原色に近い形で表現していく監督の手腕は並々ならぬものがある。これまでのミュージカルでは、突然歌い出すとか不自然な感じがしたものだが、この作品をそんなことがない。台詞と感情がそのまま歌として流れ、より役の感情に添える展開となっている。

起用した俳優の一癖二癖ある二人がストーリーを引っ張っていく。実際のトランスジェンダー俳優カルラ・ソフィア・ガスコン、今回のアカデミー賞で助演女優賞を受賞したゾーイ・サルダナ、二人の表情を至近距離で追うカメラワークが秀逸である。しかも二人が静と動、役者の力量はもちろん、監督の役者に対するリスペクトを感じる。

この映画を観ながら思ったことは、今の世の中すんなりとことが運ぶこともなければ、なにが正解なのか判断、予測不可能。カオスそのままを提起し、あとは観客がそれぞれに未来社会をどうすれば良いのかを思考、行動するしかない!と言っても、計画通りに進まないのが人生でございます...となれば一度きりの人生、好きなことを見つけて悔いのないように生きるしかございませんね。

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久し振りの青空と雲

2025/04/03
【第2017回】

サクラは満開なんですが、肝心のお天気がいまひとつでサクラちゃんも寂しそうですね。

こんな日は、ピアノ曲を聴きながらゆったりと過ごしたいものです。最近はまっているのが角野隼人さんのCD、最初に聴いたのが街角ピアノ。クラッシックを演奏しているのだがなんとなくジャズっぽい感じもするし、自由気ままにピアノに向き合ってる姿に惚れ惚れしました。彼自身もクリエーターとして新しいものを追求して行くにつれ次第にクラッシックの世界から離れていくという感覚に襲われたそうだ。そんなときに19世紀の作曲家、ショパン、リストが過去の曲を演奏すると共に、有名な曲の編曲、即興そして作曲をする姿に勇気を貰い、クラッシックが現代に生きる音を創る道を歩み始めたそうだ。

エリートでありながら、アカデミックな世界にどっぷりでもなく日常性を楽しみながら今を感じさせる音を繰り出すことに思いを馳せている。彼がクラッシックという概念を取り外し音楽そのものの素晴らしさを伝えようとする様がCDを通じて十分伝わってきます。

 

トランプの関税騒ぎのなか、今日もドジャースの大谷翔平選手9回裏サヨナラホームランをかっ飛ばし開幕からチーム8連勝をプレゼントしました。暗い世相の中、明るい話題を提供してくれる貴重な方でございます。

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推しのピアニスト

2025/03/31
【第2016回】

桜が満開になった途端、季節は冬に逆戻り。今日も慌てて冬のコートを取り出し花冷えの寒さに備えています。それにしても桜の淡いピンクは何となく幸せな気分にしてくれます。実はこの色の秘密は、桜の木全体が懸命になってピンクの色になろうと日々研鑽している結果だそうです。しかも開花に合わせてのタイミングを計りながらの必死の作業というのですから...染織家の志村ふくみさんが、上気したような桜色の着物を仕上げていく過程の中で一番重要なことは桜のごつごつした樹皮から取り出した液だそうだ。しかもこの液は開花直前でないとベストの色が出せないそうだ。自然が織りなす現象に人がどう向き合って創造していくか...なんともスリルであり、ワクワク感、満載である。

人間だって似たようなモノである。不遇の時代を冬の季節なんてたとえがあるように、そんな時期にこそ只ひたすらに、がむしゃらに森羅万象、目にする、感じるもの悉く蓄える。そして春が来て見事な自分しか出せない花を咲かせる!

 

桜見物に酔いしれているこの日も、ガザ、ウクライナで多くの不条理な死。そしてミャンマーの地震。大国のリーダーの一刻も早い目覚めを期待したいのだが...己の欲望にしか興味がない彼らの幹なるモノには血なまぐさい液が流れているに違いない。

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今日の神田川

2025/03/28
【第2015回】

今年も野球の季節がやってきました。大リーグは一足早く東京でプレー、人気球団ドジャースの来日で大変な盛り上がり。お目当ての大谷選手のホームランも華を添えました。そして、今日、本拠地でタイガース相手に接戦を制し開幕から3連勝、この日またしてもファンの期待に応え翔タイムホームラン。この人はもはや人間ではありませんな...野球の神様が、この苦難の時代に遣わした使者としか思えません...髪もスッキリ、野球小僧みたいな風貌で弾丸ライナーを飛ばすんですから観客にとってはたまらん選手ですバイ!それにしても、ベースボール本場の球場での光景が素敵ですね。グランドに家族共々の始球式、試合終了後も選手と家族がグランドで記念写真撮ったり談笑したりと自由奔放な雰囲気がいかにもアメリカらしい。トランプもさすがに野球には口出ししないと思いますがね...

さて、日本のプロ野球も今日がスタート。なんだか大リーグ人気に少々押され気味なんですが、ここはひとつ頑張って欲しいところですね!ちんたら野球が一番いけませんね、実力が伴わない選手ほどスピード感に欠けます。日々大リーグの中継が放映されているので学習して欲しんもんでございます。

今年のライオンズ、各評論家の予想ではいずれも4位、5位という予想ばかり。オープン戦では12球団中2位の成績、投手、打者ともどもなかなかの数字を残しているにも関わらず評価が低い。ここは昨年の悔しさをバネにして予想を覆して欲しい!おいら的には、今年のライオンズはかなり上位に食い込んでいくと思っています。昨年は、はや5月で終戦だっただけに今年は最後までワクワクする戦いを期待していますよ。

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今日のサクラ

2025/03/26
【第2014回】

昨日は映画「ウィキッド 二人の魔女」を鑑賞。当たり前のことだが、やっぱり映画は映画館で観なきゃ本当の良さは分かりませんね...ウィキッドの原作は1995年に発表された小説。そして、2003年にブロードウェイ、2007年からは日本では劇団四季で演じられ、今も上演される人気の舞台である。実は2004年に映画化の話が出たけど、いろいろから先送りにされたらしい。それにしても、芝居は勿論、歌、踊りの質と量にただただ圧倒されるばかりだ。何と言っても、ダブル主演となるシンシア・エリヴァとアリアナ・グランデのやりとりに目が離せない。人気者と嫌われ者、真逆の2人の女性がお互いに反発し合い、そして友情を深めていく姿がストーリーの軸である。さらにそこに普遍的な差別や正義、歴史に対する批判など今尚続く社会問題も盛り込みながらさまざまテーマが描かれている。ただ、多様性をとりあえず差し込みましたみたいな作品ではなく、それらを包括した内容はある種哲学としても読み取れる深さだ。

そして今回の映画のリアル感は、録音ではなく、現場での歌唱でお互いに戦おうとした姿。通常ミュージカル映画は、踊りながらの芝居であるため歌は録音したものを使用するのだが、二人の思いを込めたナマの表現力が3時間近くの作品なのに最後まで飽きさせない。

 

一昨日のサクラ、今日見事に咲いていました。今週の週末が満開、サクラ見物で大賑わいでしょうね。東京は花冷えなので暖かくしていかないと体調崩しますからご用心。

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サクラサク

2025/03/24
【第2013回】

サクラ開花宣言を今か今かと待つ人達のワクワク感が、なんだか暗いニュースが連日流れる中、大谷選手の動向ともどもたまらないですね。一年に一度の恒例行事といえ、満開のサクラを見上げながら古代の時代から、今ある幸せに感謝の思いを託したのではなかろうか。

この時代、サクラも多種多様で早咲きのサクラも良いのだが、やはり花の美しさや華やかさが抜きん出てるソメイヨシノが横綱でしょうね。この品種の花言葉は「純潔」、これは花の美しさを上品な女性に例えたと言われています。

先週の土曜日は中野にあるザ・ポケットで上演された劇団温泉ドラゴン第19回公演「痕、婚、」(こん、こん、)を観劇。関東大震災に起きた朝鮮人大虐殺事件にまつわる物語でした。

この話は、今までにも舞台、映像を通じて悲惨な歴史、とりわけ日本人の偏見、差別の 問題として取り上げられてきました。差別、偏見、人であるならば誰しもが持ち合わせている負の部分です。だからいつまで経っても「歴史は繰り返される」なるものが延々と続いています。この負の部分をいかに己の中で希薄にしていくか...と分かっていながらなかなか成就できないのが、それぞれの環境、事情、思考などが絡み合って生きているからだと思います。そして時の権力者が、その負の部分を巧みにコントロールして戦争という最悪の筋書きを作り出していきました。

ガザの惨状、ウクライナの先の見えない不安...そんなニュースを日々見聞きするこの時期、淡く色鮮やかに咲き乱れるサクラに世界平和の思いを託したいものですね。

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アシタヒラクカナ

2025/03/21
【第2012回】

昨日は、地下鉄サリン事件から30年...あの日の惨劇は今でも忘れることが出来ません。洗脳がいかに怖いかを改めて考えさせられた事件です。亡くなった人は勿論、今尚後遺症に苦しむ人達の姿を見る度に麻原以下、幹部の者たちの責任は死刑になっても許せるものではありません。その者たちのほとんどが高学歴の知識人、研究者であったことも、この国の教育システムがいかに偏狭であったかが問われているのではないか...なのに、未だ小学生から塾に通い、有名校を目指す青白き子どもたちを目にする度に心が痛みます。そんな人に限ってカルトに嵌ってしまうとは思いませんが、受験地獄に陥った者の落とし穴のひとつなのかも知れません。

 

それにしても今週は大リーグの日本での開幕戦で大盛り上がり。ドジャースに3人、カブスに2人の日本人選手、そしていずれも超一流の選手、それに本場のスピードとパワーに溢れる選手が一同に集まってプレーするのですから、野球ファンにとっては夢のような話です。そして、皆が待ち望んでいるホームランをいとも簡単に魅せてくれる大谷選手。今年もこの人から目を離せない一年になりそうですね。ドジャースの選手に鮨振る舞ったり、為すことすべてが優良すぎて何だか心配すらしてしまいます...だって人間完璧じゃないから面白いんじゃないですか?ここまで完全無欠だと、ひょっとしたら神様が送り出した人間としてのお手本。いろんな意味で、彼の一挙手一投足は興味の的であり目が離せんませんね。

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そろそろだね...

2025/03/19
【第2011回】

昨日は久しぶりに帝国ホテルに行ってきました。一般財団法人光文文化財団が主催する第28回鶴屋南北戯曲賞の授賞式がありました。トムでも今までに6本の作品を依頼した古川健さんが見事受賞。2002年に大学仲間と共に創った劇団チョコレートケーキの座付き作家であり、これまでにも読売演劇大賞、紀伊國屋演劇賞など現代演劇に新たな歴史を刻んできた注目の劇作家のひとりです。

彼の作品は一貫して、あの忌まわしい戦争に突入していったすべての日本人とはいったい何だったのか?数年前に注目された古典的名著「歴史とは何か」でE・H・カーは、歴史とは現在と過去の対話であると述べている。古川健が演劇を足場として試みていることは、対話の延長線上に、いまだ戦禍に塗れた世界を救うヒントがあるのではないかと...膨大な史実、資料を前にしながら身を削って机に向かう彼の姿が目に浮かぶ。

受賞の挨拶で「当たり前のことながら戯曲は一人では作り出せません。戯曲を演劇に立ち上げてくれるすべてのキャスト・スタッフを信じなければ、一文字だって書けるものではないのです。ですから、この度の受賞も、いつも創作を共にしてくれている、仲間全員での受賞であると考えています。」

そうなんです。芝居は総力戦ですが、なんといっても基本中の基本が戯曲です。おいらもこれまで一番重要視したのが台本です。この作品が或る水準以上に行けるかどうかは上がってきた台本でほぼ決まります。劇作家の弱体化は演劇そのものの存亡を意味します。

経済的にも決して恵まれない状況下で、命を削って日々言葉と格闘している劇作家の皆さんを応援していくのもプロデューサーの仕事なんです。

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おめでとう!

2025/03/17
【第2010回】

再々演の「モンテンルパ」、昨日、無事東京公演を終えることが出来ました。ここのところ天気の変化が激しく、昨日も冷たい雨が降りしきる中、多くの方が両国シアターΧ(カイ)に来ていただき満席での千秋楽でした。この厳しい世界状況のなかで、戦争にまつわる話を演じる俳優としては、かなりのプレッシャーを感じるのではないか...演者の戦争そのものに対する見識、解釈などが役を通して見えてくるのも当然であり、どのスタンスで演じているのかが透けてくる。

今回はその点、出演者5人がその辺りの機微を素早くとらえなかなかいい芝居に仕上がっていたと思います。大和田獏、島田歌穂さんのベテラン俳優の誠意溢れる演技はしっかりと地に足が着いていたし、この芝居の幹なる部分に人間としての生きるべきすべてが注ぎ込まれている思いがしました。

真山章志、カゴシマジロー、辻井彰太さんの3人は、複数の役を演じ分けるという難役をそれぞれに工夫しながら演じていました。おいらも稽古場で気になっていた点は何度かアドバイスしたのですが、本番ではしっかりと修正されていました。これも、3人がこの芝居を今なぜ上演すべきかの真意を感じ取っていたからでしょう...正直言って、劇団であれば一人の役者が何役もやるなんてことはなかなか無いのだが、少人数でも成立させられる演劇の妙。勿論、制作側としても経費を抑えられる利点がある。この時代、全てにおいて利便性満載だからこそ、より少ないものでいかにクオリティの高いモノが創れるか?そこがモノ創りの面白いところでございます。

この芝居のラストで、渡辺はま子(島田歌穂)と、加賀尾秀忍(大和田獏)が交わす会話

 

はま子「二十一世紀には、この世界から戦争は無くなるでしょうか。」

加賀尾「...どうでしょう。」

 

この台詞は重い。

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三寒四温

2025/03/12
【第2009回】

昨日は、東日本大震災発生から14年目。いまだ避難生活を余儀なくされている人は、2万7615人。原発周辺の町、村は戻ってくる人も少なく見捨てられた状態です。昨日も、嘗ての村のお祭り、桜並木、自然に恵まれ日々幸せに過ごした時間を懐かしく話されていた人達の無念の表情が印象的でした。

なのに、東京電力のお偉いさん方にはなんの罪も科すことなく無罪の判決。かたや政府は原発削減のお題目を消し去り、更なる原発増設を打ち出す有様。一体全体この国はどうなっているんや!と言いたい。今も国会開会中、与野党共々駆け引きに躍起となり所詮党勢拡大のために右往左往してる姿が見えるだけ。ほんまに国の未来を真剣に考えているんだったら、与野党どちらでもいいから一刻も早く議員数削減の提案をしてくださいな!大臣のたらい回し、いきなり大臣に指名されても専門職じゃないので官僚のロボットでしかない存在。無駄な議員が血税で優雅な暮らししているのにいまだ許容される不可思議な世界が続いています。やっとこさトップになれた方もそれなりに汗かいているんだろうけど、いまいち覚悟がないね。蚊帳の外に置かれていたときの理想論が懐かしく思ってしまいます。

いずれにしても被災列島日本、何回被災しても学ばない政府、行政に腹たちますがな...

未だ行方不明になった妻を探しに、潜水士の国家資格を取得し海に潜って捜索する男性の姿を為政者はどう感じてるんだろうか?人の痛みをわがことのように思える人が国を治めてもらいたいのだが、どうやら見果てぬ夢なんでしょうかねこの国は...

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弥生の空

2025/03/10
【第2008回】

先週の週末、新宿御苑にあるシアターサンモールでMUSICAL「O.G.」を観劇。2016年にキャパ80席の劇場でスタートした阿知波悟美さんと、旺なつきさんによる芝居です。両ベテラン女優が自分たちのやりたいことをやる!という強い意志でスタートしたに違いありません。俳優の仕事は基本的に待つ仕事なんですが、待ってばかりだとあっという間に人生終わっちゃいます。この芝居は阿知波さんが企画したそうです。トムでも2023年に上演した「沼の中の淑女たち」で、出演者の一人が病気で降板した際に急遽引き受けて頂き10日間ばかりの稽古で見事な芝居を魅せてくれました。帝劇のミュージカルから小劇場にわたるまで幅広く活躍されている実力派女優の一人です。

今回の芝居は新宿歌舞伎町から舞台は熱海のスナックへと変わります。二人が再会し物語は17曲の歌を交えて進行していきます。決して若い年齢ではない二人(オールド・ガール)のパワーは半端ではありません。歌詞の中にも、今置かれた状況を面白可笑しく哀しい言葉が発せられます。同世代の女性観客にしてみたら共感と共に、まだまだ頑張って生きて行かなきゃ!なんて気持にさせられますね。

 

今日は1945年3月10日の東京大空襲から80年が経ちました。犠牲者は、推定で10万人以上。実は80年たっても犠牲者の遺骨のほとんどは名前がわかっておらず、今も、都内の施設に安置されています。過去の悲惨なこの事実を、この目まぐるしい世界の状況下なかでも忘れてはならないと思います。

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今日の神田川

2025/03/07
【第2007回】

来週、15日~16日、2日間、両国シアターΧ(カイ)で上演する「モンテンルパ」の稽古が始まりました。初演はコロナまっただ中、観客数制限付の2021年1月でした。無事に公演が終わったときの喜びは今でも忘れることが出来ません。再演が2024年2月東京、東北併せて20ステージ。そして今回が再々演、公演を重ねる度に芝居が立体的になってきたと思います。特に再演時、台本を大幅に改訂したことによって日本軍の加害者としての立場を鮮明にしたことが大きな要因。戦争の本質そのものが加害者、被害者で成り立っています。

と言うことは勝者、敗者いずれもなんの得もない不毛の消耗戦。なのに、未だ一部の独裁者の独善的な思想、行動で世界を不安に陥れています。

先日、ある若い演劇愛好家の女性と話す機会がありました。彼女曰く、「戦争に関する芝居は極力観ないようにしていました、なぜなら辛く悲しくなる...」そんな彼女が、「おばぁとラッパのサンマ裁判」を観て気持の変化が起きたとのこと。要は創り手の創意工夫ひとつで悲惨な光景さえ、未来を見据えた希望へと変貌出来うると...芝居の可能性を感じます。歴史的事実を芝居のチカラで観客の想像力を喚起させる時空間にしてしまう。

今回は短期間での稽古になりましたが、キャストの皆さん初日から立ち稽古ながら台詞がばっちり入っておりました。今年は戦後80年という節目の年、そしてウクライナ、ガザなど一触即発状態。演劇を通して、少しでも平和な世界にしたいという気持の表れだと思います。

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晴天の白梅

2025/03/05
【第2006回】

新宿アルタが、つい先日2月28日をもって閉店となりました。アルタのまえは食品百貨店二幸ビルが建っていました。1970年前後はその前のグリーン広場ではヒッピーがたむろし道行くサラリーマンに自由奔放さを見せつけていました。その周辺では日々、人だかりができ政治、社会、芸術などなど、それぞれがそれぞれの意見を述べ合い、これからの国の在り方やら国際情勢を語り合っていました。時には、殴り合い寸前なんて過激な論戦もありました。今からでも遅くない!なんとかすればマシな国になるという熱気が漂っていました。

その後、1980年に二幸跡地にスタジオ・アルタがオープンし新宿広場の熱気も冷め穏やかな場所と変わりました。1982年にはその後32年続く長寿番組「フジテレビ「森田一義アワー 笑っていいとも!」が開始。皆勤するタモリさんの姿も度々見かけましたね。アルタビルの裏側にあった楽屋口にはその日出番があったゲストを待つ出待ちのファンがたくさんいました。おいらはその少し先に会ったジャズ喫茶DIGに一目散、たまには同じビル1階にあったロールキャベツの店アカシアで舌鼓。

おいらも新宿ぶらぶら散策60年。この広場で見た光景そのままが時代の趨勢そのものでした...今は無味無臭、多くの外国人が新しく出来た3Dで写し出される猫のビジョンを眺め新しい街新宿を闊歩しています。そういえば怪しげな輩も少なくなりましたね...新宿の面白さは得体が知れない変人奇人が自由に徘徊する街でございました。

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さようならアルタ

2025/03/03
【第2005回】

今年の「おばぁとラッパのサンマ裁判」3月2日大阪で無事千秋楽を迎えることが出来ました。東京公演後、千葉、長野、茨城、福井、和歌山、そして大阪。なにせこの季節ドカ雪注意報で交通手段に悩まされました。新幹線のチケットは取ったものの、ストップすれば次なる手を打たなきゃならないし、大道具を運ぶトラックの運行状況にも一喜一憂。幸いにして全て予定通りに公演が出来、あらためてこの芝居にかかわったすべてに感謝です。

そして雪の中、各会場に来て頂いた地元の観客の皆様にはただただ頭が下がる思いです。そして何よりも、「初めて観た芝居がこんなに面白いものだとは知らなかった...これからも観続けたい!」なんて声が返って来ると、こちらもよっしゃ!となるもんでございます。

しかしながら、今回の公演、後半になりスタッフのなかに食あたりなど発生しハラハラドキドキもありました。と言っても、地方公演の楽しみは何と言ってもその土地の美味しいものを食べることは外せません。後半ともなると厳しい旅行程の中、心身共に疲労のピーク、体調万全でない時期の慣れない美食は身体が受け付けないのかもしれませんね。

先週の土曜日、久しぶりに新宿ゴールデン街に出かけました。相変わらずぶらぶらしている人の8割が外人なんですから、昔の面影は外観だけという有様。半世紀通い続けているおいらもなんだか遠慮しながらなんとか「ガルガンチュア」に辿り着きました。81歳になるママ石橋幸さん(通称タンコ)は元気でホッとしました。悪しきロシアではなく体制を批判した詩人など、古き良きロシアの庶民の歌を今尚歌いながら店を仕切ってる姿は嬉しい限りです。

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外国人に人気のゴールデン街

2025/02/28
【第2004回】

昨今、情報による功罪があちこちで話題になっている。昨日鑑賞した「ブルータリス」、もうすぐ発表される第97回アカデミー賞で10部門にわたりノミネートということで、上演時間3時間30分にかかわらず出かけました。いや、長かった、疲れた。

第二次大戦のホロコーストから生還したハンガリー系ユダヤ人ラ―スロー・トートーの伝記映画である。冒頭から不可解なシーンが現れる。アメリカの象徴である自由の女神が逆様に写されている、なぜ像は転倒しているのか?そのアメリカの実業家をパトロンとして、フィラデルフィアを見下ろす丘に一大共通コミュニティホールを建築する仕事を任される。その後、欧州から出獄できない妻とも再会できるのだが、彼女から送られた手紙「自由でないのに自由だと思っている者こそ、一番の奴隷である」この言葉のすべてがこの作品の意図ではないだろうか。

それにしても、ラ―スローがこの建築に託したものはエピローグで明らかになるのだが、いまいち明確ではない。彼は自由のために粉骨砕身闘った英雄か?それとも自由という名のもとに踊らされたピエロか?それともどちらでもない全く異なる別の存在か?いやはや、3時間半も付き合わされて主人公の分裂と矛盾を行ったり来たり、途中休憩15分があったから良かったもののぶっ通しの上映だったら足腰立てませんがな。

でも主人公を演じたエイドリアン・ブロティはさすがですね。2002年公開の「戦場のピアニスト」で史上最年少アカデミー主演男優賞受賞だけのことはあります。今回の長時間上映に何とか耐えられたのは、彼の内面から溢れ出る様々な感情の機微の見事さ。こんな役者を観れる楽しみが異国の映画には確かにありますね...。

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きさらぎ末日の紅梅

2025/02/26
【第2003回】

いやはや最初に観て、すっかり主演女優のジュリー・クリスティのファンになっちまったあの名作「ドクトル・ジバゴ」60年振りに再会。映画が娯楽の王者であった時代に相応しい全編3時間半の大作である。監督は「アラビアのロレンス」「戦場に架ける橋」でメガホンをとったデヴィッド・リーン。原作は1958年にノーベル文学賞を受賞したロシアのポリス・パステルナーク。この作品は第一次世界大戦とロシア革命という動乱の時代を背景に二人の女性を愛する医師ジバゴを軸に展開していく。広大なロシアが舞台であるだけに人員、美術、セット、そしてロシアの自然。当時は勿論VFXやCGなんかは皆無、人海戦術でシーンを創りあげた感動がスクリーンからビシバシ伝わってくる。18歳のおいらが映画に夢中になり、こりゃ東京に行かんと話にならんですばい!と背中を押してくれた作品のひとつでもある。それにしてもジュリー・クリスティ、罪深い女です。ジェラルディン・チャップリン(あのチャップリンの娘さんである)演じる奥様がいながらも、確かについつい惹かれていく魅力、こんな女性に出逢ったら最後、間違いなく人生狂わせること間違い無し。

若き日のアレック・ギネス、そして怪優ロッド・スタイガーの存在もさすがである。彼の「質屋」「夕陽のギャングたち」の演技は今尚おいらの記憶に深く刻まれている。

映画と言えばもう一つの主役であるメインテーマ。この作品を担当した名匠モーリス・ジャールによる「ララのテーマ」が良いタイミングで流れてくるので涙がチョチョ切れますばい。

勿論、主演男優オマー・シャリフのいつも潤んだ瞳で苦悩する姿がこの作品を支えている。

やっぱり映画は人生の師でございます。

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新宿西口の夕暮れ

2025/02/25
【第2002回】

先週の週末は、中野スタジオあくとれにて劇団ぼっかめろん第34回公演「星の王子さまHollywoodに行く」を観劇。主宰者倉澤周平、出演者の一人小林達雄はおいらが若い頃テント芝居やっていた演劇群走狗の戦友だ。それにしても二人とも老体鞭打ってよくぞやってるなと感心した次第です。達ちゃんの芝居の案内状のなかにこんな言葉が記されていました。

「ここまで演ってきたことは確かなのですが、その来し方になんの手応えもないし、なんの実感もないのです。いたずらに時間が流れ過ぎてきただけで、実はなにもしてこなかったのではないかという気さえするのです。幕が下りると同時にすべてが消え、後には何も残らない芝居の性質のせいでしょうか。ここ数年、<消え時>を失って、これが最後をくりかえしオオカミ老人と化しています」

いかにも達ちゃんらしいなと思います。でも80過ぎてもなお舞台に立ち続けきりりとした味のある芝居をしてるんですから立派です。筋が通った一人の男の生きざまを見せられる思いです。人生何が幸せか、大切か、こんなこと人と比べるものではありません。舞台で己の身の処し方を晒す行為なんて誰しもができることではありません。命果てるまで舞台に立てるなんて、ある意味うらやましいことですよ。

昨日までの寒さもおさまり、今日は春を予感させる天気です。あちこちに咲き始めた梅の花と鳥もなんだかウキウキしています。

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メジロとウメ

2025/02/21
【第2001回】

久しぶりに読後感がよい本に出逢った。第172回直木賞受賞作、伊与原新著「藍を継ぐ海」。地球惑星科学を専門とする研究者から作家に転身した異色の作家である。一話独立五つの短編シリーズなのだが、地方を舞台に科学とは縁がないと思っていた人が、科学を嗜好する人と出会い対話することで、それまでとは全く違う視点から人生を見つめ直し新たな一歩を踏み出していく展開。現代人が科学知識や科学的思考を駆使しながら、地方の歴史や伝統を未来に繋げようとする試みも読み物として秀逸である。

科学知識と地方に住むごくごく普通の人たちとで紡がれる人間ドラマのなかに、今現在、町、村、限界集落などなど、この国の未来像のヒントが隠されている。

この五編、皆読みどころがあるのだが、おいらは最後の「藍を継ぐ海」に感銘を受けた。徳島県の南東部に位置する架空の阿須町にやって来るウミガメを巡る話。年毎減少しながらも浜に帰って来るウミガメに対し

「どの浜に帰るかは、カメさんたちが決めること。気に入った浜には帰るし、気にいらん浜には帰らん。保護したいとか、増やしたいとかいうても、人間はまだそこまでウミガメのことを知らんと思うよ。人間の考えるとおりには、なかなかならん」

「もし浜が見捨てられても、何百年後かには浜も自然ときれいになっとるやろ。そしたらカメさんのほうで、勝手にこの浜を見つけてくれる」

どんなに科学が進歩したとしても、この世に無垢なる魂を持った人がどれほどいるかによってこの地球の寿命が決まる予感を感じさせてくれる小説である。

2001回目の夢吐き通信です。よっしゃ!3000回を目指しまっせ。

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春を待つヒヨドリ

2025/02/19
【第2000回】

なんと今日で「夢吐き通信」2000回となりました。振り返ってみれば2002年に書き始めたのですね。トム・プロジェクトのホームページを覗きに来て頂いている方々に少しでもトムの動きを知って貰いたいと言う気持で筆をとりました...タイトルは社名吐夢にちなんで付けました。おいらのキョロキョロ人生を言葉にしたブログですね。人として生きていること自体が奇跡みたいなモノですから、その日目にし、感じたことを素直に表現したい。日々新鮮、日々発見と言う言葉が好きです。

「街は劇場X激情」というタイトルで新聞に連載したときも、人との出逢いを中心に、おいらの感性にフィットした事柄を好き勝手に綴りました。思いは言葉にしないとわからないこともそうですが、一瞬一瞬の過ぎ去った時空間をコンパクトに掬い取ってみたい。

途中から写真も掲載しました。視覚に訴えるチカラも捨てがたいものがあります。目に留まった風景を己のセンスで切り取るのも楽しい作業でした。そして読んで頂いた方がそれぞれの想像力を駆使して感じて欲しい。

継続は力なり!飽きっぽいおいらがここまで書き続けたことに正直言って驚いています。これから先、どこまで継続できるかどうかは分かりませんが、頑張らずに今まで同様気楽に書いてみようと思っていますのでよろしくお願いします。

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春を待つクロッカス

2025/02/18
【第1999回】

先週の週末は吉祥寺シアターに出かけました。今から20年前にオープンした時、こけら落とし公演に呼ばれ、鄭義信作・演出「カラフト伯父さん」、ふたくちつよし作・演出「ダモイ~収容所から来た遺書~」の二本、連続公演をしました。武蔵野市はもともと文化に理解がある地域で東京都の中でも一番住みたい街として人気があります。演劇を通してより盛り上げていこうという姿勢においらも賛同した次第です。

今回、上演された芝居も若い俳優を中心とした枠組みにコンテンポラリーダンスを取り入れ、活気溢れる吉祥寺の街をよりイメージアップしていこうという試みだったと思います。

18人の男女が身体を駆使し、あらん限り声を絞り出し演じていました。おいらも30年プロデューサーやっていますが、一生懸命、汗水垂らしてなんてことは当たり前のことです。表現の世界ほど、まして役者なんて良し悪しにどんな基準があるのかかなり曖昧だと思います。音楽、舞踊の世界はあるていどの判断がつくのですが、こと役者に関してもヘタウマなんて言葉があるようになかなか難しいモノがあると思います。

そんな玉石混交のなか、この世界で役者として生きていける人達を見いだすのもおいらの仕事です。今回、トム所属の佐々木優樹君も出演者の一人でした。ひいき目ではなく彼が一番の才気を感じました。小柄で童顔でありながらなにかやってくれそうな役者ぶりでした。

いつもながら貴重な時間を使っての観劇、ひとつでも発見があれば十分です。考えてみればこの世の中完璧なモノなんかありません。何事も発展途上だからこそ面白いかもしれませんね...

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寒波襲来

2025/02/14
【第1998回】

下條アトムさんが亡くなりました...アトムさんと出逢ったのは2001年、おいらの若い時代の芝居仲間である高橋美智子(彼女も今年1月に亡くなりました)が書き上げた戯曲をおいらがプロデュースし、アトムさんに出演依頼したのがきっかけです。演出はテレビの世界で数々の話題作を演出したW氏を指命。彼の意外性、キャラクターに既成の演劇にないモノを期待したはずだったのですが...稽古場での馬鹿でかいダメ出しとオヤジギャグの連発で稽古場の雰囲気は盛り上がったのだが、この世界で良くある若い女優さんに手を出しそうな行為が発覚。おいらは彼に一喝「演出家として退場!」その途端、知名度を武器にワイドショーに出まくりおいらに恫喝されたと吹聴する始末...そんなごたごた騒動のなか演出を買って出てくれたのがアトムさん。この力強い一言でキャスト、スタッフが一丸となり「輝く午後の光に」銀座博品館での公演無事に終えることが出来ました。

これがきっかけで、アトムさんの方から舞台をやりたいと言うことでトムに所属することになりました。その後、「とんでもない女」「ダモイ~収容所から来た遺書~」ひとり芝居「思ヒ出ニ、タダイマ!」「欺瞞と戯言」「裏小路」「沖縄世うちなーゆ」の舞台出演。時折、彼特有の個性、声を活かしての市民からの様々な感謝の手紙を基に構成した「ありがとうの手紙」などなど、トムの創成期に力を貸して頂きました。

アトムさん繊細な人でした。折に触れ演劇論も戦わせました、彼独特の拘りが末永くこの世界で生き残って来たのだと思います。

闘病中にお見舞いに行ったときに朦朧とした記憶の中、「アトムさん、又芝居やりましょう!」と声を掛けると、この時ばかり目を輝かしながら「うん!」と答えていました。24年前にアトムさんに出逢って良かった!そしてありがとう...アトムさんとの数々の想い出はおいらの宝物のひとつですよ。

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おつかれさまでした

2025/02/12
【第1997回】

いやいや演劇三昧、怒濤の日々の連続でございました。トムの「おばぁとラッパのサンマ裁判」が3日から9日まで7ステージ、10日は浅草九劇で昼間に「日の丸とカッポウ着」、夜は吉祥寺シアターで「女性映画監督第一号」、11日は座高円寺で「おどる葉牡丹」を観劇。こんなに毎日芝居観てると好きな芝居も嫌いになりますがな(笑)勿論、演じる方はもっと大変でしょうが観るエネルギーも相当な覚悟がいります。後期高齢者となれば劇場の椅子の質によって腰の負担もかなり厳しくなってきます。小劇場系統の席は大劇場のゆったり高価な椅子と違って、パイプ椅子同等のものが当たり前で時折身体の位置を変えねば固まってしまい劇場を後にする姿は見るも無惨な歩きとなってしまうという方もございますことよ。

今回、全体的に感じることは若い役者さん皆器用に演じてることにビックリしました。確かに上手い、隙がない、達者である...でも、いまひとつこちらにその演技が響いて来ない。今の若者の生活環境からきていることは紛れもない事実だ。あらゆるジャンルの音と映像に囲まれ、様々な情報を手っ取り早く仕入れ、なにひとつ手に入らないものがないという便利さが器用さに繋がっているのでは...不便極まりない時代のなかでの俳優修業を強いられた者は、その足りない分野を埋め合わせるために想像力を感興しながら駆使したに違いない。

昔から不器用な役者ほど、何とも言いようのない存在感を示していたような気がする。そんなに早く上手さ器用さを求めるな!己の固有の心身に無駄なモノこそ引き受け、十分に咀嚼、熟したものを表現して欲しい。

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浅草路地裏からのスカイツリー

2025/02/10
【第1996回】

昨日、「おばぁとラッパのサンマ裁判」新宿紀伊國屋ホールで無事に東京公演千秋楽を迎えることが出来ました。プロデューサーとしては日々戦々恐々、メールや電話がかかってくる度にドキリ。キャスト、スタッフのなかからのインフルエンザ、コロナ感染、事故の知らせではないかと心配の毎日でした。この報が流れた時点で芝居は中止せねばなりません。ライブはこれが一番怖いのでございます。幸いにして今回のメンバーの細心の注意と集中力で何とか乗り越えることが出来ました。昨日は3度のカーテンコールがあり、客席も大いに盛り上がりまさしく千秋楽に相応しい舞台だったと思います。

この芝居、沖縄が舞台の芝居だけに多くの沖縄の方々が観客として来て頂きました。皆さん口をそろえて沖縄公演を実現して欲しいとおっしゃっていました。地元沖縄の人達にそう言って頂けると言うことは、我々の沖縄に対する幾重の思いが伝わったんだと...と言っても、未だに地位協定の問題ひとつにしても石破、トランプの初対談でも話題にもならず、悔しい思いをするばかり...でも、今回のサンマ裁判同様、負けても負けても何度でも諦めることなく主張するしかありませんね...芝居も然り。

この芝居、これから千葉県野田市、長野県上田市、茨木県つくば市、福井県越前市、和歌山県有田市、大阪府富田林市で上演されます。ご近所の方々、是非劇場に足を運んでより沖縄を感じて頂ければと思っています。

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今日のメタセコイヤ

2025/02/07
【第1995回】

昨日で4ステージ無事に終えることが出来ました。概ね好評でホッとしていますが、芝居の捉え方は人それぞれ、ラストの締めくくり方が今の沖縄の現状を鑑み楽観的では無いかとの意見も当然あることでしょう...確かに歴史を振り返ってみれば、明治維新の際に琉球処分で統合された沖縄県で当時の言論人である伊波月城が教育を始めとする沖縄人蔑視を巡り政府を批判。本土での大正デモクラシーと共鳴し列強に脅かされていた中国、インドと連帯しアジアでの民族覚醒を呼び掛けた過去がある。

ただ見ての通り、沖縄はいままさにアジアでのチカラによる分断の最前線にある。敗戦後未だなお在日米軍基地が日本全体の70%を占め、なおかつ自衛隊の配備が着々と進められている。この中からどうアジアの可能性を見出すかが大きな課題でもある。アメリカ、中国、ロシアが大量の核を保有し身動きが取れない中、小国や限られた地域の当事者が今の状況を変えていくことが出来ないか...沖縄の人達は、戦争が起こればどんな悲惨な状況になるかは身に染みてわかっています。だとすれば、いかなる攻撃も許さないよう沖縄から非武装地帯を拡げていくなんて構想もありだと思います。

こうやって沖縄の芝居を上演していると、沖縄の知らざる歴史を探索したくなります。なんでも諦めてしまえば終わりです。だってほとんどの日本人が沖縄の今の姿に、許せない!と思いつつもそれ以上声をあげようとしません。沖縄の問題は対岸の火事ではございません。

見て見ぬふりしてると、そのうち大やけどしちゃいますよ。

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童子を待つ公園

2025/02/05
【第1994回】

「おばぁとラッパのサンマ裁判」2ステージ終えることが出来ました。ほぼ満員客のなか役者陣の個性溢れる演技も相まって好評の舞台になっています。今回の芝居、役者さんのプレシャーは半端じゃなかったと思います。テーマが沖縄、これまでの沖縄の人達の苦渋を強いられた背景を考えると、そう易々と演じることが出来ない。先ずは沖縄の現地の人達が日常に会話する言葉のニュアンスを察するところから入り、人物像に迫っていく過程は並々ならぬ関門。役者個々人の苦労話を聞く度に頭が下がる思いでした。

終演後のお客様の反応は上々。沖縄が日本に復帰するにあたり、サンマに関してこんな闘いがあったなんてビックリ。ある意味では沖縄の数々の歴史の中での隠された裏歴史。芝居を創る側としては、この歴史の闇に葬り去られた事実を掘り起こし演劇として成立させることが醍醐味のひとつかも知れません。

芝居の面白いところは、日々同じことを演じることがないという新鮮さ。まさしく芝居は生きモノ、瞬時に空気が変わり前の日に演じた光景が変質し新たなシーンとして誕生する。そのおもしろさを連日味わえるのもプロデューサーの特権です。だから止められないのかな...

昨日の役者さんのアフタートークもお客様十分に楽しんでいただけたみたいです。舞台と客席の一体感とてもしびれます。とにかく劇場に足を運んでくださいな!今までに見たことのない風景があなたの日常に変化をもたらせてくれるに違いありませんことよ...

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絶賛上演中

2025/02/03
【第1993回】

如月の季節がやってきました。おいらがこの世に生を受けた月です。1945年8月9日終戦前にソ連軍が満洲、朝鮮に日本との不可侵条約を無視して侵攻して来ました。おふくろのおなかに潜んでいたおいらは引き揚げ時の悪夢のような日々を感じ取ったに違いありません。そして奇跡的に1946年2月に博多港に引き揚げ誕生しました。生前、母は口癖のように言ってました。「戦争は勝っても、負けても悲劇...戦争程愚かなものはない!」なのに、今尚世界各地で争いが絶えません。いや、これは人類が絶えない限り間違いなく継続されるに違いない。

戦後80年、おいらと共に年を重ねていったこの年月感慨深いものがあります。トム・プロジェクトを創設して30年、何度となく戦争に纏わる芝居を創ってきました。何度も何度もしつこいくらい平和の尊さの声を上げても一向に戦争が止むことはありませんでした。でも、今生きてる者があらゆる手段を行使してでもアクションを起こさねばより劣悪な世界が予想されること間違いなし。

今年も戦争と平和をテーマにした芝居を4本上演します。その1本目「おばあとラッパのサンマ裁判」今日、初日を迎えます。劇場に足を運んでいただき、共に平和の大切さを感じていただければと思っています。

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如月の空

2025/01/31
【第1992回】

来週2月3日より公演の「おばぁとラッパのサンマ裁判」の稽古場に行って参りました。衣装つけての熱気溢れる1時間40分。とにかく沖縄の熱い風が流れとても心地よい舞台になりそうな予感がしました。おいらもこれまで随分と沖縄に関する芝居を観てきましたが、どうしても戦中戦後を通じて当然のことながら沖縄の虐げられた現状に対する怒り、悲しみに焦点が当てられ重苦しい舞台が圧倒的に多かったような気がしました。

今回の芝居は、庶民のささやかな食であるサンマをきっかけに話が展開するのだが、何故か明るい。沖縄の人達が最も大切にしている陽なる気質が全面に押し出され、観てる側もなんだか応援団の一員になってしまう展開。それは、今回のキャストの醸し出す表現力の確かさがそうさせてるに違いない。勿論、戯曲、演出の手腕があってのことだが。

いつもながら、芝居の稽古は一筋縄ではいかない。稽古を重ねるごとに台詞の変更もあり、積み重ねたものを壊しては再度創る日々の連続である。まして今回の舞台は沖縄、方言をマスターしていくのもなかなか至難の業である。あの独特の沖縄の言葉のニュアンス次第で芝居も大きく変わっていく。そうした稽古の集大成として初日を迎える。そして観客に対峙してまた新たな発見を見いだし更なる進化を遂げていく...だから芝居は面白いのだ!

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冬の公園

2025/01/29
【第1991回】

一昨日のフジテレビの実況中継は何なのですかね...10時間も超えるダラダラ質問と回答。この国の混迷ぶりを象徴するような事態でございました。質問するジャーナリスの頭の悪さ、理性を失った輩の汚いヤジ、勿論フジテレビ側のガバナンスの悪さから発した事案なんですが、70歳超のオジサンたちの疲労困憊ぶりを観てると居た堪れない気持ちになってきます。

この時代、やはり早めの世代交代をしないと時代の流れに追いつけなくなってしまいますよ。そして、よりによってフジテレビ全盛時代を創り上げた87歳のドンが黒幕に控えてるんですからにっちもさっちも行かない状態です。ひな壇に居並ぶ5人の役員もとても逆らえませんなんて顔してましたね。

それにしても、今のテレビ局のあり方に問題があると思います。とにかく視聴率ありきの番組編成、この国のバラエティー番組の多さに呆れてしまいます。芸能人のどうでもいい話を何時間もダラダラと流し続ける神経がおいらにはさっぱりわかりません。そんなに視聴者をおバカさんにしたいのかな?とさえ疑ってしまいます。公共の武器を使ってるんだから少しはましな国にする良質な番組を企画制作してみたらと言いたいですね。

芸能人も普通の人間です。テレビ局が忖度し、勘違いし天狗にしちまったのかもしれません。視聴率ありきの選択ではなく、芸能人の人間性を見極めながらのキャスティングで企画制作すればおのずから視聴率はあがりますよ。

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神様、仏様、稲尾様の焼酎みーっけ!

2025/01/27
【第1990回】

先週の週末、下北沢ザ・スズナリで劇団ONEOR8「誕生の日」を観劇。この劇団は舞台芸術学院47期卒業生により旗揚げ、立ち上げから27年が経過しました。おいらも初期のころから観ているのだが、同期である劇団モダンスイマーズの演出家蓬莱竜太さんがやや先行していたのだが、この劇団の主宰者である田村孝裕さんはじっくりと市井の生業、人生観をじっくりと観察し、ここのところエンタメ性も交えながらの秀作を発表しています。他人の隙間に巧みに入り込み人間の業を含めて面白可笑しく描いているのが観客に受けている気がします。

トムでも2023年に「沼の中の淑女たち」を上演。田村ワールドがたっぷりと盛り込められ早々とチケットが売り切れとなりました。彼の演出はきめ細かく、粘っこく、適格なので女優さんにはとても人気があります。もとがシャイな人ですから、怒鳴ったり殴ったり(このご時世こんなことしたら一発でアウトです)なんて論外、理詰めで丁寧にダメだし(この言葉も今では厳禁、ノートと言わなければなりません。なんてこった?ダメ出しでよろしゅうございますと思いますが)する姿に惚れ惚れとするんでしょうね。

それにしてもザ・スズナリという劇場。雰囲気がありますね...トムでも昔よく使わせていただいたのですが昭和の香りがするなかでのアバンギャルドがとっても似合う小屋です。この劇場には間違いなく演劇の神様がおりますな。

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何をしたいのかな?

2025/01/24
【第1989回】

今年も1月から海外含めて波乱の幕開けとなりました。先ずはトランプ、何を仕掛けてくるか先が読めない指導者の誕生で世界は一喜一憂せざるを得ない状況が続いています。就任演説で「性別は男性と女性の2つだけ」と発言。多様性が社会問題になっている流れに水を差すこの言葉にトランプの超保守、更に言えば独裁者に匹敵するくらいの脅威を感じます。

確かに今回の結果は、エリート集団が牽引した民主党政権に対して地道に働く労働者がNOを突きつけたことから始まっています。移民国家である大国アメリカがどのような選択するかによって世界の状況は一変するという危うさを抱えながらの戦々恐々の日々がここしばらく続きそうですね。

一方、日本では連日フジTVの報道で一色ですね。それにしても画面で喋るお偉いさんたちいずれも悪代官みたいな面相してますな。TVはもともと庶民に楽しんでもらう側面と、権力に対してしっかりと監視し提案、提言するジャーナリストとしての役割があると思います。いつの頃からか権力と芸能事務所に忖度し保身に走る流れになってしまいました。今回の引退した人気者も、ジャニーズの亡き親分に人間としてまっとうに生きる術を教えてもらえなかったんじゃないかと思います。ここまで来る前に、自分の言葉で会見することなく「さよなら」はないでしょう。

この時代、すべての悪、嘘が洗いざらい白日の下に晒される流れになっています。生き残るテクニックなんてございません。誠実に実直に生きるしかありません...そうしないと人類は自ずから滅びてしまうこと間違い無しでございます。

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春を待つ枯木2

2025/01/22
【第1988回】

またしても訃報が入ってきました。新木安利さん。大分県中津で松下竜一、梶原得三郎さんと共に平和、環境問題に対して地道な運動を展開した仲間の一人でもあった。おいらが最初の会ったのは2006年、松下竜一さんの芝居をどうしてもやりたいということで中津に向かった。松下さんの御子息、梶原さん、そして新木さん、今この時代松下竜一さんの生き方、思想をより多くの人達に芝居を通して伝えたい旨、熱く語った記憶がある。そして2008年念願かなって「かもめ来るころ 〜松下竜一と洋子〜」を今は無き小劇場ベニサンピットの最終公演として上演した。ふたくちつよし作・演出、高橋長英、斉藤とも子さんに夫婦役を演じてもらった。もちろんご当地中津でも公演、満杯のホールであらためて松下竜一さん夫婦の生き方の素晴らしさを再確認した次第である。

その後、梶原さん共々松下竜一さんの未刊行の全集を出版したり、自ら多くの著作を出版。

いつも笑顔を絶やさず謙虚に発言される新木さんの佇まいが印象的であった。

2016年「砦」を公演した時には東京まで足を延ばし、公演の熱い感想文頂きました。

奥様からのお手紙でも「悔いのない人生だった...」と記されていました。己の信じる道、それも弱者の視点に立って行動する姿は見事だと思います。忖度なんてクソくらえ!なかなかできないことを貫いた新木さん、お疲れさまでした。新木さんの志は残されたものが引き継いでいきますのでゆっくり休んでくださいね。

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春を待つ枯木

2025/01/20
【第1987回】

日本にシェリー酒文化を根付かせた銀座「しぇりークラブ」のオーナである高橋美智子さんが亡くなりました。1986年にオープンし2005年には世界で最も数の多い227種類のシェリー酒がある店としてギネス記録に認められる店になりました。おいらは、54年ほど前に彼女と出会いアングラ劇団「走狗」で7年ばかりテント担いで全国を巡演していました。小柄ながら愛くるしい表情で、その当時のアングラ界でも人気のある女優さんでした。もともとお嬢さんですが、その当時は政治の季節ですから、時の権力に芝居を武器に敢然と戦いを挑むなんて激しい気質もありました。劇団解散後は、勘当されたお父様から泰明小学校のすぐ近くの店を任され、画廊とシェリーとスペイン料理を始めました。

シェリーと言えば日本では食前酒が定番だったのですが、スペインではワインと同等の立場にあることを主張し、世界で唯一の生産地であるへレスの蔵元と交渉しシェリー酒の有名店にしました。おいらも何度も足を運び、シェリーの何たるかを勉強させていただきました。でもおいらだってスペインに3年ばかり住んでいたのでシェリーは大好きなお酒だったんですよ。なかでも大変辛口でデリケートで軽やかな風味の「フィノキンタ」はいつもベッドの横に鎮座し、快適なスペイン生活に欠かせないものの逸品でした。アンダルシアの海辺の潮風を送り込んでくれる爽快感がありました。お供は生ハム...なんて想い出したら今からでも行きたくなっちゃうな!

「走狗」の仲間、島次郎、伊深宣、田島恒、そしてミーコ。おいらもそのうちそちらに行くと思うけど、もう少し楽しんでからにしますね。

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今日の神田川

2025/01/17
【第1986回】

今日は阪神・淡路大震災から30年、各地で追悼式典が行われていました。当時代々木に住んでいたおいらは、この日早朝の出来事は良く覚えています。戦争を知らない世代にとってはかなり衝撃的なことでした。その後、東日本大震災、そして昨年元旦の能登半島地震、いつどこかでこの規模の地震が起きてもおかしくない時代になりました。地震だけではありません、気候変動による度重なる災害。本当に地球が危ない!なのに止まぬ戦争、正直言って未来への明るい展望が見いだせない世界の現状。

今日も式典で、知事の発言、役人が書いたであろう文章を読んでいましたが、この知事に限らず政治家も含めて真剣に災害対策に取り組んでいるとは思えません。その一番良い例が原発再稼働の動きです。震災で未だ住めなくなった福島の町や村の現実を忘却の彼方に消し去ろうとする姿勢に怒りさえ覚えます。この国の30年、大企業優先の利益優先の政策を実施したにもかかわらず国力は衰退し、そのしわ寄せを庶民が負う、なんとも納得できないことばかりです。

こんな時は、松下竜一さんの「暗闇の思想」を読んでみると良い。「自分よりも弱いものを犠牲にしてまで恩恵を受けることに、何の価値があるだろうか。」この言葉に松下さんの一貫した思想が込められている。トムでも松下さんの原作を基にして2本芝居を創らせて頂いた。「環境権」いう言葉を旗印に反戦、反核、反原発へと草の根レベルでの活動を続けながら、地元中津を拠点に多くの記録文学を残しました。時折、おいらの本棚に並ぶ松下竜一さんの著作を手にしながらまだまだ諦めるわけにはいかないと励まされる日々であります。

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冬景色2

2025/01/15
【第1985回】

今年の大学ラグビー優勝を賭けた早稲田対帝京の一戦、13日に行われましたが帝京の底力を見せつけられた試合でした。早稲田、明治、慶應という伝統校に対して地道に強力なチームに仕立て上げた前監督岩出雅之氏の発想力が脈々と受け継がれていると思いました。俗にいう体育会系の嫌な部分を排除し、最上級の4年生に部内の雑用を任せ、下級生に余計なプレッシャーを感じさせないような環境にしたことが画期的だと思います。伝統校のマネをしても伝統校を追い越せないという発想転換の勝利だと思います。この日の試合も、練習試合、定期戦に敗れた早稲田に対し徹底した分析に基づいた戦略で終始ゲームを支配していました。何事もそうですが、地道に己を信じ、たとえ泥臭くてもまじめに鍛錬すれば自ずから道は開かれるという良い見本です。そして、大学ラグビーを盛り上げるためにも、この帝京の強さを打ち崩すチームが出てくることを期待しますね。

同じ日に、国立競技場では高校サッカー日本一を賭けた戦いが繰り広げられていました。

群馬の前橋育英高校がペナルティーキック戦の末に千葉の流通経済大柏高校に勝って7大会ぶり2回目の優勝を成し遂げました。おいらはサッカーよりもラグビー派なんですが、この日の試合はなかなか見応えがありました。1対1の延長戦を戦ってお互い譲らずPK戦になったのですが、なんと10人を擁する戦いになってしまいました。このPK戦何度見てもハラハラドキドキしてしまいます。蹴った方も受ける方も、その結果が残酷な気がします。

失敗した選手が一生トラウマになるんじゃないかと心配さえしてしまいます。

筋書きのないドラマ、これがスポーツの魅力です。これに勝るとも劣らない芝居創らんといけませんね!

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冬景色

2025/01/10
【第1984回】

今年こそ最下位脱出、優勝までいかなくてもいい試合を期待していたのに...ライオンズのキャップテンだった源田選手のスキャンダル。まあ完璧な人間なんているわけがないということを理解していても雲隠れはいけませんな。球界を代表する名遊撃手、仲の良い夫婦を演じていただけにその落差にほとんどの人がガッカリしたに違いありません。一刻も早く記者会見を開き、お詫びと今後のことを自らの言葉で話さないと人前でプレーできないと思いますがね。

それにしてもライオンズの選手は甘ちゃんが多いですね。一流の選手、銭を稼ぐのは練習しかありません。グラウンドにしか銭は埋まっていないことをしかと思い知らないといつまでもどんぐりの背比べで終わっちゃいます。昨年も山川騒動でうんざりさせられただけに、又してもという感じです。いまのうちに規律あるチームにしないと、ライオンズファンは、そして誰もいなくなった!なんて状態になっちゃいます。

一方、元ジャニーズのお方、この方も人前に顔を出しちゃんと話さないと消えてしまいますね。今までは芸能界を牛耳っていた巨大組織に守られていたんですが、すべてにおいて倫理観を求められる昨今、簡単には逃げられないことを自覚しないとあきませんな...

お天道様はどんな些細なこともちゃんと見ていますから、まっとうな生き方をしないとバッサリと切り捨てられます。背筋伸ばして正直に生きましょうね!かといって石部金吉みたいになっても困るし...視野を拡げてくれる遊び心だけは忘れちゃいけませんことよ。

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燃える初春の新宿

2025/01/08
【第1983回】

昨日は春の七草、芹、なづな、御行、はこべら、仏座、すずな、すずしろ、この響きを聞いただけでなんとも日本の原風景が目に浮かびます。この7種の野草・野菜が入った粥(七草粥)を人日の節句(旧暦1月7日)の朝に食べる風習が残っていたのですが、いまどれだけの人が食べていることやら...昨今の慌ただしいこのご時世、こんな風情に浸る時間なんてございません!なんて言われそうですね。

最近、若手作家の本二冊熟読。豊永浩平「月ぬ走いや馬ぬ走い」タイトルだけでも斬新、なんやろ?なんて思いながらページを開いていきました。沖縄琉球大学の現役学生作家で、地元沖縄の戦争を絡ませなんとも不思議な展開。戦争を知らない世代が織りなす世界は彼の想像力と、彼が尊敬するゴダール、大江健三郎の作品を参考にして疾走する新たな文学。

片や町屋良平の「生活演技」、演技する身体を描きながら社会の中で生かされる人間存在の本質に迫っている文体。その独自の文体で語られる不穏な物語だけに読者を選んでいる小説かもしれない。

この二作を読み終わって思い出したのが、井上ひさし氏の言葉「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをゆかいに、ゆかいなことをまじめに書くこと」

こんな小説が、実は書き手に取って一番難しいことではないかと思います。新しい作家が既成の文学にチャレンジする姿は大いに結構なのだが、読後にどれほどの言葉が身体に落とし込まれるのか...そしてその言葉は、その後の人生を決めかねないほど大切なものだと思っています。

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燃えるような夕焼け

2025/01/06
【第1982回】

あけましておめでとうございます。

今年も始まりましたね...昨年の元旦は能登半島地震で始まっただけに、正直何とか無事に年が開けてくれと祈っていました。といっても日本のみならず、世界は相変わらず混沌としていて心休まる日々とは言えません。今朝も北朝鮮がミサイル発射なんてニュースが飛び込んできました。いつ間違って日本本土に落ちてくるとも限りません。正月の風物詩に新たに外人観光客のコメントが多くなったのも、いずれこの国も異国の企業が土地を買収し従来の日本ではない風景を見ざるを得ない将来が待ち受けているのかもしれませんね。

今年の初興行。「おばぁとラッパのサンマ裁判」の稽古が始まりました。舞台は沖縄、沖縄と言えば戦後80年、基地問題、米軍の犯罪などなど、いまだ不利益を被っている沖縄の人達を見て見ぬ振りしてきた責任は重いと思います。芝居に携わっている者としても見過ごすことが出来ません。今回の芝居は声高に叫ぶのではなく、市井の魚屋のおばちゃんが「これおかしいんじゃない?」とシンプルに声をあげたことが最終的に沖縄返還に繋がっていった話です。民主主義はありふれた生活のすぐそばにあるんだよ!ということをいみじくも教わった気がします。

出演者も個性あふれた人達で、今までとは違った結縄の芝居が誕生する予感がします。

2月3日が初日です。新宿の紀伊國屋ホールに是非いらしてくだいませ!

今年も何卒よろしくお願いいたします。

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平穏な年でありますように